異世界旅行の終わりと静菜の帰省?
女王との約束通り、私はキルカスパートスの玉座の間に転移した。
すると、玉座には女王である彼女が座っていた。
(これは私が出てからずっとここで待っていたな)
彼女がこうするのは数日間を共に過ごしただけで分かるほど、言動に終始滲み出ていたからである。静菜はと言うと、この国に来たのが初めてなのか、周囲を見渡している。私は女王に静菜を連れて戻った事を伝える。
「約束通り、連れて戻ってきたよ」
「おかえり。そして、お帰りなさい、静菜」
私に一言挨拶した後、静菜には立ち上がってから正面から抱き着く。
(いや、私との差が酷い。そして、どれだけ会いたかったんだよ)
私へのドライな対応と同時に静菜への対応を見て、少し不安を覚える。なぜなら、彼女が静菜に抱き着いてる様子が親子ではなく、男女のそれだからだ。
(ごめん、静菜。私があの時に適当な提案をしたばかりに)
女王である彼女と異世界通話した時に思いついた母娘関係と言う提案。あれは苦し紛れの妥協案で、言った直後の動きと今の動きを見ると、やはり提案すべき内容ではなかったかもしれない。
私は改めて、母娘関係の二人を見ていると
「美結様、母上と御祖母様を放っていてもよろしいのでしょうか?」
いつの間にか後ろからやってきたレポ。子供の教育上良くないと思いつつもここで、私は妙案を思い付き、実行する。
「女王様、連れ戻したとは言っても一年間の限定付きですよ」
私は期間限定を強調して、静菜はいずれシーグルに戻る事を伝えると
「チッ。もう少しでずっと暮らせると思ったのに」
「おーい舌打ちするなー」
明らかに顔に出るくらい不機嫌さを露わにしたので、私も雑に注意した。
「ごめんなさい、ハーゼやマイネにも戻ると約束したから一年で我慢してね」
抱き着かれている静菜は彼女に少し申し訳なさそうに言う。
「本当にずっとであれば、あの黒ウサギとそこの彼女に瓜二つな子も連れてくるでしょうし、私の配慮が欠けてたわ。ごめんなさいね、静菜」
女王は静菜に謝ると、再び少し強めに抱き着いた。そしてなぜか、静菜もどことなく嬉しそうな表情をしている。
(あれ? あの時は呆れた顔をしていたはずなのに)
この十年でどう言う心境の変化だろう。いや、十年も経てば距離が縮まるのは自然な事かもしれない。いや、しかしそれでも、私は言うべき事を言う準備をすると
「母上、御祖母様。不純な事だけはやめて頂けるとありがたいです」
レポが私の彼女達にかける言葉を代弁してくれた。
(レポ君が良い子に育ってくれて良かった)
この子の訴えに女王は溜息をついて
「まさかレポに言われるなんてね。別にそこまではしないわ、私がやりたいのはせいぜい、毎日同じベッドで一緒に寝たいだけよ」
すると、静菜は女王に少しだけ強く抱き返した。この様子を見たレポは呆れた顔で
「今の母上の反応、どう解釈すればいいのでしょうか」
私もどう解釈すれば良いか分からない。私達は彼女達を見て困惑すると
「夜に添い寝するだけよ。他には一緒に風呂に入ったり、食事をしたり、身だしなみを整えてあげたり、挙げたら切りがないわね」
女王は一般的な子育ての仕方を話した。しかし、先ほどからの二人の様子を見てると、私は不安に持たずにはいられず、今度は私から聞いてみる。
「静菜は三歳上の母親から子育てされる事について、何か思うことはある?」
現実を突き付けるような単語を混ぜて聞いてみたが、静菜は微笑みながら
「実は初対面の後、ユーリから私の肌の件で女王からこれを使ってみてと言われたみたいで、何かの液体を半年付けていたら、傷だけじゃなくて体の重さも治ったの。長年の悩みだったから、それからはお……お母様に色々と頼るようになった気がする」
静菜が初めて言ったであろう躊躇いながらの〝お母様〟に、女王は嬉し涙を流している。それはもう近くに居ただけで分かるほどに。
そして、彼女は静菜に自身の顔を隠さないまま
「私をそんな風に思っていたなんて思いもしなかったわ。今日から一年、帰るのを嫌がるほどに静菜を大事に育てますから覚悟してくださいませ」
女王は涙声のまま、より一層強く抱きしめた。静菜も笑顔で彼女を抱き返した。
そんな感極まった空間を近くで見ている私は
「これ、別の意味で大丈夫かな」
本当に母娘関係で問題ないかを心配すると
「母上がさらに優しくなるのは良い事ですし、何かが起こるとすぐ、国を滅ぼそうとする御祖母様が優しくなり、周辺国との融和が進んでくれれば言う事はないと思います」
レポは呆れながらも、根絶志向の女王が良くなる事を期待する言葉で私に返した。
それからは静菜と女王は右側の自室で生活をする事が決まり、私はレポの案内で、別の部屋で宿泊する事になった。
翌日、すっかり落ち着いた二人は、まるで昔から共に居た家族のように隣同士で座っていた。
これだけでも違和感でしかないが、玉座の左側に昨日までなかったはずの一回り小さめの椅子が静菜の為に用意されていた。昼に総理達との通信が繋がり、映像越しに久しぶりの再会を喜び合っていた。さすがに前任と現職の総理が、女王と静菜の仲睦まじさを見て、困惑していたようだけれど。
通信中に私は今日中に帰還する事を伝え、一時間後に通信が終わった。
地球との通信が終わり、私はキルカスパートスの皆にお別れの挨拶を言って、元の世界に帰る事になった。
この世界から地球への一方通行ではあるが、魔法の使用制限はない為、すぐに転移魔法で転移前の場所である前総理宅の空き部屋に戻った。
すると、部屋の中に椅子があり、そこには前総理が座って私に挨拶をする。
「おかえり、美結さん。異世界旅行はどうだったの? もう思い残した事はない?」
「いえ、もう充分に色々と思い出を頂きました。それに映像越しなら、今後も会話する事が可能ですし、寂しいと言う思いはございません」
こうして、僅か一週間ほどの異世界旅行は幕を閉じた。
私が異世界旅行をした時から三ヶ月後、私は予定通り前任の女性総理の後継候補として衆議院に出馬し、全国トップの票数で当選を果たした。
選挙後、翌日に現総理の続投が決まり、私は前もって副大臣の話を伝えられており、環境副大臣の任に就く事が約束され、最終的には三週間後に内閣が発足となった。
それから、二十年後……
「総理、このような法案が野党から提案されているようですが、いかがいたしましょう?」
「その法案はまだ要件を満たしてないから、否決した後で担当に説明して改善案を出してもらうようにして」
私は五十七歳となり、あの時に総理を続けていた後任として、総理の職に就いてから七年となる。
初就任となったのは任期途中での解散となり、総選挙を経ての事であった。その次も任期途中で解散し、選挙後に続投となって今は三期目の二年目となる。
総理になってからは総理官邸に許可を得た上で細工を入れ、あの世界との通信をできるようにし、それ以降は立体映像を駆使しての会話となった為、正直、それから静菜達と離れ離れになって、と言う感覚は全くない。
問題があるとすれば……
「すっかり、歳を取ってしまったわねぇ」
五十七にもなるので、肌はそれなりに衰えを示していた。四十代に入って以降、徐々に傾向は出ていたので、静菜の養母である女王に助けを求めたところ
「貴女の居る世界は地球なの。地球基準で言えばおかしいのは私達になるわ。貴女の見た目がいつまでも若々しいと色々と邪推されるから、年相応の若作りでどうにかやり過ごしなさい」
彼女から得た回答は、地球に住む人間なので諦めなさいと言う物だった。一見歳を取っているように見えない静菜達が本当に羨ましかったが仕方ない。
後、母の親友である前の女性総理は先月、老衰の為に逝去した。後から母も老衰で亡くなったのだけど、二人の亡くなる時間差が一時間ほどで、暦も大安。
それによって出た記事が「大安で友引とはこれいかに」や「世界最強の女子を出待ちしていた元総理」など、世間は落ち込むような状態にはならなかった。側近の元大臣などの訃報については暗いニュースとして取り上げていたのに、私としては妙な気分である。
もう一つ、変わった事があるとすれば、今から十年前に私と瓜二つなシーグル国のマイネが、正式に女王として国を治める事になった。その時も私と総理、数人の信用できる大臣と共に祝ったのだけど、総理からは「この方、美結さんの子供にしか見えないけど。確か、静菜さんの息女だよね」と、なるべく気にしないようにしていた現実を突きつけられ、少し戸惑ったが、彼女は「私は美結様が実の母でも嬉しいのでそれでも構いません」と理想の回答をすると、それ以降は何事もなく、戴冠式が終わった。
式の後、通信を切った同席者からは「あんな娘を私にも欲しい」や「千城官房長官は良い子をお持ちで」さらには「あんなかわいい子なら、是非とも嫁に欲しいのですが」と、何だかセクハラ発言も含まれているが、気にしたら負けなので流すように対応した。
それから、シーグルに居る静菜の家族はどうなったかと言うと、義理の両親である元国王夫妻は今も健在で、マイネの雄姿を温かい目で見守っているらしい。
静菜は勿論、今も元気にしているが、前国王とニーニは私を襲撃した件でハーゼが気に食わなかったらしく、寿命共有化と短縮の呪いをかけて二年前に亡くなったらしい。
第二皇子と第三皇子は相変わらず元気にしていて、何事もないと静菜からは話を聞いていた。
「あちらの世界でも過ごしてみたかったわねぇ」
これは私の無い物ねだりだ。異世界に居る私の身内を見て、若々しい肌つやを見る度に思ってしまう。
私はあの世界であれば、魔法を自由自在に使う事ができる。しかし、それが幸せかどうかは誰にも分からない。勿論、私にも。
「もし、今回の人生を終えたなら、あの世界に生まれ変わる事はできるのだろうか?」
ふと、無意識に言葉を発すると
「できるっすよ? 勿論、千城美結としての能力を持ったまま」
どこからか声が聞こえてくる。この語尾で判断すると、あの黒いウサギで間違いない。私への慰めの意味も含まれているだろうが、思わぬ提案に私は嬉しかった。どこから話しているのかが不明な為、適当な場所にある質問をぶつける。
「私の寿命は後、どれくらいなのかしら?」
「後、数十年と言ったところっすね。まあ、それまでは悪事を働かず、人生を全うするっすよ」
どうやら、政治家としては長生きの部類になるらしい。それが喜ばしいのか否かは全く不明であるけれど。
「少し弱気になっていたところだから、元気づけてくれて本当にありがとう」
「別に構わないよ。我は静菜の事は勿論好きだが、君の事も好きだよ。残りの長い人生、本当に頑張って」
そう言って、彼女からの通信は完全に途切れた。
そして、彼女の最後にかけた言葉は、感情の変化が起きている時に出てくる語尾抜け言葉であり、本心でしか言わない事なので、私は思わず涙が出てしまう。
一分ほど経過して私は落ち着き、涙をもう出ていない。
そして、気を取り直すように
「今日も頑張りますか!」
総理大臣の職務を再開するのであった。
これで別視点の後日譚も完結する事になります。文字数はエピソードを挿入すれば14万文字に到達するのでしょうが、どうしても間延びする印象を与える為、この長さとなりました。
一迅社様の女性向け、女性主人公の傾向と、恋愛、ファンタジーの要件を満たしながら、文庫に合わせた文章で書き続けた結果、このような形になりました。長文のような表現となるので、どうしても怖がりながらの作品作りとなりました。




