七章 2 首謀者達の末路
我は南の島国に行った者達の帰りを牢屋の中で待っていた。特に静菜を……。
外の景色を魔法で常に見ながら時間を潰していた夕方頃、大きな魔力を持った何かがこちらに転送された。
すっかり、我と同じウサギと同じほどに小さくなった魔王である。彼は我を見るなり震え上がって、そのまま息を引き取った。
(最近の魔王と言うのは随分と貧弱っすね)
これが魔王と言う疑いはそもそもあったが、一連の事件を解決する為、これと共に自身で作り上げた〝思念空間〟に移動した。
ここでは時間の概念がなく、どんなに時間が経っても零秒なので、我の中では処刑空間と銘打っている。
かなりの時が過ぎ、やっと元の大きさと言える大木のような巨体の大きさに戻った魔王が目を覚ます。
「こ、ここは……天国なのか?」
「天国の訳が無かろう」
静菜にあれだけ苦しみを与え続けた分際で良くもまあ、そのような戯言を言えたものだと逆に関心する。
「お、お前は誰だ? 見た事ないぞ!」
「だろうな、普段は黒いウサギの姿をしておるからな」
我の本来の姿は黒のハンチング帽に黒のベストにショートパンツ。髪と目は赤で、体型は……
(これでも、我はメスだ)
思念空間では素の性格になってしまう。静菜に本当の我を見て欲しいが、今はそんなことより、これの処分が先である。
「ま、まさか……魔神、ハーゼ・ベーゼ!?」
また気絶しようとしたので、魔法で無理矢理眠らないようにした。
「いやだ、もう死んでしまいたい。勘弁して!」
(情緒不安定になるのはお前ではない。静菜だ)
我は強烈なオーラで彼をさらに震え上がらせる。しかし、もう気を失う事もできない為、廃人になる事も許さない。
「無意味な命乞い、まあ良いか。お前はもうすぐ魂を砕かれ、二度と存在できなくなり、転生もできなくなる」
我は元々、魂を破壊して転生すらもさせる気はない。存在が無になる訳ではなく、飽くまで砕くだけだ。無になるのと、どちらがマシか我の知るところでもないが。しかし、この宣告だけでほとんどの者が未知の恐怖に怯え、身動きが取れなくなる。それは静菜と同じようにである。
「どうせ魂を破壊されるなら、ダメ元で逃げてやる!」
彼は魔王らしき体から青黒い球状に姿を変え、私の空間から逃げようとする。見えない壁に跳ね返されても何度も繰り返す。
(ヒビを入れて、逃走を企ててるのか馬鹿馬鹿しい)
諦める選択をしない者は必ず通る道であり、何度もこの後の結末を見てるので、好きにやらせる事にした。
一万回繰り返した時、ついに見えない壁にヒビが入り、逃走の準備をしているようだ。
(この後の行動パターンは大体決まっているが)
直接逃げるか、誰かに助けを求めるかの二択がほとんど、たまに私に意表を突いた攻撃をするが、それは最悪手と言って良い。なぜなら、その時は私の手で魂ごと存在を無にする事が確定するからだ。
そして、この弱き魔王が取った選択は
「アグニ様、この慈悲なき魔神から私を助けてください」
彼は大量の涙を流しながら、火の神に嘆願した。
(彼は最悪手に近い選択をしたのか、全く愚かだ)
次の瞬間、思念世界の外側からアグニが侵入してきた。火の神だけあって、人型の全身は炎を纏っていて、中身となる彼の姿は隠れて見えない。
「お前を何とか救済しろ。それで願いは良いのか?」
重厚な低音で、魔王に語り掛ける。
「ええ、とりあえず人心なき魔神から私を救ってください」
魔王は惨めに五体投地でお願いした。火の神は身に纏う炎を一層強くして
「良かろう、救済してやろう。人心なきお前と言う存在を灰にして叶えてやるぞ」
魔王を焼き尽くす。当然、灰と化す救済なんか求めていない彼は
「お前も人心なき薄汚れた神か! 私が何をやったって言うんだ」
「人心があれば、無害な人間に対し、危害を加える真似をまずしなかろう。救済をするのであれば、悪戯に迫害されている彼女こそ、救済されるべきだ。よって、お前を灰と化す事こそが真の救済だ!」
先ほどより一層強くなった炎で、塵一つ逃げる事ができないように焼灼する。魔王は完全に灰と化し、一切の身動きが取れなくなった。
「アグニ君、悪いね。こんな下衆な者の処理をさせてしまって」
我はいつも事前処理をしてくれる部下とも言えるべき彼に謝る。火の神である彼も
「いえ、このような者を野に放つ事は不幸の元、いやあ、世の中にとっての万病でしかないので当たり前の事をしただけです」
当然の義務と言う感じで、意に介さない様子で返答をする。
「後は我がこの下衆の魂を砕いて終わりにするから。今回も本当にご苦労様」
我が魂を砕く前処理の何割かは彼がやってくれているので、感謝の意を伝える。
「いえ、それよりも今回も魂を砕く瞬間を見たいので、同席させて頂いても良いですか?」
彼が来た時は必ず、我が最終処理をする瞬間を一緒に見るのが恒例である。当然、我は無言で首を縦に振り、肯定の意思を示す。
そして前回、彼が来た時と同じように我が灰と化した魂を砕き、横でその様子を見守るアグニであった。
しばらくして魂を砕き終わり、無の世界へと処分する。アグニも我に別れの挨拶をして、思念空間の外へ出て行った。我は再び、居住地である地下牢に戻った。
現実の時間は飽くまでも零の為、傍から見れば時間経過はない。我は再びウサギの姿で眠り、暇を潰す事にした。
しかし、さらに一分後、新しい何かが転送されてきた。時間差を考えると静菜の両親のどちらかである。外見自体は緑の肌をしたゴブリンでしかない為、どちらかを調べる事にする。すぐに結果は見えた。オスの為、彼女の父親だろう。我は直前にあった事を心の中を見て確認し、惨めに命乞いをして取り繕っていた様子を確認した。
(それにしても、あの女王が代わりに手を汚したのか……何ともまあ意地らしい)
彼女が男性であれば、各国の王位継承も複雑にならないで済んだだろう。キルカスパートスの妃になり、めでたしとなる単純な話に落ち着くはずが、彼女と静菜は同性で養子関係と言う事で妥協した。この事について、幸か不幸か我にも知り得ない。
とにかく、今は不幸の根源悪となるこの醜き親を騙るゴブリンに、絶対的な制裁を加えなければならない。我は先ほどと同様に自らの思念世界へと移動した。
これも例のように気がついて目覚めると
「あの親不孝者はどこ行った!?」
脅威が居ないと判断した途端にこの態度だ。我はもう少しだけ、煮えくり返るような怒りを抑える事にする。
「親不孝者? お前こそこの世に居ては……ああ、すまない。もう死んでいたのだね、失敬した」
我はこれの神経を逆撫でするようにわざと挑発する言葉で語りかける。
「この世に居るべきなのは俺だろうが! 何だ? このガキは偉そうにベラベラと喋りやがって」
全く反省しないどころか、未だに静菜が悪いと言う事らしい。これの理屈だけで言えばだが。
(さて、これ以上の存在は静菜どころか、全ての世界にとって害毒でしかない)
我はこれ以上、話もしたくないので処分に向けた言葉をこれに放つ。
「お前は地球のみならず、この世界までも害を与えようとした。よって、お前ともう一人の何かは〝終わりなき地獄〟で永遠の苦しみを与え切った上で〝無〟に帰する」
当然、納得するはずもないので、我に飛び掛かって現状変更をしようとする。我をガキと思い、現状変更を試みているようだが、自分の立場を分かっていないようなので再び、痛みしか感じない体にしてやった。
「グァアアアア!!」
これはゴブリンらしい汚い悲鳴を上げる。静菜が唱えた体中に極大魔法を発動させるよりも何倍も強力な魔法で、一秒も持たずに気を失う。
(無理矢理起こし続けてもダメになったか、だったらもう処分しよう)
我は転移魔法を終わりなき地獄に繋げ、転移先に居る管理者と連絡を取り合った。
「魔王ちゃん、居る? 返事してくれない?」
少ししてから野太い声の彼が返事をする。
「魔神様、魔王ちゃんはやめてくれませんか? あなたにとっては私は雑魚以下だと理解してますけども」
ここの魔王はこれでも、全ての重罪人を無に帰するまで管理している重要人物である。しかし、我の前では下手に出ず、大人しく言う事を聞く良い子だ。
「あと一人だけ時間差で来るから、そっちもお願い」
用件は短く、単純に伝える事が重要だ。複雑にすると面倒になって、勝手に罪を軽くするような困った奴だからである。
「これは度重なる痛みだけを感じる体になって意識がないから、復活させてからの処分をお願いする」
「分かりました。とにかく、存在が消えるまで処分を繰り返します」
彼は二つ返事で我の要望に応え、これを自分のところに運んだ後、転移魔法を閉じた。
(あと一人の処分がまだっすね)
さらに一分後、ゴブリンのメスらしき何かをオスと同じ流れで処分した。
因縁となる相手の最後なので、ハーゼ・ベーゼ視点での処刑エピソードを挿入しました。
単純に黒いウサギに焦点を当てたかったのが、主な理由です。




