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七章 南の島と断罪の時

 私がここ、シーグル城に召喚されて二年の歳月が経った。

 召喚された当時とは違い、私を守ってくれる人はシーグルに留まらず、強権女王の治める国や宗教国であり、大国の為政者達が私の事を思い、必死で守ってくれているので、目前の脅威とは少し離れたところにいるとは思う。

 しかし、首謀者である両親は魔王と手を組み、隙ができる瞬間さえあれば、いつでも襲う事も考えられる為、真の平和とは言えない。先の事件で国と一万の民の魂が食われた事を考えると、私達もいつそうなってもおかしくないから気を抜く事はできない。

 今日も同盟国との調査を続け、昼食をとった後の事だ。

「既に何度も敵対勢力の脅威から身を守ってきた。そして、漸(ようや)く首謀者の居住範囲が判明した」

 今までは受動的にしか対処できなかったが、今度はこちらから動く事ができる。

「詳細な場所までは調査する事になるが、南の国々を少しずつ探索して行くしかない。ただ、これは大所帯では不可能だ」

 これまでの同盟国はいずれもシーグルよりは北に位置する国だけで、東の国も正確には僅かに北だったりする。そして今回、南の国が怪しいと言う事は数多(あまた)の島国を一つずつ探索して行く事でしか方法がないはずだが、どうするのだろう。

「あらゆる事態に備え、地下牢のハーゼ・ベーゼに地下空間を拡張するよう、依頼をしていた。そして、拡張空間で大きな船を既に造船しておる。飽くまで海に浮かべる物の為、転移魔法でしか移動はできぬ」

 どうやら只者ではないハーゼに重要な事をお願いしていたらしい。それは良いんだけど、造船自体はいつから計画していたのだろうと思っていると

「静菜を召喚する三年前からだ。今回の事態となって以降、急いで計画した訳ではない。それだけ、我が国に対しての敵が多かったのが原因だがな」

 防衛の為に計画していた物が今回、敵対勢力討伐の足掛かりに使う事になると言うのは何かの運命なのかもしれない。

「拡張空間への移動許可はハーゼ・ベーゼに取る事になっている。では、今から移動するぞ」


 国王の先導で室内の隠し階段から地下牢へと足を進める。ブンターヒンメルの時と同じく、牢屋の配置自体はあまり違いがない。途中で左への分岐路がある為、そちらに行き、突き当たりの扉から左手前の牢屋の中に黒いウサギが寝ていた。

(普段から寝てるみたいだけど……あ、目を開けた)

 ハーゼを覗いていると目を覚ました。赤い目が最初に見たのは私となり

「おはよう、静菜。玉座の間での会話は把握してるよ」

 尋ねるまでもなく把握していた。おそらくは寝ながら聞いてると言った事なのだろう。

「ハーゼ・ベーゼ、予想よりも早く、船の出番が来た。拡張空間への扉を開けてくれ」

 扉の前に居る国王が目線を動かさずにお願いする。ハーゼは答えるまでもなく、黙って扉に黒い魔法陣を扉に張り付けた。

「船の前でラハト君が待ってるっすよ」

 先客が待機してるらしい。転移魔法なしでは身動きが取れないので当然と言えるけれど。ハーゼは再び眠り、私達に任せる意思を示す。

 国王は黙って扉を開き、私達も扉の先へと足を進める。道中は先ほどと違い、無機質な灰色の空間がひたすら続いており、左右に変わった物はない。

 五分ほど歩いた時、出口が見えて通り過ぎると灰色の大きな長方形の空間が広がっていた。先ほどの景色を大きくしただけの空間に明らかに異質で立派な船が存在感を示していた。そして、なぜか外見はクルーザーにしか見えない真っ白な船体であった。

(旅行にでも行くんだろうか)

 今回は旅行ではないはずだけど、この見た目で大丈夫なのだろうかと思ってしまう。

「あの時に召喚された者が定期的に元居た世界の風景を見ていてな。その中にこのような船があり、基本的な船の雛型として採用したようだ」

(動力源と船としての性能はどうなのだろう)

 形だけ作っても実用性がなければ意味がない。私は使い物にならない可能性を考えていると

「動力は魔法を消費すればどうにかなる。外装はほとんどの攻撃を防御できるほどの装甲を用意している為、問題はないはずだ」

 どうやら、異世界版のクルーザーと言える小型の船は、大きさとして、十人以上は乗れる物である。

「私とフェルネはシーグルを護らねばならぬのでな、お前達だけで南の国々を探索する事になる。戦力が厳しい時はいつでも女王陛下が駆け付けるので、可能な限り調査してくれと言う事だ」

 今回は私とゲント、転移要員であるラハトの三人になるようだ。戦力が少ないようにしか見えず、不安になるのだけど問題ないだろうか。

「ブンターヒンメルの戦力は当てにできぬ。なぜなら、宗教国の人間が居ただけで襲撃対象にされる可能性が高いからな」

 無宗教国と言う事は、自分の身は自分で守れと言う事であり、目立つ行動をしない方が良いと言う事らしい。

「必ず、静菜への脅威を取り除いて見せる。父上と母上は城で待っていてくれ」

 ゲントは南の遠征へと立つ前に挨拶をすると、国王と妃は黙って、彼に微笑んだ。

 私達は船の中に入り、ラハトが転移魔法を発動し、移動の準備に備える。

 さすがに外は見えない構造の為、二人の姿は見えない。数秒後に船全体を包む魔法陣が光り、国王と妃の視界から姿を消す。


 次の瞬間、私達は海岸に居た。どこかの海岸と思しき場所に着いたはずだ。南の国々と言う事で、おそらくは私の国にある波止場のような人工物はないと思う。

「今居る国からは事前に許可を取っている。まず、船を降りてから国王に挨拶する」

 どうやら、南の国の一つに到着したらしい。ゲントも初めてなので勝手が分からないはずなのにどうして落ち着いているのだろう。

 とにかく、ゲントの指示通りに船を降り、舗装されてない一本道をひたすら歩いて行く。三十分ほどで大きな木造の建物が右手に姿を現した。

(随分、城とは違う見た目だけれど)

 今まで見てきた城と言うのはどれも西洋風の城だったり、そうでなければ民家よりは立派で色違いと見分けの付きやすい物だったりと、すぐに為政者の所有する建物と言う事が分かるが、今回は民家は小さい木造の建物で、これはそれを大きくしただけの物と言う為政者と言うより、資産のある人の家と言った感じである。

「手前に広場がある。おそらくは国王と見て間違いないだろう」

 国王と言うのはもう少し広い土地の主になると思うけれど。ひょっとして、集落の首長も国王と同じ扱いなのかもしれない。私達は建物の前で待機する。少し経ち、周囲の人が私達を確認し、目指している建物の中へと入って行った。そして、数分後に建物の中から黒い草の膝丈ほどの腰巻きと動物の骨と思しき首飾りを付けた人が出てきた。

「お待ちしておりました、シーグル国王から連絡は来ております。今日はこの一帯に住み着いてしまった魔王と浅ましき人間を探す為にやってきたと言う話ではないですか」

 普通に用件の確認をしてきて、私達に返答を促した。

「先ほど、転移魔法で海沿いに船を移動させてこの地に参りました」

 今回は私が話して相手へ手短に伝えた。

「私はこの島の王。まあ、国王ではなく首長になるのですが……おっと、まずは話を、実は二ヶ月前からあの魔王達が我が物顔で居座り、困っていたんですよ。それで、北の国々に依頼をしましたが、貴国に居る関係者が因縁のある者が居ると言う事で、お願いした次第なんですよ。勿論、他の島の長達も、この件については大変に困ってまして、解決して頂けると本当に助かります」

 魔王達は既に何らかの迷惑をかけているようだ。具体的な被害も聞きたいところだけど、聞かなくても対処しないといけない相手の為、もう少し範囲の絞れる情報を聞く事にする。

「その、居座って困る相手の場所と言うのは、もう少し詳しくは分からないのでしょうか?」

 しかし、首長は首を横に振って

「いや、どうも自分達が見つからないように色々と偽装し、居場所を特定できないように攪乱(かくらん)しているようです。困ったものです」

 本当は自分で捕まえたい衝動を抑えながら話してるのが一目で分かる。そして、息をついてから気を取り直して

「他の島々の首長にも情報共有はしていますので、船で移動しながら、聞いて回るのが良いと思います」

 どうやら、南の国々で共同戦線を張りながら対応してるらしい。この連帯はシーグルとは真逆の状態で何だか新鮮に感じる。

「貴重な海の食糧が取られてるので、是非とも完全な形での解決をお願いします」

 首長は私達に礼をして話を終える。こちらも礼をしてからその場を去った。

 船までは転移魔法で戻り、すぐに船を動かす。動力は現在、ゲントの魔力で動かしている。これは私が現状では最強の戦力と判断された為で、魔族との件で自身は戦力として、後方に回った方が得策だと判断したらしい。

 次に行く島は最も西にある島国だ。船の向きを考慮すれば、南に少しずつ行く方が効率的だけど、まずは端の島に行き、見当違いかどうかを確認した方が、間違いに気付きやすいのである。

 二十分ほどで西の島に到着する。これは近いからではなく、動力で動くスピードが速い為だけど、速さは私の世界にあるクルーザーに付いてるモーター並みなので、遠い場所でも近く感じるだけである。

(本当にどこまでが地球の影響を受けているのだろうか)

 変なところで地球基準だったり、この世界の方が色々と優れていたり良く分からなくなる。しかし、そんな事を考えても仕方ないので、船を降りて再び、首長の家を探す事にする。

 今度は十分ほどで首長が見つかった。首長の家があった訳ではなく、漁に出る時間の為、海沿いに向かって歩いていた為だ。

「中央北の首長から聞いています。しかし、おそらくこの辺ではありませんよ。後、東の端にある島の者にも確認を取りましたが、あの辺りも魔力反応がほとんど感じられないようです」

 今の情報はかなりありがたい。次は東の端に行こうと思っていたので、手間が省けて助かる。

「貴重な情報をありがとうございます。これで、最初に降りた島から、南に少しずつ確認して行く事ができます」

「気を付けてください。魔王でなくても危険な水棲生物も居ますので」

 西の首長は私達に注意してから礼をし、海沿いに歩いて行った。私達はまた、転移魔法で船に乗る。

 今度は最初に降りた島まで船を動かし、そこを基点とし、南に点在する数多くの島を一つずつ降りて行って、首長に話をする事を繰り返そうとしたが、南に行った一つ目の島を降りた時、首長ではなさそうな人がこちらに近づいてきて

「あなた達が例の魔王討伐御一行様ですね」

 何だか仰々しい団体名が付いている。しかし、要件を聞くと

「実は西と中央の首長から伝言がありまして、島に着いたら伝言役が速やかに報告するように言われまして、こうしてすぐにやってきました」

 どうやら、私達が首長に合うまでの時間が勿体ないとの事で、だったら降りる動作だけさせたほうがいいと言う事で、このような対応をしているようである。

「こちらは中央の島と変わりなく、魔王達の拠点とは考えにくいですね」

 少し南に移動しただけで、敵の場所が判明すれば苦労はしない。期待はしてなかったけど、降りてから歩くと言う行為をする時間がなくなったのは本当にありがたい。と同時に、現地の人達も困っていると言う事なのだろう。とにかく、一つずつ見て行くしかない。

 それから、私達は地道に島が出てきては降り、伝言役に変化はないかを聞く、と言う事の繰り返しだった。

 最初の島から六つ目の島を降りた時、漸く変化が訪れた。

「普段は中央の島と特に変化はありませんが、たまに魔力が強くなる時があります。おそらく、その時に横切るか何かしていると予想できますが、時間もバラバラなので、不定期に何かを捕っていると言うでしょう。これ以外には特に分かりません」

 これでもう少し南に行けば、さらなる変化が期待できる事になり、その時は因縁の相手との決着の場となるはずだ。

「ありがとうございます。私達はまた、調査を続けますので、これで失礼いたします」

 私は少し、気を引き締めてから伝言役に礼をして、船に乗り込んだ。

 ここから、さらに南の島へ行っては降りるを繰り返した。

 日はまだ落ちる様子もなく、時間が過ぎて行き、二十ほどの島を降りると

「お待ちしておりました。実は西にある無人の島に強い魔力がありまして、周辺の魚介類を乱獲されてます。普段、周辺には烏賊(いか)神(がみ)が存在するのですが、食料となる水棲魔獣も無秩序に刈られて、段々と禍々しい気に変わっているようなんですよ」

 烏賊神と言うのはおそらく、地元の守り神なのだろう。そんな存在にも迷惑をかけているのだから、私達に助けを求めるのは当然で、一刻も早く解決したいのは現地の人も同じと言う事である。私はさらに話を聞く事にした。

「西の無人島と言うのはどこにありますか?」

 すると、伝言役は近くの小さな丸い形状の島を指差した。島を見ると、明らかに禍々しい陽炎のような光景が広がっており、いかにも異変が起きている様子である。

「ラハト殿は転移魔法をいつでも発動できる準備をして頂きたい」

 ゲントが指示をし始める。次は私に対して

「今回、私は静菜の後方支援に回る。相手を考えれば足を引っ張りかねないからな」

 当初の予定通り、私がメインの攻撃役をやる事になった。私達は伝言役にお礼を言って、船に乗り込む。目的地が明確となった為、後はどのように攻めるかだけになるけれど、ここで私の右前に魔法陣が出てきた。

「もしも、相手に恐怖を感じた場合は、私がすぐに駆け付けるから心配しないで」

 女王の声が聞こえた。状況が悪くなった場合に来るらしい。今回は自分でどうにかしろと言う事なのだろう。あまり国を留守にするのは防衛上、非常によろしくないので当然の判断である。

 三分もあると例の無人島に近づくが当然、無防備に行くのは危険な行為でしかない。

「ゼーゲン教皇が私の横に居るから、遠隔で神聖魔法を使ってもらうわ」

 もう一人の育成中である転移魔法士が移動させたのだろう。教皇の声は聞こえないが、魔法陣の向こう側から違和感を感じる。

「私達二人が静菜に付いて後から入って行き、防御を支援する予定だが、どうすれはいい?」

 ゲントが私の代わりに聞いたので、返答を待つと

「静菜は極大魔法が使えるはずだけど、勿論そのまま使用したら世界が滅びるのは分かってるわね?」

 やはり、極大魔法を形を変えて応用する考えは正解だった。問題はどうやって相手に触れ、体の内側全体に広げるかになるけれど

「あら、触れれば内側に広げる事ができるのは察しているのね。そこまで分かっているなら後は簡単よ。憎い相手に触れた後、相手の形状を意識しながら、すぐ内側になるべく多くの魔法陣を想像して一気に魔力を放つだけだから」

 つまりは対象に触れ、皮膚の裏側に逆向きで魔法陣を出し、体の中心に向かって魔力を開放する。私の中ではこのようなイメージが頭に浮かぶ。

「問題はどうやって懐(ふところ)に潜り込むかだけど、ラハトが転移魔法で移動の援護、第一皇子が静菜に攻撃された時、防御の援護をする。と言うのが役割になりそうね」

 作戦の初動は決まったので、私達は魔法陣からの神聖魔法を待つ事にした。

 しばし、静寂の間が続き、次の瞬間。無人島全体を覆う白い魔法陣が出現し、何かが悲鳴を上げて禍々しい陽炎も消滅した。

 私が先頭になって島へと上陸し、急いで対象らしき者を探した。少し奥に行くと大木のような巨体の魔物と緑の肌をしたゴブリンのような者が二人居る。巨体の魔物は私を見て警戒をしていて、ゴブリンのような何かは私を見てニヤリと気持ち悪い笑顔をして私に話しかけてくる。

「静菜、よくも私達の邪魔をしてくれたな。ここがお前の墓場だ! 俺を見ただけで恐怖で動けないのは分かってるんだぞ?」

 どうやら、高校二年の時に私を強姦しようとした実父のようである。しかし、その外見はあの時の恐怖を思い出す物ではなく、醜悪なゴブリンとしか言いようのない物である為、私は恐怖を感じなかった。そして、近くに居るのは私の実母なのだろう。しかし、問題はそこではなく、これが両親の醜き正体と思えば、最早何も思う事はない。いや、こんな醜悪な魔物に私の人生を無茶苦茶にされていたのかと思うと怒りを嚙み殺す事は不可能だった。

 そして今、私が恐怖を感じないと言う事は完全な形で葬り去る機会を得られたのと同じだ。私は表情を出さないように努め、自身の持ち得る魔力を最大限に引き出せる準備を行う。

 相変わらず、気持ち悪い笑顔のゴブリンのような両親に、私に恐怖を抱いていて金縛りのように動けない魔王。

(必ず、ここで終わりにしてみせる)

 これまでには到底考えられないほど、殺意に満ち溢れていた。後ろで支援の準備をしてるであろう二人は、かつてない私の殺意と言う名のオーラに怯えているように見えたが、私はそれどころではない。

 静寂の間が続いたのは僅か数秒、魔王は状況の不味さに逃走をしようと試みたが、私が見逃すはずがない。

「転移お願いします」

 ラハトは無言で私に最速で転移魔法を発動し、瞬時に魔王の正面に移動し、魔王の胸部中央に触れ、全力の極大魔法を内側に痛みが巡るよう、多数の赤い魔法陣を張り巡らす。魔王の体内が赤く輝き、力の限り断末魔の叫びを上げ続ける。私はどうなってる知らないがどうでもいいので、魔力反応が無くなるまで効果が続くようにした。

 数分後、魔王は痛みのあまり、体を動かす事も口を開く事もできず、ただその場で止まっているだけだ。

「魔王はハーゼ・ベーゼに転移させてください」

 私はゆっくりと知らないはずの魔法で地面に降りて行く。ラハトは魔王を転移魔法で黒いウサギの居場所へと送り付けた。

 魔王が消えて普通なら終わりだけど、私にとってはこれこそが本当にやるべき事である。両親を二度と悪さできないように処理する事が必要だ。

「お前、さては強権女王だな? 無抵抗が取り柄の静菜がこんな事できるはずがない!」

(私を長年、そんな風に思ってたのか……)

 無抵抗だから好き勝手に虐待していたと言う事である。この言葉は私にとって最悪の言葉であり、なるべく重い罪を与えたいと思った瞬間である。

 私はまず、父に近づいて極大魔法の準備をする。漸く自分達の不味さに気付いた父は醜い命乞いを始める。

「俺が悪かったよ、今後も水に流そうな、な?」

 何が水に流そうなんだろうか。私はもう、消し炭にしてやりたくなったので、極大魔法の属性を黒くして処分しようとしたら

「あなた、良くも私の娘に汚い口を開けたわね」

 声がしたのは私の右前の魔法陣からであり、替え玉疑惑を持たれた女王だ。一瞬の隙も許さず、すぐに父の頭上に黒い魔法陣を出現させ、先ほど私の使った極大魔法を父の体内に張り巡らせた。使われた側は悲鳴を上げ続けたが、一分も持たずに反応が無くなった。すると、ラハトが間髪入れず、転移魔法でどこかに送ったらしい。普通に考えればハーゼのところだろうけど。

 近くで見ていたゴブリンのような母も醜く命乞いを行い、怒髪天を衝きそうになるのだが、これも女王が先ほどと同じ手順で敵を処理した。これで、南の国々で悪さをしていた魔王達は全滅する事となり、脅威は取り去られる事となった。

 私は漸く、子供の時の恐怖から解放される事になり、特に養母扱いに自分からなった女王や、私を王国の正統後継者として認めたブンターヒンメルの国王と教皇には、感謝してもし切れない。

 二年前、シーグル国に召喚された時にはどうなるかと思ったけれど、あれが無ければ、今も両親と言う脅威に怯えながら生き続ける事になったかと思うと、これまでの人生の喪失感も大きな物がある。

 今回、結局は何もする事のなかったゲントは私を遠い物を見るような目で見ているが、彼にも助けてもらった事が多い為、そんな目をしないでもらえるとありがたい。

(まだ、やる事は山のようにあるから、安心するのはまだ早いかな)

 一連の両親が首謀者となった事件の数々は解決したと言って良いけれど、シーグル国での結婚やキルカスパートス、ブンターヒンメルでの立場。さらに現在の私と関係者になりそうな者への取り扱いなど、何一つ決まっていない。

(最初のやるべき事は結婚と子供はどうするかと言うところかな)

 両親の件を解決したからと言って、私自身は男性から無闇に触れられると、身が竦んで動けなくなったりする症状が治まっているようには見えなく、その辺りもどうなるか、現時点では不明である。

 魔王達は一人残らず、ハーゼの居場所に送ったので、島に元々あった物しかない。

 私達が気を取り直して船に戻ろうと海沿いまで来ると、左奥に少し離れた海上には、緑色の巨大な烏賊(いか)がこちらを見続けていた。私は話に出ていた烏賊神様だと思い、私はその姿に礼をする。巨大な烏賊はこちらをもう一度見てから、水面下に沈んで行った。

 水面から完全に沈んだのを確認し、私は二人と一緒に船に乗り込み、最初に転移した中央の島へと戻り、首長に報告と挨拶をして、この件は終了した。

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