終章 形を変えた日常
あれから三日後、私とゲントはシーグル国の新国王と妃になり、結婚する事になった。シーグル城にはこれまで出会ったギルドの人達、キルカスパートスやブンターヒンメルの関係者。美結と叔母、義叔父は例のプロジェクター紛いの映像越しに参加してくれた。式は盛大に行われ、私は純白のウェディングドレス、ゲントは黒のタキシードに身を包んで無関係な人から見ても何を催しているのか分かると思う。
結婚式も終わり、ゲントと初めて同じ部屋で寝る事になったのだけど予想通り、男性に触れられたら恐怖を感じる体質は改善していなかった。数分間の間だけ私達は気まずい空気が流れたのだが、彼が気を使って結局、私達はこれまでと同じ部屋に寝る事になった。
翌日、この件を伝えると前妃は
「男性不信の元を絶ったとしても、された事実は改善してる訳ではないから当然ですね。元々予想してましたから心配は不要です」
笑顔で私を慰める。そして、用意してたとばかりに
「私、ゲントが女性と営みをともにする姿が想像できなかったの。だから、昔のニーニちゃんが殺された時からひたすら開発していたのよ? 名付けるのであれば〝遠隔懐胎魔法〟ですね。まさか、静菜が望むとは思いませんでした」
嬉しそうに自らが独自に開発したであろう魔法を説明している。そして、次に前妃はゲントの頭を撫でて
「彼女を召喚した時は不安ばかりでしたが、ゲントが拒まなかった事は大きな進歩ですし、私も漸くあなた達に託せますね」
彼女の言葉からして、これで私に子供が出来れば、完全な形で私と彼が国の長となる事を望んでるように見える。だけどきっと、前国王と前妃にはこれからも助けを借りる事になるのだと思う。実の両親には全く考えられない事で、今にでも忘れたい記憶でしかないのである。
一年後、私には長男が誕生し、この子はブンターヒンメルの次期国王として、一ヶ月後に引き取られる事が決まった。前妃の話では最低でも三人は欲しいと言っていた。長男が一ヶ月後に傍から居なくなるのは寂しかったが、教皇からは「会いたい時はいつでも、転移魔法で訪ねてきてください」と笑顔で言われる。
ブンターヒンメルの国王は長男が誕生してから相手となる女性と婚約をし、王城に招き入れたようだ。私の子供を最優先の扱いにする為に待ってたと言っていた。彼の婚約相手は国内の農家の娘で、王族の娘を他国から嫁がせる気は毛頭なかったとの事だった。
農家の娘と言えば、今はメイド長になったユーリ。彼女は現国王のゲントに生涯忠誠を誓っていて、誰かと結婚する気はないようだ。彼女の子供を見たい気もするが、これを私が言える権利は全くない。
だとすると、それまでメイド長だったキュルマはどうなったかと言うと、第二皇子のキュールと結婚し、彼から隷属魔法を掛けてもらい、ギルド内の家に移り住んでいる。どうも、キュールに対して前国王は常に不安を持っていたようで、彼が十二歳の時にやってきた二十二歳のキュルマに一目惚れをしたのを瞬時に見極め、ある条件を前妃と第一皇子、第三皇子に提示した。
それは『二人が結婚して国内で生活を共にした時に限り、キュルマの結婚できない制約が解除、第二皇子も城に戻らなくても良い』と言う〝仕組まれた結婚〟である。キュルマはとうの昔に勘付いていて、念押しに隷属魔法を夫となる彼から掛けてもらい、自身を手放せないように仕向けたようだ。この件で何も知らないのはキュールだけと言う事になる。私は知ってたのかと聞かれると、私が結婚した後から明らかに第二皇子に娶ってもらいたそうな様子で、何かにつけてギルドに行って彼の様子を見ていた。正直、メイドとしての仕事が疎かになっているほどだったので、前国王と前妃に報告し、両者を結婚できるように手引きした。
まさか、私が人の為に恋のキューピッドになるなんて夢にも思わなかった。
そんな訳で、ギルドに居る今の二人はと言うと、人目に付くようにベタベタとくっ付きながら仕事をしてる状態だったけれど、ギルドに用事があった際、二人へ周囲には聞こえないように「せめて家の中でやってください、周りもやり辛いですから」と忠告したら、それ以降は大人しくなったらしい。自室ではどうなっているのかは知らないけれど、見えない場所で二人で仲良くやる分には問題ない為、これ以上は踏み入る事はない。
さらに一年後、次男が誕生し、こちらはキルカスパートスのヒルヴェア女王の跡取りとして一ヶ月後に引き取られた。キルカスパートスに関しては私は娘、次男は孫と言う扱いとなり、私が里帰りと言う体で、いつでも会わせてくれるとの事だった。
しかし、今まで一回も彼女の国には行った事がない。数人は既に面識があり、全くの知らない国ではないのだけれど、それでも里帰りが初訪問と言うのは何とも珍妙な状態である。ただ、女王自身は子への面会や孫の初見など、適当な理由を付けて、月に数回は転移魔法で来てる為、次男を引き取るまでに四回会っていたりする。
この子が物心が付いた時にこの状況を見て、何を思うのか今から気になっていて、大丈夫なのかと不安にも思う。
そして、両親の脅威を完全に取り除いてから三年後、三番目の子供は女の子だった。しかし、問題なのはそこではなく、その子の姿が小さい時の美結と瓜二つだったからだ。
私と美結の違いは目の大きさだけでも分かり、私の方が小さく、彼女は基本的に目が大きく、偶に海外の人だと勘違いされる事があった。これは叔母も同じ傾向だったらしい。
と言う事で、目が大きくて茶色であるこの子を見て、私達は不思議に思い
「なぜ、静菜から美結と言う従姉に酷似した者が生まれるのだ?」
初めに発言したのは夫で国王のゲント。親戚ではあるので、隔世遺伝と言う線もあるけれど、写真で見た事のある祖父や祖母に似てるようにも見えない。
「もしかすると美結さんが何か知っているのかもしれませんね」
次に発言したのがこの子の祖母となる前妃。既に色々と思考を巡らせてる様子で、未だ映像越しにしか会えない彼女に思いを馳せている。
「美結と言う者。一度はお目にかかりたい物だが、こればかりは私とて、どうにもならぬ事だ」
「私は美結様がこの国に来れるよう、研究に行って参ります」
最後に発言したのは祖父となる前国王と、要望を聞いて研究室へと走って戻った第三皇子のシュピールである。
美結似の長女の件については後日考えるとして、この場は収まった。
私が結婚、つまりは三年前から数日に一度行っている事がある。それは地下牢にあるのだけど
「ハーゼ・ベーゼ。今日も抱かせてくれない?」
「いいっすよ」
地下牢の一つに寝ている黒いウサギを抱きしめて、会話をしながら気分を落ち着かせる事である。
「今日は何が起きたんっすか?」
私の両腕に収まって大人しい様子で会話を始める。
「三人目の子供が何故か、美結にそっくりだった」
彼女と話す時は地球に居た頃の一般人の喋り方で会話をする。
「あの〝異世界の女史〟っすか。まあ、元を辿れば同じ人だから、不思議ではないと思うっすよ」
「いつかは生身の美結に会いたいって言ってて、シュピール様が魔法の研究でどうにかしようとしてるみたい」
「わざわざ神をも凌ぐ存在を連れてこようなんて、随分と物好きっすね」
彼女の中では美結はそう言う扱いなのか。私にはそんな恐ろしい存在には見えないけれど。
「でも、気になるかな? 自由自在に魔法を使えるって言ってたから」
「だからこそ、彼女は神をも凌ぐ存在なんっすよ」
私には自由自在が何を意味してるかは良く分からないし、ひょっとしたら、人には見えない何かを既に掴んでいるのかもしれない。
「あ、そう言えばニーニ君はどうなってるっすか?」
「ニーニには助けてもらってる。結婚したあの日の夜、一緒の部屋に居たんだけど、その……」
「まあ、しょうがないんじゃないっすか? 一度染みついた静菜の男性恐怖症は治らないと思うっすよ」
「それはそうなんだけど……その日から毎日、ゲントがニーニを抱き枕代わりにして毎日寝てるみたい」
躊躇い気味に言った私の言葉に両耳をピクっと一瞬震わせて
「今からゲズントハイトを懲らしめてやろうか」
一瞬で居場所となっている地下牢の一房全体が、どす黒いオーラに包まれる。
「いや別に私は気にしてないから怒らないで」
私が慌てて止めると、元の何の変哲もない地下牢へと戻る。そして、彼女は溜息をついて
「最初にあの子が話した時、不倫相手を疑ったのは強ち間違ってはいないっすね」
ゲントに対して呆れているようである。しかし、すぐに気を取り直して
「静菜の不倫相手は我が務めるから、大船に乗ったつもりで身を任せるっすよ」
(不倫相手として名乗り出られても嬉しくないんだけど)
「まあ、そうっすね。今のこの一房はただの牢屋だから、ニーニ君を理由にして、静菜が落ち着くように可愛く仕上げてもらうって言うのはどうっすか?」
一応、これだけでも落ち着いてはいるけど、召喚前よりかは落ち着いていない事に気付かれていたみたい。
「今から国王に頼んでみるから待ってて」
こうやって、たまに語尾が抜けている時は何かを起こす予兆であると言うのも、地下牢で会話を続けてる時に気付いたことだ。彼女はどこかと念話をしようとしてるみたい。数秒後に耳がピクっと震えたのでどこかに繋がったらしい。
「国王、君はニー……毎ば……枕」
虫食いのように脅しをかけてるみたいだけど、すぐに反応が返ってきて
「目的はなんだ?頼むからやめてくれ」
ゲント自身はニーニとの件について、引け目を感じてるらしく、すぐに取引に応じようとする。
「簡単っす。地下牢の我の場所だけ、静菜好みのかわいい装飾にして欲しいんだけど、出来るっすか?」
「静菜の為か、そんな事は聞くまでもない。地下牢から出てきたら、誠心誠意取り掛からせてもらう」
(誠心誠意って、下っ端根性丸出しだなぁ)
滅多に見せない弱い立場のゲントに私は少しばかり呆れてしまう。
彼女はゲントとの会話を終了し、私に会話の終わりを告げる。
「今日はもう、これで終わりにするっすよ。現国王様が誠心誠意、かわいい部屋にしてくれるらしいっすから」
「うん、ありがとう。ハーゼ・ベーゼ、今日はもう玉座の間に戻るから、またね」
私はウサギの体をした彼女の頭を三度撫でて、地下牢から出て行った。
私が玉座の間に戻ると、ゲントが顔色を悪そうに数人のメイドを連れて、地下牢に入って行き、夕食前まで時間を掛けて、地下牢の一房を改良してくれたようである。
次に地下牢で彼女のところに行った時、召喚前の部屋と同じような配置と色の景色が、そこに広がっていた。
あの時は白いオスのマンチカンであるニーニと一緒に居たけれど、今は黒いウサギの姿をした魔神、ハーゼ・ベーゼと共に、かつての生活を少しの間だけ満喫する事が、私の日常となったのであった。
ここで本編は終了となります。文字数を削って確認したら、2,000文字近く不足していました。
別視点の後日譚を42,000文字頑張らないといけない事を意味します。なるべく、応募締め切りまでに投稿出来るように頑張って行きます。




