12話 祈る
:ベート視点:
目が覚めると、暗い場所にいた。視点は動かせ、体は動く。歩ける。
――歩いても歩いても、ずっと暗い場所。ここはどこなのかもわからない。ただ、此処は異質な場所だとわかる。
何時間、いや数日が経過したのだろうか。歩いて走っても、暗い場所、色も白と黒のモノトーンしかない。あまりにも何もない。それどころか本当に自分の意識なのかと疑ってしまう。
音は反響しない。それどころか足音しかならない。ただ、すぐに音が消える。
ふと手を空に向けて翳す。空という概念があるのかも不明だが、そもそもそれが空なのかあやしい。
――体内時間で数週間が経過しただろうか。まったく腹が減らず、眠気もない。尿意を催すこともない。
すべての生理現象が消えているといえばいいか。
言葉を発すことはできる。ただ反響しないからすぐ消える。余韻がない。ここは平衡感覚などが本当におかしくなりそうだ。既に狂っているか。
『……見ている』
たまに幻聴が聞こえる。幻聴かもしれないし、何かが語りけているのかもわからない。ただ、自分が声を発し、コンタクトを取ろうとしても無駄だった。
『精神支配してもこれほど狂人』
『僕私俺我朕にはわからない』
また少し幻聴が聞こえてきた。疲れたよ、俺は。そもそも俺は生きているといえるのだろうか。
生理現象がなく、ただ暗い場所に色は二つだけ。
そのなかに、ぽつんと立っている。これは夢なのか、それは自分が存在しているのか。それそら分からない。
――祈れ、死ぬことを。
* * *
「我もそろそろだな」
虚空に一人、つぶやく。聖域内の中心……謎の領域のさらに中心、歪白虚の城でワインをちびちびと飲む。
そろそろ憑代にも精神干渉の影響が出ることだろうな。我もこの肉体を十全に扱えるわけではない。交流が肉体を同調する「鍵」となるだろう。
終わりわない。
* * *
突然声が聞こえた。とても神秘的で、透き通る声だ。声と言ってもあまり言葉ではない、自分が言語を理解できないようになっているのかもわからないから、その声が俺たちが喋っている言語だとしてもだ。
もしその言語を忘れているのなら。
誰とも会話できず永劫の時を経て誰にも深入りはせず、そそくさと逃げ回る人生。
それは恐怖ではない。こんな空間に閉じ込めれている時点で、人と会話するということは失ったも当然である。恐怖ではなく、もしこの場から解放されたら。もし幾年も過ぎて一人残らず俺が知っている人が失っていたら?それこそ恐怖であるのだろうと思う。
そもそも世界から忘れられたも当然。なんでたって俺がいない世界で、もし一人残らず後世に俺のことを伝えていなかったら。それは俺が存在していないということになってしまうのだ。
世界から切り離された忘却の一人になる、それが俺の定めなのかもしれない。
薄っすらと目を細め、意識を少し手放す。そのおかげか、自然と目が閉じる。
生理現象もないのにも関わらず眠るということをしている。俺はこのことから忘れようとしているんだ。
ゆっくりとゆっくりと浅い波に飲まれ、自分の体重で深い場所に落ちていった。
後々気づいた。




