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四章 2

 あれから起こった出来事を整理すると、まず世界中に轟いた情報として『強権女王が異世界の女史に五体投地をした』と言う物であり、世界を大きくひっくり返すような内容だった。そして、愚かにもこの情報を目にし、敵対国の一部が大した事のない女王だと勘違いした国が侵略をしたら、即日で国が滅ぼされる事態となり、今度は却(かえ)って異世界の女史と言われた美結が恐ろしい神をも越える存在として、畏怖の念を抱かれるようになる。

 しかし、これに関してはこの世界限定の話で、私の両親達にとってはどうでもいい話のようだ。今もこの世界の人達と徒党を組み、私に害を為そうと画策してるらしい。

 そして、キルカスパートスとの関係も一気に密接な物となり、半年経った今ではあちらの国からも移住者が増えており、人の交流は勿論、物流の行き来もこれまでとは比べ物にならないくらい多い。とは言っても、犯罪者の類が増えている訳ではない。なぜなら、治安維持の為にあちらの国から人材を派遣してくれるからだ。これは私が女王の娘として認定された事に他ならない。キネルが書類を母国に送って一週間は混乱していたらしいが、それでも女王に比べれば可愛い物だと言う事で受け入れられたとあの場に居た兵士達に話を聞いた。

 さらに驚く事に私を養子とし、正式に認定されてからは女王自身が以前よりも穏やかな時が多くなったと言う事で、むしろ私をキルカスパートスの要人として見られる事になる。結果、私のキルカスパートスへの帰国願いが国民から提出され、帰国した際には催しを実施する事が決定してるらしい。何ともまあ、恐ろしい。

 後、この件に連動し、起こった現象としては強権女王の同盟国となった事で、周辺国が滅ぼされたくない一心でシーグル国と協力関係を結んでくれる事が多くなり、〝加害者の会〟の人達は以前よりもこちらに悪事を働き辛(づら)い環境になった事である。

(正直、このまま無事安穏で過ごしたいんだけど)

 これで無事なまま、人生を送る事ができるならどれだけ良かったか。しかし、平穏はそう簡単には続かない。


 回想は終わり、現実に引き戻されると自室にゲントが入ってきた。

「過去に滅ぼした敵対国の関係者が今朝、城壁の外で襲ってきた。実行犯はすぐに転移魔法で脱出したようだ」

 逃走手段を聞く限り、犯人を捕縛する事自体が難しいように思う。

 とにかく私達は詳細を知る為にも昼食をとってから、ギルドに行く予定を立てる。


 午後三時頃、予定通りにギルドへと入り、怪我(けが)人と犯人の特定の有無を確認する。

「ギルドに来てる内の一人が襲われたみたい。怪我自体は大した事はなかったから治療は既に終わっているけどね」

 キュールの話だと治療自体は終わっているらしい。しかし、犯人については良く分かっておらず、転移魔法で逃げたと言う事だけが判明している。

「正直、私は取り押さえるくらいしか出来ないから、この手の犯人にはあまり役に立ちそうにもないねぇ」

 ウセアにとって、不得手のタイプと言う事らしい。

「とにかく、明日以降にまた、同様の犯行が起こる可能性が高いから、防護魔法だけはそれなり掛けておいた方がいいね」

 キュールはギルドマスターとしての判断で、怪我の軽減と犯人特定を重視する方針で進めるとの事。

 私達は明日もギルドで話す約束をして城へと帰った。


 翌日、昨日と同じほどの時間に着き、早速話を聞く事にした。

「よほど犯人は特定されない自信があるみたいだね。同じように、しかも昨日よりも酷い怪我をさせてから転移魔法で去って行ったよ。勿論、治療済みではあるんだけどね」

 治療できた事自体は良いと思うけれど、これは毎日襲撃すると言う脅迫に置き換えた行動とも言えるので、全く油断できない。

「今日は妙な証拠を残したまま逃げたみたいだね」

 キュールは怪訝(けげん)な顔を浮かべて言葉に詰まり、少し間を開けた後に話を続ける。

「残した証拠と言うのが神聖魔法の類なんだよ。しかしこの国の関係者から同様の魔力反応はないし、王国関係者に聞いても、そのような事実はないと返されるだけなんだよ」

 神聖魔法の印によって、どこの国かは大体分かるらしいが、該当国の関係者に問い合わせても、疑いのある行動はやっていないと言う事だろう。

 ギルドの人達も集まって、一同が困っていた時、急に私の目線から右前辺りに青白に光る魔法陣が出現し、声が聞こえてくる。

「私の声、聞こえるかしら?」

 聞き覚えがある声で女王だとすぐに分かるが、どう呼べば良いか分からず、ゲントに助けを目線で求める。しかし、目線で合図された彼はそもそも誰か不明で困った様子をするだけで仕方なく、キュールに目線を移すがこちらも困った顔をする。意味は違いそうだけれど。私は諦めて普通に聞く事にする。

「何とお呼びすればよろしいのでしょうか?」

 女王の訪問以降、正式に彼女の娘認定をされてしまい、呼びかけられる度(たび)にこうして言い淀んでしまう。そんな私をからかうように

「ヒルヴェアでいいわ、私達は家族でしょう?」

 こんな感じで言ってくる。しょうがないので私は無難な呼び方で返してみる。

「それでは、ヒルヴェア様……今回の件で気になる事はございますか?」

 音声だけの彼女はボソっと呟いてから対応を答える。

「やはり母娘関係と言うのがよろしくないのだろうか……まあいいわ。昨日から発生している事件は犯行の瞬間から今日の偽装工作まで魔法で監視してるのだけど」

 どうやら今まで、犯人の行動を詳細に見ていたらしい。なら教えてくれて良いのではと思っていると、彼女は続けて説明をする。

「犯行の首謀者は別に居るわね。しかも遠隔操作ができるタイプの人物だけど、神聖魔法を使ってと言うのが愚かだったわね。教会関係者だと自己紹介しているような物だから」

 首謀者の人物像の傾向まで、これまでの見た物だけで判断が付いたらしい。

「過去に滅ぼした国で狂信染みた宗教国となると、一つしか該当しないが……」

 ゲントには既に犯人に目星が付けているようだけど、何故か後の言葉が出てこない。すると、音声のみの彼女から答えが聞ける。

「答えは簡単よ。国として存在しているまでは『他国を騙すような事はしてはならない』や『神の導きで我が国が滅ぶならそれもまた定め』なんて講釈を並べていたのだから。今は真逆の事を行っている様があまりにも滑稽(こっけい)ね」

 首謀者と思しき人物の行った悪事は講釈とは真逆で、反面教師としか言えない事しかやっていないのだ。これで教皇などと言う立場にあったのだとしたら、結局はその辺に居る悪党と変わりないと思っていると「その通り、教皇だった人物ね」と、音声だけの彼女から非常に残念な答えが返ってきた。

 結局、このような権威のある人物と言うのは大体が対岸の火事だと思ってる為、自身が粗末な境遇になった時に本性と言うのが出てくる。ギルドに居る二人の皇子の話ではこの人物に対し、本当に教義通りの事を実行できるのかを試すつもりで生かしていたと言う事だ。人として生かしておいた方が良いと言う判断で処刑しなかっただけらしい。

「私がもし、教皇と同じような人達に嘘をつかれた瞬間、死ぬ魔法をかける事ができたなら、どれだけの割合の人が死ぬ事になるのでしょうね」

 シーグル王国の判断については音声だけの女王にも同意できる内容らしく、むしろ処分が甘いと遠回しに言ってるようにも聞こえる。

「どうする? 明日の襲撃の瞬間を取り押さえて阻止するのも良いが」

 ゲントは仮の案を出してみる。しかし、キュールは具体案を言ってない事が分かっているので、訂正してから具体策を答える。

「いや、明日まで待つ事自体が無駄な犠牲だし、首謀者も捕まえられない。明日の襲撃までに元を断つよ」

 しかし、元を断つと言っても場所が分からないのでどうしようもない。

 ここで一緒に考えていたウセアが案を出してくる。

「城門を守ってる二人と良く似た人を入れ替えて対応すればどうにかなりそうだねぇ。要するに襲撃の瞬間、撃退ついでに痕跡魔法で印を付けていれば逃亡先まで印が案内してくれると言う具合だけど、この方法でどうだい?」

「闇雲に探して色々と勘付かれるよりは効率的な方法だね。よし、それで行く事にしよう」

 キュールは彼女の案に乗る。ゲントも黙って首を縦に振り、同意の意思を示す。

 方針が決まるとキュールは即、近くのギルドメンバーに方法を伝え、城門の警備をしてる二人と背丈や体格の似た者を連れてくるように指示を出した。

 三十分後、指定された二人をギルドに連れてきた。話を聞くとキルカスパートスでギルドの依頼をこなしていた人達らしい。早速、キュールは作戦を伝え、毎日城門に居る二人と透過魔法を使いながら、何食わぬ顔で入れ替わる事にした。傍から見れば、人が変わったようには見えなく、普段の鎧を脱いで軽装になった二人はギルドの中に入ってくる。

「ジョスクス、ケルトムス。急にごめんね、今回はどうしても首謀者を捕まえる為に力が必要になったから許してね」

 城門警備の二人の名前を言って、呼び出した事を謝った。二人は第二皇子として敬礼し

「犯人を放置する訳にはいきません」

「それはいいんですが、私達は何をやればいいんでしょうか?」

 襲撃事件の犯人を捕まえる事しか考えていないようである。この国の人達は本当に自国思いの人達ばかりで感動すら覚えてしまう。

 キュールが作戦を伝えようとすると、ウセアが話を切ってから自分で話すらしい。

「まず、二人には魔力反応の出た場所に爆発魔法をお見舞いして欲しい。それから印を付ける事については……」

 彼女が言葉に詰まると、キュールが説明を引き継ぐ。

「印付けの件についてはすでに手配してるよ。キルカスパートスから臨時で先ほど派遣された者だけど、既に到着して打ち合わせ済み。後は転移魔法を使って出てくる瞬間、爆発魔法で一撃目を与える事に集中するだけだね」

 派遣された異国の兵については既に準備を整え、指定位置に待機してるらしい。ここからは一気に慌ただしくも勘付かれないようにそっと、各人が配置につく事になった。

 今回、私はゲントがすぐ傍につき、護衛をすると言う条件で現場に立ち会う事になった。理由としては私だけ自室に戻ると犯人や首謀者も狙いを変え、犯行場所を変える事を恐れた為だ。首謀者の居場所が分からない為、このような方法と取る事になり、二人の皇子は私に謝っていた。


 時間は夜となり、一時間前にギルドで食事をしてから対応に当たっていた。シーグル城には連絡を済ませており、今日は夕食を頂けないと言う事で話は終わっている。姿を見せているのは私とゲントだけで他の人達は透過魔法で姿を消した状態にしている。

 私はなるべく目立つように無防備な位置に移動し、敵をおびき寄せるように立っている。

 三分後、急に何も無いところから小石が投げつけられ、予め張っていた防壁魔法に当たり、コンっ!と軽く音を立てる。続けざまに本命の転移魔法が出現し、何かが出てくる瞬間を見計らい、透過魔法で隠れていた城門警備の二人が爆発魔法を転移魔法に送り込む。すぐに爆発が起き、転移先と思しき場所で男性の悲鳴が上がっていた。そして、少し早く出た者が居たのか一人の町民らしき、白いチュニックに茶色のズボン、黒の厚底ブーツと何だか違和感のある服装で、口と顎には立派な白い髭を生やしている。ゲントはこの人を見た瞬間。

「亡国の教皇とは思えない軽率な行動だな」

 実行犯に印を付けて逆探知するはずが、首謀者本人が出てきたらしい。

「私が手塩をかけた信徒を転移直前に襲いおって、貴様らはどこまで卑怯なんだ!」

 それはこちらのセリフであり、たった今卑劣な手で私を襲おうとした悪人に言われる筋合いはない。ゲントは彼に見せつけるように大きく溜息をついて

「貴殿の行いは全て崇高であり、私達は全て愚行と言うのか……全くもって邪教の祖、としか言えないな」

 分かりきった教皇の言葉に改めて溜息をつく。私はこんな両親に似た何かを見るようで、しかしなぜか、今回は恐怖よりも怒りが込み上げてくるのはどうしてだろうか。やり場のない感情を内に秘めているとキュールが透過魔法を解除して近づいて

「まあ、首謀者が見つかったし、後は処刑をして終わりでいいんじゃないかな?」

 早いところ、この事件の犯人を処分したい為、他人事として私に言ってくる。

 当然、自身の命を雑に扱われている教皇は黙っているはずがなく

「この私を処される事があってなるものか! 貴様は神に背く悪魔だ、今ならまだ引き返せるぞ」

 どうやら命を助けたら神に救われると言う全くの嘘を言って止めてくるが、そんな事をしたら襲われて私達が死んでしまう為、理論が破綻している事を全く分かっていない。

「これ以上、戯言を聞いていると私も何をしてしまうのか分からない。とりあえず黙らせるぞ」

 そう言ってゲントは初歩魔法で教皇の呼吸を奪ってから気絶させた。

「キュール、私の転移魔法では距離が届かないので、城まで持っていくぞ」

「兄上、自由を奪っておかなくて大丈夫?」

 ゲントは「そうだな」と呟いて、私の右前に出るであろう魔法陣の位置に声を掛ける。

「申し訳ございません、女王陛下。あなたの感覚喪失魔法でこの罪人の自由を奪って頂けないでしょうか?」

 最初から聞いていたかのように魔方陣が現れ、彼女は音声越しに

「ええ、分かったわ。今、魔法をかけるから後は貴方達で処理をしてちょうだい」

 数秒後、痙攣(けいれん)していた教皇の手足は完全に動かない状態になった。

 ここからは完全に手足の自由を奪われた教皇を馬車で城の正面入口前まで運んだ。


 行きと同じく帰りも十分ほどで着き、馬車から教皇を降ろす。すっかり無言となった彼の様子を見つつもゲントは転移魔法を使い、転移先の何かに呼びかける。

「ハーゼ・ベーゼ、久しぶりの人間だ。今からそちらに送るから出てきてくれ」

 すると、転移魔法の先から魔法陣を通って、何かがやってきた。

 黒いウサギである。地肌は真っ赤で普通の動物ではない事は容易に想像が付く。しかし、そんなことよりも

(黒ウサギだ、かわいいなぁ)

 そう、見た目はただの可愛い黒ウサギで、何者かはどうでもいいと思ってしまうくらいである。

「君が次期妃予定の子っすか……初めまして、我(われ)は地下牢に居候してるハーゼ・ベーゼと言います」

 ハーゼは全身を使い、私に可愛く一礼して簡単な自己紹介を済ませる。そして、流れ作業のように

「じゃあ、この人間は我が処理しておくから、後は王様に報告しておいて」

 ゲントには目を合わせる事もなく、転移魔法の先まで教皇を引き摺(ず)って行った。

 私はハーゼが気になり、彼に聞くと

「あやつの正体は魔王が束になっても適わない魔神ハーゼ・ベーゼ。生まれたのが何年前かどうして地下牢に移り住んでいるのか何も分からないが、シーグル国が不利益を被った事は一度もない。良く分からない存在だ」

 魔王の上の存在と言うと、大魔王と言ってもいいのだけれど、見た目が可愛いだけで特に悪い子には見えなかった。しかし、全く謎の存在なので次に話せる機会があれば、是非とも話してみたいと思う。

 首謀者も処分して、城に戻ってから国王と妃に報告をすると、あれから三分後に教皇は処理されたらしい。

(カップラーメンかな?)

 いや、私自身何を考えてるか全く分からないけど、元居た世界の食べ物が即座に思い浮かんだ。この世界では全く役に立たない代物だけれど。

 私はそれから、ユーリと共に浴場で体を癒し、風呂から上がって眠りにつくのだった。

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