10話 憑代 結
:カール視点:
今日は別に何も起きない日だと思っていたが、突然夜になり、叛逆教会は大慌てときたもんだ。しかし、その大慌ての様子のなかに、ベートを見かけることは無かった。
確かにベートは深夜2時とかまで鍛錬している異常者だが、普通見かけないことなんてあるか?
まさか聖域に転移したとかないだろうな。だが、その前に点呼があったはずで……。
その時に、俺のはベートを見たか?
見ていない……?分からない。だが、その分からないが、俺を恐怖させる。親友が、違うな。
俺にとって唯一の親友で、故郷まで同じなんだ。
それが、もしいなくなっていれば?死んでいたら。
それが本当に俺の意志も、故郷のことを一緒に伝えられなくなるじゃないか。
ああ、怖い。死ぬこと自体は怖くないが、片方だけ生き残ることがあったらとてもとても恐怖で今が地獄になるだろうと思ってしまう。
少し気を紛らわそうと、修練場に行く。
足音がなぜかとても反響する。
(ここを歩いた時、こんな音がクリアになるっけ)
修練場に近くになるにつれて音がさらに反響する。
(おかしいな、こんなにもずっと反響するか?)
修練場についた。
そこにあったのは――黒い跡?木から月明りがチラチラと輝く。
「うん?」
見つけたのは小さな白い粉、鱗粉か?
月明りに白い粉が照らされると、瓶覗きの色を発している。
「なんだよこれ」
とてもいやな予感がした。人間に想像できない何かが起こっている気がする。
どうするべきか。いったん教会に伝えるか?それが最善策かどうか。いや、ベートのためなら犠牲を払うしかないか。
❊ ❊ ❊
「ッ!」
俺は咄嗟に走り出していた。日にちは跨いでいない!なぜかと言ったら朝に俺も修練していた。そして目の前にベートがいた。そして痕跡が真新しいからだ。
どこに伝えるべきかと言ったら、まずは理事室だ。
「失礼します!」
「ノックもせずとは……まあいい。何かあったか」
――座っているのは理事長にして、教会総括であるパルテスである。
「何か起きたのかね?」
鋭い目つきだ。だが、同時に俺の空気も読み取ったようだ。
「ええ。修練室からおそらく天使の痕跡を発見しました。そしてベートが消えました」
「……何を馬鹿なことを言っている」
「ですから天使が……」
「侵入されたというのかッ!」
理事室に怒号が鳴り響く。
「チッッ!修練室を確認しに行く!」
パルテスと俺は走り出した。理事室の後ろにいた兵を置いて。
トコトコと足音が二つ重なる。修練室につれて反響が大きくなる。
「なんだこの反響……異質だな。確かに侵入は確かなものだろうな」
「はい」
修練室を開ける。
「これです」
俺は黒い跡と瓶覗きの粉を見せる。
「ッ!そして、誰がさらわれたのだ」
「ベートです」
「……これはまずいことになった。やられたな」
「どういうことですか?」
「そうだな。彼はとても強力な能力を持っているのだ。そして、神に対する最終兵器のようなものだ」
「は?」
顔は一瞬にして青ざめる。その場の空気が凍り、背筋に悪寒が走る。
つまりどういうことだ。最終兵器?意味が分からない。
どういうことだよッ!
クソ、頭の中がめちゃくちゃだ!
「それで何の能力を持っているんですか……?」
「それは――封印という能力だ」
「封印?」
「封印は、万物全てを封印させるものだ。故に神だろうとも封印、つまり無力化させることができるというわけだ。が、現状はこれだ。我らは確実に負けるだろうな」
「――ッ」
もう負けるというのか。抗い続けても負けるというのか?そんな世界は間違っている。
「ははは」
ぽつりと世界の糸から離された空気だ。空虚で無情な断絶された空間で、一人、薄ら笑みを零した。




