15話 牙をむく信者
聖霊信仰はすでに異端宗教として扱われ始めた。
異端宗教と言っても、まだ浸透しておらず、貴族程度にしか影響はなかったのだが、ある時それは崩れた。
「貴様らは極刑に処す!」
侯爵であるエルメッド侯爵家、一族諸共処刑。
エルメッド侯爵家は聖霊……天使を信仰していた。
故に処刑された。
………
……
…
戦いの火ぶたは切られた。
――エルメッド侯爵家は人民の保証に厚く、民衆たちの評価も大きかったという。
だが、一家諸共虐殺ともなれば――
「エルメッド侯爵たちの仇を討てッ!」
民衆たち叛逆を起こした。統率の取れ、軍隊以上の圧倒的人民。
その数、およそ400万名。
続々と仲間を増やし、現状は750万名以上。
エルメッド侯爵家から、国は崩れたのだ。
………
……
…
――聖霊信仰のせいでここまでになった。
公爵家であるアールベック家の当主、ノルアド公爵の最後に、手記としての言葉だった。
それが最後。
エルメッド侯爵家からの民衆により、国は瓦解した。
ある一族によって。
国に仕えた貴族が、国に牙をむいた最初の事例だった。
❊ ❊ ❊
――数か月後
国は全領土の旗を燃やされ、男性の王族は皆殺し。子供と女子は流刑となった。
王城は壊され、国は瓦解した。
民衆は時に王族より力を持つ。それは後世に受け継がれる。
❊ ❊ ❊
「うわぁぁぁっぁぁぁんん!う、うぅうっえ、ぇんん!」
誰かが泣いている。子供だろうか。この戦禍に巻き込まれたのか。
親が殺されたのかもしれない。でも、手を振り払って生きなければならない。
分からないけど、親が死んだなんて。でも、泣いているということは、泣きやませる相手がいないということだ。
瓦礫に足が挟まるが、必死に藻掻く。ズキンと太腿と脛が痛むが、どうにかこうにか抜く。
足を引きずりながら歩く。自分が見えている範囲のはずなのに、とても遠く感じられた。
(ああこれ、止血しないと失血死する)
本能的に理解した。これは今すぐ足を止めて服から止血しないと死ぬ。
でも、この子を生かさなければ、いけない気がした。
人間は子供という生き物には弱いらしい。自分の命がかかっていても。
「やぁ。大丈夫だよ」
意地を張ってやわらかい声にする。本当は痛いし手も震えてる。
でも、この子だけでも生きさせなきゃという焦燥感に駆られ、必死に笑みを顔に貼り付ける。
「ぅぐすぅ。おじさんだれ?」
「いいかな?君は生きなきゃいけない。お母さんお父さんの血を、そのお母さんとお父さんの生きた証を残さなければいけないんだ。だから、生きて……」
「おじさん、あしがいたむの?」
「ああ、そうだね」
痛いしもう意識が失いそうだ。こんな外傷で死ぬなんて、人間は柔いもの。
「だいじょうぶだよ」
子供は僕の太腿に手を当てる。
次の瞬間、太腿から光がでてきた。スッと痛みが和らぐ。
「えっ?」
肉筋一本一本がつなぎ合わせられた。抉れた肉まで再生し、もし生きていたとしてもおそらく右足は使い物にならなくっていただろう足を。
本来なら神経も死んでいたと思うのに。
この子は何かが違う。
やはり人間の焦燥感というのは当たることもあるのか……。でも、生きているなら、この子を育てなければな。
なぜかわからないけど、それでも。
子供の髪を撫でる。髪は吸い付くようで、やわらかい。
「名前は?」
「アテーネ!」
「そうか」
足の痛みはなくなり、歩けるようになったため、子供を抱っこする。
「うわっ」
少し驚いた様子だが、歩き出す。
「ねぇおじさん、どこに向かうの?」
「分からないけど、こんなことにならない場所を目指そうと思うよ?」
「ふーん」
歩き始めてから一時間が過ぎたころだろうか、子供はスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまった。
朝っぱらからこんなことになるなんて思わなかった。
もう昼時か。
少し休むか。
――あの時に手を取り合っていればな……。どうしてただの宗教からここまでになったのだろうか。
罪のない子供までを地獄に落とす。
そんなもの宗教ではない。ただ自分の中の宗教という意味だが、それでも。
おかしい。なぜ……なのだろうか。子供は奪われるだけの人生なんかにしたくない。
せめて、子供の時は笑ってほしいんだ。




