四章 3
翌日、ギルド内では亡国の教皇による犯行が公表され、やはり講釈を無駄に述べる国は駄目だと言う話になっていた。南の国々では事件を起こした教皇に似た宗教が広まっていたが、人を救うと言ったような教義が口から出任せと言う噂が瞬く間に広がり、一ヶ月後には元の無宗教国家へと変化したらしい。
シーグル国からさほど離れていない東の地に教皇が権力の一部を有する国があるのだが、一週間後には面会に来て「シーグル国への侵略行為は画策しておりませんので、滅ぼすような真似はしないでください」と土下座でお願いする事態となった。その国については結局、軍事力が皆無だし、たまに近くを通る旅人が出る程度と言う事で、何事もなく終わった。帰り際、国の遣いにはそれなりの土産を持たせてから帰ってもらう事にしたらしく、帰国から数日の二週間後、相手国から手紙が届いていたらしい。郵送方法は魔法による物ではなく、人伝いに次々と渡す方式でこちらも到底無害だと認識された。
そのような流れで加害者の会からの危害が収まれば良かったのだが、そんな甘い事は一切なく、三ヶ月後に別の事件が起きる。
私はユーリの護衛もあって、以前と同じような平穏な日々を自室で送っていたら、ゲントが部屋に入ってくる。
「また、過去に滅ぼした国がこちらに悪さを働くと言う情報を耳に入れた。今度は大臣だ、しかも協力相手は静菜の世界に居た〝国会議員〟と言う名の職業の者らしいが、何か知っているか?」
彼の言葉に嫌な流れが確立されつつある事に頭を抱えてしまう。気を取り直して国会議員と言う職業の説明をする。
「国会議員と言うのは国を代表する政を行う人の一人ですが、この世界に置き換えるのであれば、地元の有力者、貴族、教会関係の幹部などが似た役割を担うと思います」
実際は違うのだけれど、私は彼に誤解のない程度の説明をした。しかし、彼の関心はそこではなく
「異世界の議員と連携し、侵略を企てると言うのは特別に逆恨みをしてるのだろう。何か心当たりはないか?」
私は首を縦に振ってから、思い当たりを話す。
「私が父に強姦される直前に警察がやってきて未遂に終わったのですが、両親の逮捕から数日後に家庭内における児童虐待に関する改善の法案を出した時、反対した者が居ました。結局、テロ宣言された挙句に元秘書に首を締め上げられ、最終的には逮捕されて刑務所に送った体で粗末な施設に幽閉したと聞きました」
そこまで聞いた彼は「なるほど」と私の話を中断させてから推測を述べる。
「つまり、両親の皮を被った獣に味方して自滅し、復讐と言う名の逆恨みを成就する為、この世界の者と共謀して危害を加えようとしていると言う事か……悪党の考える事はどこまでも悪事しか頭にないのだな……状況は理解した。後は政の話にもなるから、父上と母上に相談した上で今後の動きを決定しよう。では、私はこれで失礼する」
私を自室で待機するように命じ、自らは政治的な画策として慎重に対応する為、玉座の間に移動したようだ。
近くで話を聞いていたユーリは少し不機嫌な顔をして
「私、静菜様の居た世界は平和な所だと話を聞かされていましたが、どの世界も悪事を働く権力者は同じと言う事ですね」
彼女は軽蔑の対象の居ない空間に合わせ、私の近くを睨むつけているように見える。
どうやら、過去に似たような経験があるらしい事は容易に想像がつく。これに関しては私が非常に幸運だったと言わざるを得ない。
この日、食事をした以外はこの件に関しての話は出てこなく一日を終えた。
翌日、昼食前の国王達との対面で、昨日の話を伝えられた。内容としては、今後の相手に対する動き方とギルド側の対応方針。そして、有事の際にどのような対応を取るのかをまずはなるべく情報を減らして話をされた。これは相手の出方次第で対応が大きく変わってしまう為で、現時点では無用の心配となり、精神の疲弊にしかならないので、まずはそれまでに体を休めてくれと言う事だった。
これは当たり前の話だけど、そもそも両親が主導してる時点で狙いはシーグル国ではなく私一人と考えるのが妥当である。しかし、私に何かあった時は調子に乗り、国も乗っ取る行為に出る事は相手の思考パターンを考えると容易に想像できる為、犯行内容が確定した時点で多様な判断をすると言う事なのだろう。どちらにしても両親を目の前で取り押さえるところを見るまでは安心できない、と言うのが本音である。
さらに一ヶ月後、いよいよ相手が動き出したかと思うと、意外な形で状況が改善する。
「私が王となる前は国同士で対立していたのだが、なぜか協力を買って出ると申し出があった」
昼食後に国王達と玉座の間で対応を協議していた時、国王から出た言葉だ。以前は対立してたと言うのは気にすべき事なのだけれど。
「ブンターヒンメル、教皇と国王が各々実権を握っている国なのだが、これまでの行動からすると、敵対国として協力しそうな物だが、ヒルヴェア女王にもすでに確認は済んでおる。しかも彼女の進言でもないと言うから、あの国の狙いが不明なのだ」
過去に宗教国をいくつも滅ぼしてる為、味方として協力する理由が思い付かなく困惑してるようだ。同席してる妃とゲントも考えてはみるが、やはり分からないらしい。未知の協力者ほど怖い物はなく、問題が解決した途端、襲いかかる事態も充分に考えられる為、警戒するのは当然だろう。
しかし、現時点で協力者の方が圧倒的に少なく、このような他国からの協力はありがたく受け取るしかない。何はともあれ、一国でも協力関係を築ける事自体は悪くないので、疑念を抱きつつも、ブンターヒンメルとの協力要請に国王は書類を魔法で書き記してから、転移魔法で相手国へと送った。
一時間後、相手からの返答の手紙が送られてくる。内容を確認すると、送り主は教皇と言う事みたいだ。国王ではなく、教皇であると言う事は、国王が許可を出してから教皇も目を通し、二重チェックをした上で送られた物だと言う事を意味しているらしい。飽くまでこの国限定の決まり事である。国によっては教皇が全実権を握っており、国王などの王族は傀儡だと言う体制も普通にあるみたいだから、今回の協力国は権力者同士で、意思疎通が取れている事を意味する。
国王は早速、教皇からの手紙の内容を確認して最後まで読み終えると、私達にも内容を伝えた。
最初に書かれていた事は緊張が書類に伝わっていたらしい。どうやらこの世界では魔法で字を書いても緊張具合などが分かるようなところらしく、これについては国王は黙ってしまった。次に今回の協力要請の理由があり、どうやら両親と協力をしてる教会関係者が自国の信徒を強引に奪っており、その助けが欲しいと言う事で今回、シーグル国に協力をと言う事になったようだ。つまり、意図が不明ではなく加害者が自国にとって迷惑行為を行っているので、何とか協力してほしいと言う物で取引として成立する。最後に書いていた内容はキルカスパートスの女王が怖いので解決後に侵略する事はないと言う半ば念書のような締めくくりで手紙を書き終えていた。
まだ見ぬ異国の王や教皇に不安を覚えつつも、後の事態に備える為、この日の話し合いは終了した。
私は自室に戻り、ユーリに身の回りのお世話をされつつ、無事に一日を終えた。




