(女王の自室にて)
肝心の城は私の世界にある現代的な物ではなく、きちんと中世西洋の城と言った感じで、白を基調に屋根が縦長三角錐の紫と言った感じだが
(……うん、紫? いや、普通はその色はあり得ないと思うけど)
明らかに彼女の趣味だと分かる。もしかすると、魔法か何かで無理やり着色したのかもしれない。考えても仕方がないので城の前に居る兵士に声をかける。
「すみません、女王陛下にお会いしたいのですが、何か連絡は来ていますか?」
「やっと到着しましたか。ようこそ、キルカスパートス城へ!」
一人が敬礼して、私を出迎える。
「ささっ、どうぞ城まで同行いたします」
もう一人の兵士が城まで先導してくれた。城に入ると、一見した限りではブンターヒンメルの城とさほど違いがないように見える。
そして、引き継ぐように別の者が玉座の間まで先導してくれた。位置で言えば、北西に当たる。
(どうして北に一直線じゃないのだろう)
やはり、前世の人物像を考えても曲者と言ったところだろうか、中途半端な場所に玉座の間が配置されている。
私は案内した人に扉を開けてもらい、玉座の間へと入る。
(ここは普通なのか……)
今までの配置からして、左端や右端に玉座を配置すると言った奇行に似た何かをやりそうな雰囲気だったが、ここは普通に中央奥に配置されていた。そして、玉座にはヒルヴェア女王が座っていた。
「〝千城美結〟さん、対面では初めましてね」
「初対面の感じは全くないけどね、今までを振り返ると」
彼女ですらこんな心理なのに、私は前世の死後に対面したりと言うのもあった為、余計に何度も会っているような気しかしないのである。
「まあいいわ、それよりも……レポ、彼女が静菜と従姉の美結よ、紹介なさい」
すると、玉座の後ろから男の子が慌てて出てきた。上はチュニック、下は上衣と生地が同じズボンで、上下共に白地と金の装飾で統一されている。顔立ちはデンメルングよりも女性的な顔つきでやはり、静菜に似ている。
「初めまして、私はレポと申します。シーグル国王の次男にもなりますので、よろしくお願いいたします」
彼はお辞儀をするのだが、どこかぎこちない。どうしてだろうと思っていると
「私が貴女と口でやりあって、手が出てもおかしくないと言いましたら、このような態度になりました」
「いや、原因の人、私に謝って!」
私を怖い人だと刷り込んでいる。彼女は全く恐ろしい人だ。私が溜息をつくと
「今日から数日だけ彼女と話をしたいから、レポとキネルはここを離れていて問題ないわ」
どうやら二人だけで話したいらしく、家臣にも聞かれないようにと言う事なのだろう。そう思っていたら
「あら、別室に居ても私達の様子を確認する事自体はできますわ。今回は口を挟まれたくないから見るだけの状態で確認してと言う事よ」
(普通に考えれば、人の国に入っておいて完全な密談はないか)
どうも、彼女の事は平時における友人みたいに接しがちで、ついつい日常会話をする流れになってしまう。
(静菜の時はこれでも気を使ってるからね)
「それ、静菜には絶対に言わないでね。気を遣って話しているなんて言ったら傷つくわ」
そして、当然のように心の声にツッコミを入れてくる。彼女はああ、恐ろしい。
この後、彼女の案内で玉座の間の右奥の右側にあるドアを開く。そこは彼女の私室になっていて、玉座の間がどうして北西の位置にあるのかも理解する。
「有事の際はあのドアから外に出て、素早い対応をするのよ」
城の出入り口からちょうど反対側に女王専用の裏口があったからだ。やはり、キルカスパートスでの最強の戦力は彼女であろう。でなければ、すぐに外へ出る方法を作ったりしないのだから。
「そうだ、お土産なんだけど……」
私がどこに渡せば良いか考えていると
「それなら、私の収納魔法内の空間にお願い。一度実験してみたかったの」
そう言って彼女は収納魔法で空間を自身の近くに出し、私は渡す予定の土産を直接、魔法で送り込む事にした。
結果、彼女の収納魔法で生成した空間は数秒だけ大きく膨れ上がると、何事もなかったかのように元の大きさに戻り、やがては消えていった。
「後は城の格納庫に移したから、担当している人が仕分けするはずよ」
どこか嬉しそうな態度が出てしまっているので、彼女自身は収納魔法について前々から試してみたかったのだと予想が付く。
「後は風呂かシャワーなんだけど、そこのドアから入れば、脱衣場にいけるわ」
彼女が目線で示した場所は先ほど私室に入った場所から、さらに一直線に行った場所に配置されていた。
「先に貴女が入るといいわ、その間私が周囲を監視しているから。貴女の次は私が入るのだけど、その時は貴女が周囲を監視して欲しいからお願いね」
私が先と言う事なので、早速脱衣場へのドアを開いて中に入る。
(ここも慣れ親しんだ何かって感じだなぁ)
異世界感が皆無としかいいようがない。つまり、自宅でも普段使っている洗面所に洗濯機はないけど、風呂場は程よい広さの湯舟とシャワー、後はシャンプーやリンスにスキンケアの類など、こうなると地球での暮らしと大差のない状態である。
(便利なのは私も助けるけどね、水やお湯は魔法でどうにかしているみたいだし)
そう、ここは異世界で電気などを用いてではなく、全て様々な魔法で代用して、色々と動かしているようだ。ただ、やはり異世界感はないと思ってしまうが、その時
「そこにあるボトルに入っているのは一通り使って構わないから、使ったら感想を教えて欲しいわ」
魔法による音声だけが聞こえた。どうやら、ここにある異世界感の台無しなシャンプーなどは全て使用していいらしい。正直、ありがたかったりする。私の持参した携帯用のスキンケアではせいぜい肌をカバーするくらいの効果しかない。しかし、ここにある物はどうやって作ったのかは不明だが、地球で言うところのブランド化粧品と同等の品質で肌に合う人であれば、かなりの効果が期待できる。
服を脱いで風呂場に入り、三十分後。置いていたボトルの液体を一通り試用した私の髪は艶があり、指通りも良く、いつものように毛先も外側に広がっていない。肌はきめが細かく、潤いや透明感があると言うのを風呂場の中にある壁掛け鏡で確認した。
「いや、シャンプーとリンス、それにざっくりとしたスキンケアでここまで効果あるのはおかしいと思うんだけど」
何だか見た目が成人した時のように若返った気がする。もうすぐ三十七歳だと言う事を考えると……なぜか憂鬱になってしまった。
もう何だかどうでも良くなってきたので、風呂場から脱衣場に出て、用意されていた部屋着に着替えた。脱いだ服一式はなぜかなくなっていた為、彼女から聞くしかないだろう。とにかく私は彼女の元に戻った。
「あら、随分と若返ったじゃない」
「それは私に効くから本当にやめて」
最初の一言がこれである。気にしてると分かっていてわざと言っているのだろう。
「話は後で聞くから、私もシャワーを浴び終えるまで、周囲の監視をお願い」
入浴前の約束通り、私は彼女が脱衣場から出てくるまでは大人しく、透視魔法などを使って周囲を見渡す事にする。
結局、彼女が戻ってくるまで何事もなく戻ってきて、色々と話す事になった。
「風呂場にあったケア用品一式ってどう言った物なの? どう考えても普通の物とは思えないけど」
当然、私の質問は明らかに高品質のシャンプーやリンスなどのボトルに入っていた物への質問になる。すると彼女は入手方法を説明し始める。
「あれは私が空き時間を作って、様々な土地に自生している非常に強い効果のある薬草を一つずつ目で見てから摘み取っているの。それを色々と加工して、人間用として使える物にしてるの。中には細胞を活発にさせる物もあるから、そのまま使用すると虫から魔物に変わってしまうような代物も多く存在するわね」
私は人間用と言う単語をわざわざ強調しているところが、どう言った物を取ってきているかを大体察してしまう。要するに、本来は魔物退治に使ったり、逆に魔物を誕生させたりと、どう考えても人間には使うべき物ではない代物を人間レベルに薄めて、上手い具合に応用していると言う話だと率直に思った。
(あれ? 人間用でギリギリと言う事は私の肌って……)
「そうね、かなりの鈍感肌と言う事になるわね。まあ、私も同じような物だから心配しなくてもいいわ」
私に失礼な発言をしながら自嘲も含めた物である為、どう言葉を返していいのか分からなくなる。彼女は私の様子を見てクスクスと笑ってから
「大丈夫よ、間違っても今の加工品のまま、静菜に使う事はないから」
なぜか、静菜にも使おうとして心配していると勘違いされたらしい。もしかすると、静菜に似たような物を使った事があるのかもしれない。
「静菜の肌は見えてなかったけど、それはもう酷い物だったわ。私が貴女と映像で会った日、彼女の肌は至るところに闇の呪いが刻まれていたの。キネル達も服の上から気づくほどで、その日の彼女の入浴時にメイドのユーリ? に私の自作した治療薬を肌に付けてもらうようにしたわ。幸い、最初の薬が効いたから、半年後には体の傷が完治したのだけど」
静菜の両親からの虐待の傷はなぜか、呪詛を含んだ物だったらしい。おそらく誰も分からないけれど、両親の悪事と言う意味ではそれくらいはやりそうで、なぜか納得の行く物だった。後に彼らの結末を聞いて清々した事を未だに覚えている。
「それにブンターヒンメルの教皇と念話で会話したようだけど、貴女は静菜に対して気が淀んでいない事に気づいてないのかしら」
またまた心の声を読み取りながら、彼女が過去の整理に補足をする。心を読み取る事は今は置いて考えると
「そう言えば、普段から気分が悪そうだった静菜の苦しむ声が聞こえなかった気がする」
そう、それは私が初めて幼少の時に会った時から無意識の内に声にならない苦悶の声を発していた時からだから、少なくとも二十年は闇の呪い付きの傷を付け続けられていた事になる。それは母が保護してから、物理的に傷付けられないようになったとしてもである。
「だからあの時、ゴブリンのような獣二人は私が処分してから、あの魔神に後処理を頼んだの。そうでもしなければ、どさくさに紛れて永遠に解除不可能な呪いを付与する可能性も考えられた為ね」
(魔神が後処理? 今まで聞いた事ないけど)
どうして魔神が静菜の味方をしているかは不明で、今まで一度も会った事もなければ、存在も知らない物に私は困惑する。
「魔神と言うのはシーグル国に居る黒いウサギの事よ。今はもう、毎日一緒に居るようになったわね。以前は数日に一回、会いに行っている事を私も把握してるわ。毎日一緒にと言うのが今、シーグル国が抱えている問題に繋がるのだけれど」
どうやら静菜はまた、トラブルに巻き込まれているらしい。
初めて会った時もそうだったけど、小学校でクラスメイトから体操服に着替えたがらない事でいじめを受けていた時、加害者の男子が偶然見えた傷痕に気づいて、顔を青くしながら私に「これ、両親からされたんじゃねえのかよ」と通報と同時にいじめも無くなった事を覚えている。
軽微な物に関しては小学校の時からあったようで、それが私と母が色々と調べるきっかけになったのを今でも覚えている。
「おかしな話よね、あの子は二十年以上も苦しみ続けたのに、あの獣達は一分もなかったなんて、冗談にしては本当に酷い物よ」
当たり前のように答えが返ってくるので、私自身は心で思っているのか実際に言っているのか、正直分からなくなる。けれど、彼女の静菜に対しての思いと言うのは本当なのだろうなと言う思いは伝わってくる。
「まだまだ話したい事もあるけど、今日はもう休みましょう。貴女を同じ部屋に置いたのはあまりにも疲れてそうで疲労を少しでも取り除いてあげる為よ」
彼女から話を打ち切られ、それぞれのベッドで寝る事にした。
たった今まで、話をしていた場所はお互いのベッドの上に体を起こした状態で会話をしていた。場所自体も彼女と右側に付けるようにベッドが配置されていた。これは私が風呂場に居る間、家臣達に命令して音を立てないように設置してから部屋を出て行ったらしい。
そう言えば、社会人としての十年間、寝る間も惜しんで働き詰めだったので、疲労の蓄積もどれくらいの物なのか私にも良く分からない。彼女の言葉に甘えてゆっくりと休む事にしよう。
翌日、私が目覚めたのは昼過ぎだった。
「え、どうしてこんな時間まで寝ていたんだろう」
私が大学院を卒業してから昨日まで、一日たりとも寝過ごす日はなかったのに、それが今日になって途切れた事を気になっていると
「それは私が強めの催眠魔法で無理やり寝させていたからよ」
そう言って部屋に入ってきた女王は私に話しかける。さらに言葉を続けて
「後、どうしても疲れが取れていなかったようだから、寝る前に私の調合した薬を貴女の体に魔法で送り込んであげたわ」
ここで出てくる異世界要素。肌に塗ったではなく、魔法で浸透させたと言うのは普通の人間にはできない。でも、そう言えば体の調子はいつもより良い気はする。体が動かしやすくなった訳ではないが、朝起きると倦怠感や肌へのストレスは今はない。どうやって改善したの全く想像も付かないほどにだ。
「まあ、いいじゃない? 私が同室させる目的は貴女の疲れを取り切って、シーグル国の問題に取り掛かって欲しい為なのだから」
彼女は彼女なりの目的があって、行動をしているだけのようだが、静菜の居る国で問題が起こっている事が確定している事実を考えると、再び疲れが溜まる気がして落ち込んでしまう。しかし、彼女はその事を気にする様子はなく
「それよりも貴女はどうしてそんなに疲れているの? ブラック企業の奴隷のように働かされるようなタイプでもないのにどうして?」
どうやら、パワハラ上司に馬車馬のように働かされていると思われているようなので、訂正する事にした。
「いや、ただ単にやる仕事が多かっただけだよ。実は三ヶ月後に衆議院選挙へ出馬する為、環境省をやめたんだけどね」
「え、環境省を退職……その上、衆議院に出馬? 貴女は本当に何者なのかしら」
「これでも期待されていて、貴女も知っている前総理からの後継候補として出馬するの。そして、当選できれば現総理から副大臣として任に就くように密約をしてもらってるから、その準備の為にもどうしても忙しくなってしまうんだよ」
混乱する彼女に私はなるべく掻い摘んで自身の状況を伝える。すると、彼女は溜息をつき
「まさか、本当に〝異世界の女史〟になる未来が来るかもしれないなんて……これからも大変でしょうが頑張ってね。それと、今の話を聞いて放置しておく訳には行かないわ。貴女が地球に戻ったら定期的に私の調合する薬で体をケアさせてもらうわよ?」
ここに来て、まさかの提案。元の世界に戻って議員になってからのヘルスケアの継続的な支援は正直ありがたいので素直に好意を受け取っておく。
「それについては是非ともお願い。正直、健康を維持するのは難しそうだったから、本当に嬉しいな」
「別に良いわ。それよりも地球の総理と面会、する事になるのでしょう? でしたら、シーグルではなくこちらに静菜を連れて来てから行うべきだと思うの」
これでシーグル国での目的が分かった。彼女は娘として取り扱っている静菜を何らかのトラブルから守る為、私に連れてきてもらうと言う目的があると言う事。同時に取引まで成立させている事に彼女はやはり、油断できない人物だと改めて思った。
「今は貴女の疲労回復が最優先ね。後三日はこのような生活をしてもらうから、しっかり体を休めなさい」
それから三日間、私は昼に目覚め、彼女の自室でゆっくり過ごし、日常生活をして夜に寝るを繰り返した。
そして、キルカスパートスに来てから五日目の朝、私は普通に目が覚める。
「おはよう、今日は催眠魔法をかけてなかったから普通に起きれたでしょう?」
今日も何かが回復した感覚があるが眠気自体はない。おそらく、薬だけは私の体に送り込まれたのだろう。
「おはよう、確かにいつも通りの目覚めだね」
私は欠伸をしながら、眠気の有無を確認し、覚醒している事を確認した。
「問題なさそうね。シーグルの前国王と前妃には貴女が行く事を既に伝えてるわ。食事をしてから、あちらに行きなさい」
彼女が朝食をここでとるように念を押す。と言うのも、こちらの世界では基本的に食事は昼食と夕食のみで、私達の食生活である一日三食の文化がないからである。ブンターヒンメルに行った時は少し驚いたが、これはどこの国でもと言う事だったので、その時は泣きそうになった。
とにかく、私は彼女と二人で食事をして、いつの間にか荷物の中に入っていた転移時に着ていた物に着替え、私は城の入口に歩くまで家臣の人達にも挨拶をしながら城の前の広場に来た。
「静菜を連れ戻す時は玉座の間に転移するのよ」
「分かった。その時は受け入れ態勢を取っておいてね」
私は転移魔法を発動し、次の瞬間。女王達の前から姿を消した。




