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六章 2

 転移先は大きな建物から十メートルほど離れた場所で、木が壁になって隠れ場所として使えるところだった。

「さすがに目的地の前には転移させられませんから」

 転移魔法と言うのは場所の微調整が出来るらしい。結構便利な機能だと思う。

「相手は私達に気付いていますね」

「特殊な魔力でなければ私も見えるから意味ないわね」

 冷静に状況を伝える少年と相手の戦力を見て余裕の女王。実体を持った存在では彼女にとって些細な存在にしか見えないようである。

「私は息の根を止める事だけしか考えないけど、あなたならどうします?」

 相変わらず殺意の高い彼女。先ほどのラハトへの襲撃で少し気が立っているように見える。猪突猛進のタイプであれば無鉄砲でしかない性格だと思うが、彼女は国を滅ぼす事は得意な為、算段がついている上での発言だろう。しかし、少年にとっては目的が達成できなくなるのは困るので

「息の根を止める……事は今回は不可能ですから早まった行動はしないでください」

 彼女に対して普通に注意する。しかし、彼のやる事自体は触媒にして国全体の人達を目覚めさせる事なので、こちらの方が残酷ではある。

「それで、どう動けばいいのだ?」

 蚊帳の外に居るゲントが二人に指示を仰いだ。

「ラハト、あのお守りは持ってますか?」

 彼女は部下である彼に持たせた所持品を確認する。彼は「はい、肌身離さず持っております」と一言だけ答える。

「先ほどみたいに襲われては困るからお守りを作って持たせたのよ」

 襲撃を阻止してから今までの時間で即席でお守りを作っていたらしい。全く見えなかったのだけど。

「今からの作戦はメアグラス君が神聖魔法で教会の魔法障壁を解除する。その後、私達が堂々と玄関から入る。その後は流れでお願い」

 最初の魔法障壁以外は行き当たりばったりなので、不安しか湧かないが大丈夫だろうか。

「襲撃を阻止して教皇に送り込んだ時、発信元の実行犯に呪詛を送り付けたわ。おそらく、闇の障壁を解除した時点で迎え撃つしかないはずよ」

 本当にこの女王はどこまで手を打ってるのか計り知れない。相手の攻撃手段を奪っていてもいなくても警戒はしておくに越した事はなく、話半分に聞く事にする。

「作戦は以上。じゃあメアグラス君、後はお願い」

 彼女はそう言ってビー玉ほどの大きさをした青白い球を彼に投げ渡して右手で掴み取った。そして、掴んだ手の平を上に向けて右手全体が輝く。右手の上に白い魔法陣が出現したかと思うと数秒で消え、すぐに目的の建物全体を包むように上空十メートルから白い魔法陣が出現した。そして建物全体が輝くと

「ギャアアアア!?」

 何やら人とは思えないけたたましい悲鳴が上がった。しばらくして巨大な魔方陣も消滅し、元の夜の風景へと戻った。

「さすが世界中が恐れる女王様と言う事だけはありますね。私だけではこうは上手く行きませんでした」

 何か神様同士の会話に見えるような事を言ってるが何が何だか分からない。

「私だけでも上手く行かないわ。神聖魔法の類が分からないのだから」

 私はとりあえず、考えるのをやめる事にした。理解しようとしたところで分からないのは明白だからだ。

「今の悲鳴は何かやったのか?」

 ゲントは良く分かっていない様子で聞いた。女王は怪しい笑顔で

「簡単よ、リモコン爆弾を応用したのよ」

「リモコ……なんだそれは?」

(地球で生きていない人には分かりませんよ、第一皇子)

 普段、完璧そうな彼にも理解できないところを見た私は少しだけほっとした。と同時に異世界でリモコン爆弾とは色々と台無しだと思う私だけど、別に知ったところで得はしないので黙る事にした。

「これで相手は私達を正面から迎え撃つ気力しか残ってないから、ある程度は安心して入る事ができるわね」

 彼女が本当に味方で良かったとしか言いようがない。相手からしたらたまった物ではないだろう。

 私達は女王と少年の先導で教皇の住処に近づいた。外観は白い壁で覆われていて日本の良くある教会と思しき見た目だ。

(やはり、ここは日本なのでは?)

 と言う思いもあるが、普通に考えれば日本人の転生者が作り上げたと考えた方が無難である。気を取り直し、外観の中央にある正面入口から堂々と建物の中へ入って行った。

 中に入ると内装も壁全体が白で統一されていて、中央はレッドカーペットを教壇まで敷かれていて両側には祈る為の座席が一列に十席ほど、それが十列ずつ規則正しく並んでいる。

(やはりどう見ても日本の教会にしか見えない)

 私は何とも言えない気持ちで内装を見ていたが、女王にとっては居心地の良い場所ではないらしい。

 それは私と彼女が魔法陣を使って音声だけで会話をしていた時、彼女自身がカトリック系の生まれでシスターになる予定だったと言っていた。結局、事故に見せかけて殺されたようだけど、実は彼女の両親と関係者が裏で謀殺の相談をしていて殺されたと言う事で、転生してからは〝神も仏もない、だったら私が神になってみせよう〟とかなり危険な思想に切り替えた旨を言っていた。実際は今日のように教会関係者とも上手くやり取りしているので、全て本心で言ってる訳ではないのだろう。とは言っても、敬虔(けいけん)な信者と思っていたら薄汚い利己主義者と思えば、私も同様の考え方に至ると思う。

「貴様ら! この私を無視するなあ!」

 突然、教壇に全身を預けていた神父の服装をした中年男性がこちらに向かって叫んできた。姿を確認すると、私でも分かるようなどす黒いオーラを体全体に放っていて、まともな人間でない事はすぐに判断できた。しかし、先ほどから息苦しそうにしてる為、女王と少年の連携プレイは効果抜群だったのだろう。危害を加える様子がない、と言うよりできないと言ったほうが適切だと思う。

「あら、随分弱ってるみたいじゃない」

 彼女は周囲全体を漆黒にするほどのどす黒いオーラを放ち、声の主へと言い放った。すると、どんな効果があったのかは一切不明だけど相手は泡を吹いて、そのままの体勢で気を失った。

「神聖魔法を感知できずにこの状態ですか……御祖父様(おじいさま)ではなく、私で良かったと言う事ですね」

 彼女を見て、教皇が来る必要がなかった理由を悟っている様子だ。気絶させた当の本人は少年に目を向けて

「それで、これからどうするつもり?」

 目的を忘れている訳ではないらしい。あの流れだと怒りに任せて始末しそうだったようだけど。

「触媒にすると言う説明はいたしましたが、このままの状態で触媒にしても効果はございません」

 少年は気を失った者の傍まで行く。そして右手を対象にかざして

「だからこうするんです。不死操作魔法」

 すると気を失ったまま、彼自身の手で黒い魔法陣を出現させ、そのまま自らに不死化魔法をかけているように見える。なぜなら明らかに肌が生気のない色へと変化してるからだ。

「つまり、対象を自らの手で不死化させ、それからさらに私が不死化魔法で重ね掛けしてから、特効薬のような効果の魔法を行使して国全体を戻します。申し訳ございませんが、先ほどの青白い球をできるだけ大きな物を使わせて頂けないでしょうか?」

 彼は女王を見ずにお願いすると、無言で先ほどよりも大きく水晶玉と同じくらいの大きさにした物を生成し、彼の左手に渡す。

「ありがとうございます。それでは始めます」

 彼も黒い魔法陣を出し、対象に出させた黒い魔法陣に重ねると白い魔法陣に変わり、部屋全体が白くなって空間を認識できないほど光輝いた。

 十分後、白のみの空間は元の教壇のある部屋へと景色を戻し、左手の上に浮かんでいた青白い球は無くなっていた。

「これで処置は終わりです。今やったのは要するに負の物に負を掛けて、聖なる物に変換しただけの話です。あの玉は魔力の塊なので重要な物でした」

 彼の説明は単純だった。マイナスにマイナスを掛けてプラスにし、単純な魔力量が足りないので、女王の魔力の塊を動力源にして国全体に発動したと言う事である。

「後はこの国の教皇に無事を確認して用件は終了になります」

 彼は部屋を一周見て何かを探して「ありました」と教団から右奥に赤いドアを右手全体で差した。

 私達は赤いドアを開けて部屋に入ると、こじんまりとした白壁と木製の机と椅子。机の上や周囲の棚には本がびっしりと詰まっている。

 そして、椅子の上には神父の服装をした初老の男性が眠っていた。少年は彼のそばに近づいて

「大丈夫ですか? もう犯人はこの世に居ませんからご安心ください」

 現在までの出来事を簡単に伝える。眠っていた彼はゆっくりと目覚め、少年を見てから

「んっ……ああ、あなたが神父様ですか。この度は不死化の脅威を取り去って頂きありがとうございました」

 男性は体がまだ自由に動かせないのか、座ったまま私達に礼をした。

「いえ、お気遣いなく。おそらく他の人達も同じ状態でしょう。今は夜ですし、眠ったままの人も多いでしょう。私達はこのまま、母国へと帰りますので話はまた、お互いに時間がある時にお願いいたします」

 彼は男性に一礼してから、私達も退出するように促す。私と他の面々も礼をしてから部屋を出た。

 これ以降はすぐに住処である教会を出て、近くに待機していたラハトの転移魔法でシーグル国に帰還した。女王とラハトは少年を一緒にブンターヒンメルへ転移して、今回の件からの帰還を果たす。

「私はほとんど役に立たなかったな」

 シーグルの国を考えると当然かもしれない。私はまだ日本に居たと言う感覚があるので、少しは状況が分かっているようにも見えたが、彼と大して差はないと思う。これ以上気にしても仕方ない為、城に戻って国王と妃に今回の件を報告した。さすがに夜になっていた為、夕食はとらずに浴場で汗を流してから寝る事になった。


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