(皇子と王女は仲良き事で)
翌日、私は昨日の格好に着替えてから謁見の間に行く。城内に相応しい服装に変えないのは、今回の問題が解決したらすぐにキルカスパートスに転移しようと思っているからだ。
「おはようございます、美結様。昨日の約束通り、お二人を連れて来ました。二人とも、挨拶を」
国王から指示され、子供二人が挨拶を始める。
「初めまして、美結様。私、デンメルング・ブンター・ヒンメル・スティルクルと申します。生まれはシーグルで、現在は王位後継者として、本国に属しています」
最初に挨拶したのが男の子で、顔は静菜に酷似しており、髪は短めで、上衿から前裾を金の装飾が施されたチュニックにキュロット、上下とも空色で統一されていて、下に白のタイツとフリルシャツを着ている。
「初めまして、私は国王と妃の子となる、ブリューテ・ウヴェルテューレと申します。彼とは、その……義理の妹になります」
次に挨拶した彼女は、ピンクのロングヘアが目立ち、同じ色のロングドレスと言ういかにもお姫様な子が、目を伏せつつ私に大人しめにお辞儀をする。
(挨拶だけで察する事になるとは思わなかったな)
義理の妹と言う単語で明らかに躊躇していた為、この時点で彼に恋愛感情があるのが分かってしまう。
(さて、どうやって話を進めようか)
こうなると、より良い方向性に持って行くしかなく、問題は彼が彼女をどう思っているのか確認するのが最初の作業となる。
「初めまして、私は千城美結と申します。この国には昨日来たばかりだから、今日はあなた達の意思確認と今後、やるべき事を伝える為にこの場を設けました。色々と聞きますので、正直に答えてください」
私は礼をしつつも、彼らに厳しい意見もする事を予告した。二人は少し、顔が引き締まって警戒してるようだ。国王と教皇は顔に出さず、様子を見る事に専念するようである。
「まず、初めに確認したいのですが、用件としてはデンメルング皇子とブリューテ王女が恋愛に現を抜かしているので、どうにかして欲しいと言う事でよろしいですか?」
私は国王と教皇に顔を向けて確認する。私が意識的に乱暴な物言いをしたので、二人は驚いた顔をしたが、少し落ち着いてから教皇から話を切り出してくる。
「作用でございます。私としてはそれなりの血筋を持った者を相手にして頂きたく、ブリューテは王女と言えども身分の低い血筋。であるならば、我が国を私物と化して衰退の一途を辿ってしまうのやもしれません。そのような者をおいそれと正式な妃にする選択肢はないと思われます」
教皇の非常に厳しい主張を聞いて、幼き王女が今にも泣きだしそうである。国王も言葉にしないが、あまり良い状況ではないと思い、無言を貫いている。
(あ、メアグラス様が怒った顔をしてる)
教会から透視魔法で見ている彼は、表情からして明らかに彼女の味方だ。私はとりあえず、状況整理の為、血縁関係について話す事にした。
「お二人の為政者としての意見は分かりました。ただ、私から言わせてもらいますと、皇子については静菜とシーグル国王の子、王女についてはヴェルター国王と婚姻を結んだ方の子。血縁自体は全く関係のない赤の他人同士です。私はこの事自体においては特に問題ないと考えます」
不服そうな国王と教皇だが、こちらも言いたい事は言わせてもらう。ただ、私の気にしている事はそこではなく
「そうですね……私が危惧している事と言えば、この子達に言える事は、武力においてはまずひ弱ですし、学においても全く不足している事です。今の状態では話にならないですが、あなた達はまだ七歳と六歳で十年もあれば、どうにでもなるでしょう。それまでに文武とも周囲の力を借りながら、日々励みなさい、と言ったところですね」
ざっくりとした今後の方針を同席者全員に伝える。引き続き、国王と教皇を渋い顔をするが、皇子と王女はこちらを見て、少し戸惑っているようだ。
(私がこうやって説得し続けたところで、状況は変わらなさそうだね)
私は問題解決の為、切り札を使う事にする。
それは透視魔法と念話の魔法を組み合わせ、メアグラス枢機卿を話し合いに加える事である。急な魔法の行使で国王と教皇は目を見開き、皇子と王女はその光景に呆然とするだけだ。
一分ほどでメアグラスと私の空間が繋がり、彼の顔から肩まで見える状態になった。あの時に使っていたシュピールのプロジェクター紛いとやっている事は同じである。
「私だけだと無理そうだから、メアグラス様にも参加して頂きたいと思います」
「美結様、前に拝見した時から思っていましたが、少し雑な対応をする傾向にありますね」
私達は何事もなかったかのように会話をする。慌てたのは教皇であり
「メアグラス、これはどうなってるのだ?」
空間の向こう側の彼は困惑した表情で
「美結様とは昨日から密かにやり取りを続けていたのですが、明るい未来が見えそうにありませんでしたので、僭越ながら、話し合いに加わらせて頂こうと思った次第です」
彼は混乱しないようになるべく簡潔に説明した。
現在、空間の先に居る彼は神父の服装をしており、襟まで伸びた金髪に横長で小さ目の眼鏡をかけていると言う、何だか科学者を思わせる外見である。
「実は私、二年ほど前から人や国などの未来が見えるようになりました。今後、事態を放置した場合のデンメルング皇子に来る他国の縁談として訪れる女性との婚約の先を見た結果。全て我が国の乗っ取りや最悪、滅亡になる未来しかございませんでした」
彼が未来予知で様々な組み合わせで見えた結果であり、これは私も昨日、就寝前までに同じ結果が出たので説明を補足する。
「確か、三十七人ですね。他国の姫や令嬢を迎える数は……全てにおいて、亡国の因となるので、今からでも強引に止めたいと思います」
国王と教皇に顔を向けて、安易な判断を行わないように警告した。すると、枢機卿の彼は笑顔になり
「さすが、異世界の女史ですね。人数まで正確に把握してらっしゃる。そして、我が国が亡国とならずに済むのはブリューテ王女と婚姻を結ばせる事こそが最善の策となります」
少しだけ王女は笑顔になるが、彼はすかさず、問題点を指摘する。
「ただ、それにはお互いの文武における大幅な能力向上が最低条件になります。もし、本当に婚姻したいと言うのであれば、国王や御祖父様からの指導を受けきって、見事に達成して頂かない事には話になりません」
これに目を伏せたのは王女ではなく、皇子である。
(仕方ないよね、静菜に似ているのであれば、文武共に優秀じゃないはずだから)
私は色々な事を苦と思わずやれるけれど、静菜にとってはやっとの思いでと言う場面が召喚前までに良くあった。その事を考えると、皇子に提示するであろう課題は至難の業と言える物である。
「でも、その問題もメアグラス枢機卿から助力頂ければ、ほとんど解決しますけどね」
だからこそ、メアグラスも参加してもらうと言う事になったのだ。当の本人も最初から意図に気づいていたのか
「私に課せられる事になりそうなのは、お二人の国の長としての成長と、国王や教皇からの正当な教育がされているか否かの監視、と言ったところでしょうか」
今後、自身がやるべきであろう役割を私に確認してくる。
「優秀な配下の居る国は羨ましいなぁ……私の右腕に欲しいくらいだよ」
多分、何十年先も見えている彼に対して、最大限の賞賛を送る事にした。そしたら、国王と教皇は何かを諦めたような表情に変わる。私はここで具体的にアドバイスができると判断し、漸く皇子と王女に説明を始める。
「と、言う事であなた達が初めに身に付ける物は、お互いに回復や復活系の神聖魔法は全て習得する事になります」
私の言葉に難しい顔をしたのが皇子、やはりと言うべきかあまり自信がないのだろうが、話を続ける事にする。
「後、皇子には各国の書物において一通り、頭に叩き込んで欲しいのですが、おそらく難しいと思いますので、代わりに王女が彼の不足分を担ってください。私が見た限り、貴女は優秀だと思うので不可能ではないはずです」
王女に対しての言葉に彼女自身は決意を新たにしたようで
「それでデンメルング皇子と婚姻の許可をして頂けるのでしたら、可能な限りお尽くしいたします」
私に礼をしてくる。こちらの出した要望については肯定の意思と受け取って、少し詳しい話を始める。
「まず、先ほど言った回復と復活系の魔法については少なくとも三年以内で習得してください。それと、各国の書物などで知識を一通り得る事については五年以内に、理由は五年後、皇子に対して他国からの婚約相手の選別が始まるからです。全てにおいて反論できない場合、それは即ち正当性を謳った不利益な条件を飲み込ませる行為となるからです。武力に関してはお互いに可能な限り頑張ってください。幸い、戦闘特化の為政者が多数居るので、教えを乞えば問題ないでしょう」
なるべく複雑にならないような説明をして、お互いの結束を促す事にした。
「後は我が国が亡国になってしまわないよう、彼らを育成できるか否かは私達に懸かっていると言う事ですね、ヴェルター国王、ゼーゲン教皇」
メアグラスはわざわざ二人を名前付きで呼び、下手な行動をしないように圧力を掛けているようだ。全く恐ろしい若き枢機卿である。
「まずは私が二人に神聖魔法を全て教えましょう。後は周辺国については私の方が詳しいのでブリューテ王女に叩き込む事にします」
先に発言したのは教皇。溜息をついてから、私に確認するように序盤の教育の流れを発言した。
「武力についてと我が国の歴史を教えるのは私ですね。これは直接、デンメルングに多くの方法で教えるしかないでしょう。後は婚約者の件については私と教皇、枢機卿も加え、全員で監視する事にします。美結様の話では私と教皇では見抜けないと言う事ですので」
国王は私が言った事を考慮しつつ、二人に対してやるべき対策を私に発言した。
「うん、この問題は最低ここまでやり切れれば問題は解決するはずなので、どうか、皆で協力して国を守り続けてください」
私は礼をして、椅子から立ち上がる。
「メアグラス様、どうか国が健全なままであり続けるように貴方の助力をお願いいたします」
そして、空間の向こうに居る彼に改めて、礼をして話を終了した。
この後は同席者と共に城の外へ出て、メアグラスにも教会から見守られながら、キルカスパートスへ転移した。




