宗教大国の皇子と王女
教皇の魔力反応を頼りにちょうど良い場所を転移先とした。
前方には私の背丈を優に超える城壁と戸無門のように常に城壁の先が見える門があり、そこには衛兵が両脇に一人ずつ待機している。
私は早速、衛兵に尋ねる。
「ここはブンターヒンメルで間違いないですか?」
不審者と思われない限りは大丈夫だろうと思っていると、衛兵の一人が私の何かを確認し、もう一人が門の向こう側を見ながら、誰かと連絡を取り始めた。
「もう少々お待ちください。貴女が我が国の要人の可能性が非常に高い為、教皇に確認してるところです」
数分後、教皇からの確認を終えた衛兵が、もう一人と話して意思疎通を行う。そして、衛兵二人は改めてこちらへ向き直る。
「確認した結果、やはり貴女は異世界の女史であられる千城美結様と確定いたしました。ようこそ、そして、百九年ぶりの帰国を歓迎いたします」
すると、なぜか警察官の敬礼のようなポーズを取り、異世界感が台無しな絵面となる。
「そんな大袈裟にしなくてもいいよ。でも、そうだね……まずは国王と教皇に挨拶しに行くよ」
衛兵は改めて私に敬礼をして門に槍を向け、行くべき方向として戸無門に示した。
「じゃあ、行ってきます」
私は二人に礼をして、門をくぐる。
門の先に広がっていたのは、一本道がひたすら直線で続いていて、左右には色々な建物が存在している光景だった。
(こう並びが単純だと、道には困らないね)
何だか土産街と言う様相で、入国した人が進むべき道、と言うのを主張してるみたいだ。
話を戻そう。先ほどの〝百九年ぶりの帰国〟と言うのは、高祖父の母である沙晒美代子さんと重ね合わせて発した言葉だろう。
(ご丁寧に〝ようこそ〟と〝帰国〟を私一人に対して、二人分の歓迎をするくらいだし)
それと、教皇とは初めての念話以降、月一で色々と会話のやり取りをしていたりする。
初めの頃は静菜に関する事がほとんどで、次に話題となったのが、私の何でも魔法が使えると言う事。これは私自身が試行錯誤した結果、自室だけならこの世界と同じ条件で魔法を使える事が判明し、一通りの使用可能魔法とそのレベルを念話の度に説明していった。
次に話したのは私と静菜の敵と味方が誰かと言う事で、味方は両親と前総理、当時は大臣の現総理、敵は静菜の両親を始め、山のように居ると説明した。教皇と念話越しに聞いていたであろう国王は我が事のように、怒りを滲ませている様子だった。私は為政者二人に感謝と申し訳なさを覚えつつ、会話したのを覚えている。
静菜の召喚から三年後に長男が誕生し、ブンターヒンメルの正当なる王位後継者として引き取る話が出た際は驚いたが、実はその時に農夫の娘で婚姻前の現在の妃となる女性とは、一回だけ念話で会話をした事があった。
内容は国王と教皇に伏せた状態で知る事になり、その内容が「もしも、私と国王様の子が娘で、静菜様の長男と惹かれあうようであれば、貴女の許可が欲しい」と言う物で、何とも気の早い話である。
しかし、もしかすると彼女には少しばかり、先の未来が見えていたのかもしれない。なぜなら、私もこの世界における各国の未来が大体見る事ができるからだ。
それで、南の国に派遣されていた神父の話になるが、我が国の皇子と王女が何やらお悩みがと言う趣旨の話を聞いた時点で、おそらくはこれだなと予想が付いてしまった。
(多分、国王と教皇はこの事を把握していないだろうな)
少しだけ憂鬱にもなりそうだけど、もしそうであれば、少しでも明るい未来を示せるように援助するのが私の役目だと思うので、ここは頑張る事にする。
私が物思いに耽っている間に前方には、白壁の大きな城と、左側には良くあるタイプの立派な教会が存在感を示している。
(あ、これか。ビスケ教皇がどうのこうのって言うのは)
教会にある十字架のシンボルの土台にビスケットらしき何かがある変わった物だ。馴染みと言うよりは昔懐かしい、そう、百年前以上のあの商品を思い出せば分かりやすい。
私はその場で早速、日本で製造されたビスケットを自宅の通信機器に繋ぎ、遠隔操作魔法で調べる。結果はやはり百年以上前が始まりとなっていた。
(もしかすると、ご先祖様と君歌さんも地球で食べていたかもしれない)
ビスケ教皇が沙晒姉妹の事を知っている可能性がある。しかし、そうであっても全く別の時代に転生してると言う事になるので、私が今、考えたところで全く意味がない。
(まあ、ここはビスケ教皇に思いを馳せるとして、そろそろ行きましょうか)
ここで何か考えても仕方がないので、早速城の前まで歩いた。
すると、先ほどとは違う兵士二人が、同じような配置で待機していて私に声をかけてくる。
「お待ちしておりました。美結第一女王」
「第一女王!?」
一体どうして、そんな仰々しい肩書きが付いてるのか不明だ。当然、理由を聞くしかない。
「どうして、私の事を第一女王なんて呼ぶ事になってるの?」
「それは簡単です。正統後継者である静菜様に自らの権利を渡した貴女に敬意を示す言葉はこれくらいしかありませんので」
(なぜ早口で喋ってるんだろう、この兵士は)
今の発言は水を得た魚のような話し方である。そんなに歓迎されると逆に申し訳ない気持ちになるが
「王位継承者ではございませんが、貴女の扱い自体は国王をも上回る物となっておりますので、決して粗相のないようにと、現国王や教皇からも念を押して、申し付けられております」
私は異世界の女史であるから、この世界では要人だと各国の要人に言われていたけど、この国においてはそれどころの話ではないようだ。
「とにかく、我が国は貴女を歓迎いたします。ただいま連絡を取りますので少々お待ちくださく」
もう一人の兵士が咳払いをして、魔法で城内の人とやり取りをしてるようだ。
三分後、魔法を解除した兵士が私に向き直り
「今、国王と教皇、それに案内する者へ伝達いたしました。それで、荷物がないようですが……」
手ぶらな私に違和感を持ったのだろう。簡単な答えなので伝える事にする。
「ああ、私ね。収納魔法が使えるんだよ。さすがに向こうの世界からの異世界転移では使えなかったけど」
すると、先ほど早口で言っていた兵士が感動した様子で
「収納魔法も使えるのですか……収納魔法を使えるのは各国の書物を全て見ても歴代で数えるほどしか居ません。さすが、異世界の女史であられるだけの事はあります」
この態度は普通の人であれば、色々と勘違いしてしまうので、正直良い傾向ではないが
「ありがとう。後はそこの人に案内してもらうから、警備を頑張ってください」
ちょうど来た案内人を確認してから、二人の兵士に別れの挨拶をする。二人は「はっ!」と敬礼して私を見送った。




