16話 笑っていてほしかったんだ
「なぁアテーネ」
「なに?」
「ここの暮らしは楽しいか?」
「うーん、両親が死んじゃったのは悲しいけど、おじさんと暮らせるのは楽しいよ?」
「そっか」
薪を割る。魚を釣る。イノシシを狩る。
アテーネとやったことが、全て新鮮で楽しかった。
もうあの戦禍から10年か……。
アテーネは17歳か……。なにか考え深いものがある。自分は一度も子供を育てたことは無かったけど、それでも楽しかった。苦労することもあったけど、それ以上に楽しい思い出が造られた。
「……」
あの時、小屋を見つけた。崩れかけていたが、板を張り替えるだけで済んだだけだったからよかったよ。
この家も愛着深い。
「そろそろ何処かに行かないか?」
「何処って?」
考える。
「……アテーネはどこかに行ったことがあるか?」
「ほかの国に行ったことは無いし、家の周りだけだったかな?両親たちは旅行を計画してたけど、侯爵?だっけ。殺されてから国に渡ることを禁じられたからね」
「……いいんだぞ、ほかの国に渡っても」
「正直言っておじさんを置いていけないよ。もう40超えてるんだから」
「もう老人扱いか?」
アテーネは頬を膨らませる。若干怒っているようだ。なぜ?
「あと10年すぎないで初老を超えるんだから、足腰悪くなったら飢えるかもよ?」
「違いねぇ」
他愛ない時間。これが永遠に続けばいいと思うのに。
――いつも突然、不幸はやってくる。
「おじさん!」
あれはまさか、――天。
意識を失った。
❊ ❊ ❊
おじさんの首が撥ねられた。なんで突然こんなことになるのだろう。私には分からない。
不幸を忘れていた。
バチが当たったのだ。それでも、許せない。
「……おじさんを返せ」
「しゃぁぁッ」
天使は唸り声を出す。唾液はボタボタ垂れる。気持ち悪い、けれどそれ以上に――怒りだ。
「私の不幸を肯定するやつなんて死んでしまえばいいんだ」
私は吐き捨てる。怒りに身を任せる。こんなやつなんて死ねばいいのに。
❊ ❊ ❊
気づいたら、天使の肉体はばらばらだった。
気持ち悪い……それ以上におじさん!
「そっか。死んじゃったんだ」
私は地面を掘っておじさんを埋めた。
祈ることしかできない。私はなんて無力だったのだろうか。私は守られてばっかりだった。
でも、結局一人なんだ……。
神様ってひどいね。そもそも天使を生み出したのが神なのだから、嫌いだよ。神も。
そっか、だから異端宗教として聖霊信仰は。
孤独を私は取った。どうして私から大切なものを奪うんだ。なんで人を襲うんだ。食べるならわかる。当然の摂理だ。私たちが危害を加え、人間を殺すのは仕方ないと思う。けど、何もしていないのに……。
そっか、神を殺せばこれから先、子供を襲う天使が出てくるかもしれない。
私と同じ未来を辿ってほしくない。
私は傲慢だ。そんな勝手に押し付けるなんて。でも、おじさんが言っていた。私が生まれているのは「証」なのだと。
それが痛いと私自身感じているし、庇っても庇いきれないことなんてしょうがないと思う。
それでも……。
押し付けだけど。守ろうと決めた。




