五章 宗教大国と進展
翌日、宗教国への対面許可が下り、いつでも来ていいとの事だった。女王に聞き、転移魔法ですぐに行ける方法がないか尋ねると彼女の国に転移魔法の使える者が居るようだ。
さらに翌日、該当する者を派遣してもらった。名前はラハトと言うらしい。彼は女王のメインの転移魔法要員であり、自らの後任には少し未熟な者を採用し、精度を上げてもらうように頑張ってもらうと言う事だ。つまりは私の為、自身の側近に近い者を寄越してくれた事になる。本当に彼女には感謝しかない。
早速、準備が整った事を相手に手紙で伝えて数分後に許可が出る。日程の指定があり、明日の午後三時に訪問してくれと言う事だった。昼食をとってから来てくれと言う事だろう。対面時間の指定ではなく、飽くまで領地内に来てくれと言う事なので、午後三時の時点で城壁前に居ると言う状況でも問題ない事を意味している。
訪問するのはゲントと私がメインとなり、国王と妃は自国で待機と言う事になった。これは他国から侵略の為の対策と言う事で先方にも既に伝えている。私達は明日の為に必要な準備をして、一日を終える事にした。
約束の日、昼食後に外出する準備をして、派遣されたラハトに挨拶すると「いつでも転移可能です」と、昨日から今まで気を整えていた事を私達に話した。転移魔法で目的地へと移動できるのであれば、移動に留意する必要もないので先方への贈呈品なども用意し、改めて転移魔法で相手国の城壁前に移動した。
転移魔法に入ると、景色は全く違う物となっていた。
目の前に広がるのは城壁と二人の衛兵だが、城門の奥は建物が規則正しく道の両側に一列に並び、経済都市と言える様相となっていた。
(まずは衛兵から許可を頂かないと)
初めに入国許可をもらう為、衛兵に話をする。
「先ほど、国王より連絡がありました。来客は第一皇子のゲズントハイト様、将来の妃となる静菜様と言う話です」
どうやら、この国では私の事は次期妃として確定した話になってるとの事だ。これが良いのか悪いのか分からないが、今は気にしてる場合ではない為、流し気味に対応する事にしよう。
衛兵は城門の際を持っている槍で示し、門をくぐるように私達に指示する。
「ようこそ、ブンターヒンメルへ。そして信徒を邪教へと導く魔の者達から我が国をお救いください」
今の言葉で大体分かった。両親が徒党を為して行っている事がどうしようもなく、まともな国に迷惑の限りを尽くしている事に。
私達は土産を持参する者など、数人を先導する形で両側の建物を確認していった。私達についてきてる人達はいずれもキルカスパートスから移住した元兵士ばかりである。一方、先ほど転移魔法を使ってくれたラハトは一時的な派遣で来て、用が終われば彼は母国へと戻る。
事前情報では宗教国と言う事で、教会に関する施設もあるのではと様子を見ていたが、今のところは食べ物や道具など、日用品の並ぶ店ばかりである。
しばらくは同じような景色が続いていたが、二十分も歩くと両側の建物が並ぶ状態も終わりを迎え、正面奥に大きくそびえ立つ城と左側に教会らしき建物が並んでいる。
正面の城自体は三角錐の形をした青い屋根に白壁と言った感じだが、教会に関しては壁と天井が全て褐色系の灰みのある赤が強めの黄色と言ったところで入口と思われる上部に十字架があり、銀色の十字架に土台の如くビスケットを地面に置いたような形の何かに張り付けた変わったシンボルが存在感を出していた。
「どうしてビスケットなのでしょう……」
教会のシンボルにビスケットを使うと言うのは、私の世界ではよほど変わった人が面白さを追求する目的でやるくらいしか意味がない。正直に言うと、変なシンボルである。
「ああ、これはブンターヒンメルが建国する際に〝ビスケ教皇〟が共同建国者となり、最終的に彼の親友のブンターに国王としての実権を握らせたらしい。本来はビスケ教皇が最高権力者となる予定だったらしいが、ブンター国王は彼の尽力で王国が建国した事を恩に感じ、彼の死後、国内の孤児達に与えていたビスケットの上に十字架を乗せた物をシンボルとして扱おうと言う事になり、現在も続いていると言う事です」
経緯自体は分かったのだけど、全くもって訳が分からない。私の世界ではビスケットの誕生自体は〝二度焼いたパン〟の言葉が変化した物であり、ビスケットに似た名前の人が発明した話は一切出てこないからだ。
(あれ? ひょっとして、ビスケ教皇と言う人も転生者だった……?)
普通に考えれば、本来の名前誕生とは大きく違う名前の付き方を考えると、その線が妥当と言わざるを得ない。が、私には特に影響もない為、深く気にせず、心に留める程度にしておこう。
気を取り直して、私達は城の入口前まできた。
「お待ちしておりました、シーグル王国第一皇子……それに静菜様」
城下町の衛兵とは違う人がやってきた。そして私の名前を呼ぶ時に一瞬、妃と言う口の動きだけしてた事も見えた。私の今の肩書きはやはり分かり辛いのかもしれない。
「国王と教皇様が謁見の間でお待ちしています。ご案内いたしますので私達についてきてください」
玉座の間ではないらしい。教皇も実権を握っているとなると玉座の間は適切と言えない為、当然の選択と言える。
そして、案内された場所は正面入口から左寄りに位置する部屋となる。例のビスケット教会に近い場所である。部屋に入るとモノトーンで統一された内装となっており、丸形の黒いテーブルに四方に椅子が用意されている。テーブルの右側には二人の男性が立っている。
「ようこそ、お待ちしておりました」
一礼をしたのは濃紺の厚手のマントに金の刺繍が散りばめられた濃紺のズボン、黒光りした革靴に金で着色した鎖帷子を着込んでいる金髪の男性で、年齢は私達よりは少し上になるだろう。そして格好からして、彼がこの国の王である事は想像できる。
「私はブンターヒンメルの国を治めているヴェルター・ゼルトザームと申します」
「そして、私が国で教皇の任に就いておりますゼーゲン・ゴルトヘルツです。以後お見知り置きを」
後から自己紹介したのは、つま先ほどの長さの白チュニックに金の腰紐、空色のスカプラリオに空色のフード、空色のミトラに黒のブーツ、そして教皇の証である持ち手と球状の飾りがあるだけの短い白金の杖を持った白髪の坊主に近い髪形の男性だ。服装からして、彼が教皇で間違いない。
「本日は今後の対応の為、お時間を頂きありがとうございます」
ゲントは国王と教皇に一礼する。私も黙って後を追うように礼をした。
「いえ、貴国も大変な中でご足労願い、ありがとうございます」
国王も私達に対して礼をした。次は教皇が挨拶をする。
「初めまして、ゲズントハイト第一皇子、それと静菜様、今はまだ妃になっておられない為、敬称のみで呼ばせて頂きます」
先ほどの兵士と似た反応を返される。やはり仮の立場と言うのは色々と面倒なのだろう。いちいち気にしてたらきりがないので流しつつ話を聞こうと思う。
「それでは椅子に掛けて話をする事にしましょう」
国王から椅子に座るように指示される。私達は全員、各々座って話をする事にした。最初は教皇が話し始める。
「早速、本題へ入ります。帰国への敵対勢力について、お伝えしましょう。残念な事に貴方達の想定している首謀者の二人は確認できませんでした。確認したのは異世界の権力者と残念な事に以前、我が国において前教皇に指名され、枢機卿の任を受けていた一人でした。私が教皇に選出された途端、彼は同国の教会を離脱し、以降は様々な禁忌を犯したようです。そして今回、異世界の者と共謀して我が国と教皇を乗っ取ろうとしている事が判明し、貴国に協力をお願いした限りです」
教会にとっては良くある話ではないけど、一般人の視点から見れば良くある話である。自身が最高権力者になれなかった事を不服として会社をやめ、やがては所属していた会社を乗っ取って手中に収めると言う流れだ。
今の話だけでも充分に伝わっており、教会に属する人でも同じような感じなのだなと残念な気持ちになった。次に国王が話す。
「そして、共犯の権力者は居場所を特定していますが、首謀者の二人は全く反応がありません」
この世界に反応がないと言う事は現在、地球のどこかに身を隠していると言う意味にも取れる。しかし、問題はもっと深刻な物で私が召喚されたのが、シーグル国の玉座の間であり、彼に異世界関連の書物を確認したとすれば、いつでも私が一人になった時を狙い、近くに転移する事も可能と言う事である。
「そうです、首謀者はいつでも静菜様を襲う事が可能となります。ただ周囲は強力な方ばかりの為、一人を狙うのは道理とも言えます。しかし、今は私達も彼らから会話ができないよう、傍聴手段を妨害してどうにかしています。今の会話も聞こえないでしょう。もし私達の話を盗み聞きしようとすれば、忽ち灰と化すようにいたしました。その点はご安心ください」
いつの間にそんな対策をしていたのだろう。本当に感謝しかないが、続けて言った言葉に教会の疑問が一つ解決する。
「この妨害魔法と異世界専用トラップを開発したのはビスケ教皇です」
この一言で答えが判明した。やはりビスケ教皇と言うのは転生者と言う事だ。私のように召喚された場合、そこまで魔力の応用が利かないと数日前に自室で寝る前、女王から聞いていたので転生者で間違いない。しかも、私の知っているビスケットそのものの形だったので、私とさほど変わらない年代の人物だろう。転生者が多いかもとは思うが、気にしても仕方ないので話の続きを聞く。
「とにかく、私達がやるべき事は実行犯の二人を捕らえる事と魔法によって洗脳されてしまった元信徒の治療だ。洗脳魔法は長く放置すると解除しても無意味に近い状態になってしまうので早急に解決したい」
これが本音だったのだろう。国王と教皇の表情を言葉を終えた瞬間、唇を噛みしめていたので間違いない。
「本日は以上で結構です。今日は取り急ぎ顔合わせをしておきたいと思いまして、このような場を設けさせて頂きました。もし何かあるようであれば連絡いたしますので、魔力の補充をしたラハト様達と戻られてください」
国王と教皇は椅子から立ち上がり、私達に礼をした。こちらも立って礼をして、今日の話し合いは終わりとなった。
入口から入って近くの控室に同行者を迎えに行き、来た道を引き返して城壁の前まで移動してから転移魔法でシーグル城に帰った。
城に戻り、私達は国王と妃に報告してから夕食をとり、ここから先は何事もなく一日を終えた。




