四章 強権女王との対話と進展
約束の一週間後。
通常通り、朝に目覚める。例の女王は午前中に訪問してくる予定だ。
相手の性格を考えると時間帯が遅くなったりするのはまずないだろうと言う事で、私も対面の為にユーリに着付けをしてもらっている。今回は以前に採寸してから新しく来たお召し物となる。妃に譲ってもらった物とはさほど違う物ではないが、今回の衣装に関しては妃の着ている物と装飾などがほとんど同じで、全体の色味が若干違うだけの公の場での物となる。
(相手の事が全く分からないから怖いなぁ)
相手は私の事を知ってるようだけど、私からは本当に何も知らない。いざと言う時に備えて万全を期した方が良さそうだ。とは言っても、結局はメイドのユーリ頼みにしないといけないのが情けない限りである。
着付けが終わり、普段は見ないメイドが部屋に入ってくる。キュルマはゲントについてるので裏方と言える人が案内をする事になっているようだ。私とユーリは彼女の案内のもと、玉座の間に移動した。
玉座の間に入ると、既に国王は玉座に、妃は国王の左側に立ち、ゲントは逆の右側に立っていた。これは有事の際、即座に護衛する為の物でもあるが、玉座から少し離れた左奥には第三皇子のシュピールが前回と同じ格好で大人しく立っていた。
(美結が説明するみたいだけど、何を言うんだろうか)
私に言ってない情報みたいだけど、それが何なのかはまだ知らない。どちらにしても訪問してくる女王の行動次第と言う事なのだろう。
ユーリとキュルマは私の近くに待機して護衛は二人と言ったところ。私の立ち位置については国王達とは少し離れた位置に待機している。右側の玉座への低い段差の下傍だけれど。
さすがにこの状況で会話をする者はおらず、お互いに目配せで意思疎通を図る。
それから少しして、城壁の見張りをしているギルドの人達から連絡があり、城前まで案内をした後、また別のメイドが案内し、いよいよ玉座の間に来る頃には三十分が経っていた。
そして、本日の来客である女王が護衛と鎧姿の兵士を数人引き連れて歩いてきた。その中にはギルドで話したキネルも含まれている。護衛と言っていたのだけど、直属の護衛のようで彼女の近くに張り付いている。どうやら私と接触した事自体がリスクのある特命だったらしい。
女王は玉座に座っている国王の数メートル離れた正面で立ち止まり、ドレスの裾を外側に持ち上げ、頭を少し下げてから挨拶する。
「お初にお目にかかります。私、キルカスパートスで国を取り仕切っております〝ヒルヴェア・キルカス・パートス・クルーヌ〟と申します。以後、お見知り置きを」
至って普通の自己紹介だけど、所作一つが神々しいと言うか現時点の私にはできない物である。
(それにしても、絵に書いたような完璧な女王様だなぁ)
彼女は腰にかかる長さの黒紫の一切の歪みのない長い髪に黒のみのロングドレスを身に纏っている。時折見えるこちらも黒のハイヒールと傍から見れば悪徳令嬢と言ったところだけど、私と一瞬目が合った時、なぜか微笑んだように見えた。
国王は彼女の挨拶を受け、まずは自身の名を名乗る。
「私はこのシーグルの国を治めているファインダルトだ。この場に居るのだから名前のみで紹介させて頂く」
フルネームだと、どうしても無駄に仰々しいところをある為、それと手短にと言うのもあるのだろう。続いて、左隣に立っている妃を左手で示して紹介する。
「こちらが王妃のハイルフェルネ。右側に居るのが第一皇子のゲズントハイトだ」
続けて右手で示し、ゲントの紹介も行った。次は私の方に目線を合わせて紹介するが
「そして、彼女の後ろに待機しているのが、第二皇子のキュール。前に立って挨拶せよ」
いつから居たかは不明だけど、隠れていたキュールは私の前まで移動してから女王に挨拶する。
「初めまして女王陛下、私はキュールと申します。普段は城下町でギルドマスターの任についておりますので、以後お見知り置きを」
右手を体に添えて左手を水平方向に差し出すと言う中世では良くあるお辞儀をした。そして、次に玉座から離れた左奥に目線をやり、シュピールの紹介をする。
「そして今回、美結様と異世界同士で会話をする為、尽力してくれるのが第三皇子のシュピールになります」
全身黒ローブの彼は無言で女王に一礼して、また直立不動になった。
今度こそ私の方を見て、紹介するように目配せされる。
「私は九塚静菜と申します。二ヶ月ほど前、シーグル国に第一皇子の婚約候補として召喚され、引き続きお世話になっております」
「そう、やはりあなたがあの〝九塚静菜〟さんと言う事ですね。詳細は〝千城美結〟さんが教えてくれるらしいから話はそれ次第ですね」
どうやら、美結とも因縁があるらしいけど、それが何なのかは現時点では分からない。
国王は早速、第三皇子に美結と会話をする為の準備を行うように指示する。
「シュピールよ、前回と同じ手順で準備をしてくれ」
シュピールは魔法を使い、今回は私の右側に部屋の中央に方向を向けるように白い壁を生成する。そして映像越し美結が映し出される。
「皆様、おはようございます」
どういうテンションか知らないけど、警察官の敬礼ポーズでこちらに挨拶する。
今日のゲストに当たる女王は口を開いたまま無言となった。美結は時々、相手を呆れさせる事を得意としている変な人である。
「ああ、ごめんね。早速、本題に入ります。まず、ヒルヴェア様に確認したいんだけど、あなた……〝氷見窓香〟さんの転生した姿ですか?」
女王は名前を聞いた瞬間、一瞬で黙ってしまう。しかし、数秒後には口を開いた。
「ええ、その通りよ。でも、どうしてそんな転生した事まで分かるのか、教えてくれないかしら?」
当然である。いきなり、転生したと言っても現実的でなく、まして固有名詞まで当てられると言うのはどう考えても異常としか考えられない。美結は特に表情を変える事なく説明する。
「まず、転生がどうこうについて説明します。シーグルの書物には転生がどうこうは載せていないと思いますが間違いないですか?」
彼女は国王に直接聞く。国王は首を横に振り「そのような書物は存在しない」と一言答える。美結は説明を続ける。
「そちらには記載はないはずですが、私の家には百年前に召喚された姉妹の姉の残した本にしっかりと記述がありました。理由は転生者を悪用されない為、意図的に黙っていたようです」
今度は妃が「私ならそのような方が居れば、有効活用いたしますね」と何気に怖い発言を流すように答える。さらに話は続き
「そしてあなたが誰かと言う理由は事前にシュピール様に聞いた内容を整理すると、私達に関わる人で当てはまるのはあなたしか居なかった為です。私と母、そして総理も基本的に敵だらけでしたから、当時の味方と言う事で当てはまるのは氷見窓香しか居なかった。結果が静菜の両親を殺害する計画だったからアレだけど」
本当にアレとしか言いようがない。味方になるのはいいけど殺害しようとしたと言うのは、いや、当時の私だったらそれを望んでいたのかもしれないので何とも言えなかったりする。
「それで、殺害できなかった結果が今回のこちらの世界も巻き込んだ計画に発展していますが、それに対して申し開きはありますか?」
女王は僅かに語気を強め、美結に迫っているような口調で聞く。
「それに関しては本当に申し訳ございません。そして、今回私が介入する手段が無い為、ヒルヴェア様のお力も借りる可能性が高いと考え、このような手段を取らせて頂きました」
美結は女王に謝りつつも、改めて私の件でお願いする。
「まあいいわ、今日はそのつもりでここにわざわざ来たのだから」
やはり最初から私を助けるつもりで協力関係を築く予定だったらしい。本当に嬉しい限りではあるけど、ここで気になる事が出てきたので美結に聞いてみる。
「窓香さんと美結は随分、親しい間柄みたいですが、良く会っていたのでしょうか?」
女王は前世の名前を私の口から聞き、若干顔を赤くして息が荒くなってるような気がする。しかし、美結から出た答えは意外な物だった。
「いや、一度も会った事はないよ。初の対面は私とお母さん、そして総理と一緒に葬式に行って棺桶の中にいるの見ただけだから」
彼女が亡くなった後に顔を見ただけだと言う。それなのに仲の良い感じで羨ましくも思うが、もう一つ気になる事があったので再び聞く。
「どうして私に彼女の事を教えてくれなかったの?」
この質問に女王はうんうんと子供のように首を縦に振り私に賛同する。今の様子は女王の尊厳を感じられないけど、今後が大丈夫だろうか。
美結はうーんと唸りながらも慎重に答えていく。
「あの当時は静菜は極限状態だったし、氷見窓香の存在を知らせて心を痛めて欲しくなかったんだよね。まあ、今日このような形で会えて全て解決って事でいいんじゃない?」
と思えば、無責任な答えに終わった。さすがに女王も右眉をひくつかせていたが、ここである事に気付いたようだ。
「今、あなたの顔を良く見たら、随分と歳をとっているように見えるのですが気のせい?」
そう言えば、私と美結の事は17歳前の姿しか想像していないらしく、そのような質問をしているのが分かる。美結は笑いながら答える。
「だって、あれから十年以上も経つんだよ。今はそれなりに肌のケアは必要になるし……ん? そう言えば、あなたも転生したにしては随分と大人になっているようですが?」
私は美結の質問に漸くどう言う事か気付いた。普通に考えれば、私は十歳若返って十七となり、女王はその時から転生すれば通常なら十歳にしかならないはずである。
「ええ、私は先日、二十歳になったばかりですね。そうですね、前世のままで生きていれば三十七歳になっているはずでした」
彼女の答えを聞いた美結は「ああ」と溜息交じりに声を出した後、何を思ったのか
「それならこうは考えられない? ヒルヴェア様は三十七歳、静菜は十七歳。年齢差で考えれば母と娘、静菜の両親は児童虐待を繰り返す両親とは言えないこの世から葬るべき存在。そして、今日からあなたは静菜の母親に代わって、お妃様と共同で娘を育てる。どう、良い考えじゃない?」
美結がまた訳の分からない提案をした。しかし、女王はまた息を荒くしてから
「悪くないわね。シーグル国に嫁に出しているという体で母娘であれば、人目を憚らずお会いする事ができますわ」
美結の出した案に食いついてきた。そして次の瞬間、女王は私に小走りで近づき、私を頬を摺り寄せながら抱きしめてきた。
「これからはキルカスパートスの姫として扱いますので、寂しくなったらいつでも私のところに来てくださいませ」
彼女のスキンシップはどう考えても、母娘のそれではなく、異性に対しての接触の仕方である。
そして、この瞬間。私が男性にだけ身体的な恐怖を感じる体質だと言う事も証明された。
この様子を奇異な目で見ていたのはキルカスパートスからやってきた面々であり、私が目線を合わせても黙って頷くだけで、責任を持って引き取ってくれと言わんばかりの無言の意思表示である。ここで私はある事を察知し、美結に聞いてみる事にした。
「もしかして、美結が窓香さんと会わせたくない理由って……女性のストーカー?」
真実を知る事に怖さもあるのだが、知らないのもまた怖いので聞いて納得するしかない。
美結ははっきりと溜息をついてから答える。
「うん、そうだよ。彼女が静菜の両親を殺害する為に動きを見せていた時、既に傾向が出ていたから」
やっぱりそうなんだ、と知りたくない情報が確定し、摺り寄せてる女王を確認してると、さらに言葉が続く。
「まあ、生き続けてさえいれば静菜の事を任せてもいいかな、と思っていたくらいだから。まあ、女王陛下の前世に言える言葉があるとすれば、命を捨てる行為さえしなければ理想の未来が待っていたのに残念でしたね。と言う言葉かな」
その言葉を聞いた女王は何を思ったのか素早く私から離れて
「いえ、美結様の慈悲深きお情け、大変にありがたく思います。これからは私達母娘としてやっていく所存ですので、どうか温かく見守ってください」
なんと、映像越しの美結に土下座までした。そして本人は気付いていないだろう、前世だと思しき口調になっている事に。
その光景を見た私以外は「あの女王様が五体投地した!?」ととんでもない言葉が飛び出したかと思うと、キネルが物を転移できる程度の魔法を使い、いつの間にか事の成り行きを書き留めた手紙を母国に送っていた。
そして再び、女王は私を抱きしめて頬を摺り寄せてきた。
「これから母として、手取り足取り様々な事をお教えいたしますので、大船に乗ったつもりで私に出来る限りお聞きくださいませ」
(これは結婚の契約か何かかな?)
彼女の発言は強気の求婚にしか見えず、しかも手続きとしては確定した物となった。
そして何より、彼女に抱きしめられている間、私は安心感を覚えてしまう為、別の意味でも救いようのない状態である事も確信した。
これ以降はスムーズに話し合いが進み、キルカスパートスの全面的な協力が保証され、後日、正式な同盟協定の書類と特別養子に関する書類が国王に届き、それを私にも確認させ、この件は終了となった。




