5.あと2回、私は変身を残している
「よし、これで準備完了だ!」
「はい、準備完了ですねっ」
俺はシィを抱えて、この村から出る準備を終える。
ちなみに、聖剣と聖衣とやらは置いていく予定だ。武器は、かさばらないナイフが一つだけだ。
「夢にまで見たお姫様抱っこ! 美少女をお姫様抱っこするのがずっと夢だった! 最大のネックだった筋力が解決した今、俺に不可能はない! 非力なボーイだった俺とはサヨナラ! 俺、今、男として輝いている! もう死んでもいい!!」
「ふふっ、この位置だとイツキさんの顔だけ見える……。無粋な服が見えないから、いい、すごくいいです……。完璧です、完璧美少女すぎます、イツキさん……。ああ、もう死んでもいい……」
俺とシィは幸せの絶頂の中、お姫様抱っこを行っている。
少々納得のいかない言葉が聞こえた気がする。けど、気にならない。気にならないっ。
(う、うん。当人同士がいいのなら、いいことよね……)
クラウの同情的な声も聞こえない。
それほどまでに、俺は人生の絶頂というものを感じていた。
「さあ、行こう! この俺が男らしくっ、男らしく助けてあげるよ、シィ!」
「はい、イツキさん! 最高のシチュエーション(憧れの美少女と密着的な意味で)です!」
ほら、シィもわかってるじゃないか。
最高のシチュエーションだ!
(需要と供給が成り立っているなぁ……)
クラウは呆れたように呟く。
しかし、聞こえない。聞きたくない。
俺は全てを振り切って、地下室の階段を上がっていく。
そして、地上へと飛び出した。
以前のような息苦しさは感じない。降霊術によって、俺の身体はこの世界に適応し、問題なく活動できる。
飛び出すと同時に、近くの茂みに隠れる。
そして、木々の間をすり抜け、遮蔽物を上手く使って、エティンの目から逃れる。
シィを抱えた俺の走るスピードは尋常ではない。
以前の俺が1人で全力疾走しているよりも速い。人一人を抱えているにも関わらずだ。
それなりに大きな物音をたてたもの、エティンが俺たちに気づくことはなかった。
まず、やつらは食事中だということが幸いした。
想像するだけでも不快だが、あいつらは村を食らうことに集中して、他への意識が割かれていない。
さらに、俺とシィが小柄であることも大きい。巨体で視点の高いエティンが、高速で移動する俺たちを捉えることは容易でない。
問題はエティンの数と包囲だけだ。
エティン1匹の目を振り切るのは容易い。
しかし、多くのエティンの目に囲まれてしまうと話は別になる。
一度、俺は大きな木の陰で休憩する。
そして、一旦、クラウの降霊を解除し、幽霊である彼女に周囲の情報を拾ってもらう。
これで包囲網の穴がわかり、安全なルートもわかる。
(術式『半身双一化』)
「術式『半身双一化』」
もう一度クラウと同化し直し、シィを抱え直す。
(こっちよ、イツキ)
そして、クラウの案内の元、俺たちは森の中を進む。
シィに葉が当らぬよう、負担がかからぬよう、細心の注意を払って走る。
何度も安全なルートを割り出しながら移動し、俺たちは森を抜けることに成功する。
背の低い黄緑の草が生え広がる丘へと出る。ここまで来れば、エティンの数も少ない。遠目に数匹いるくらいだ。
(あのくらいの数なら振り切れるわ。あとは向こうへ全力疾走よ、イツキ!)
クラウの指示の元、俺は息を大きく吸い込んで、脚に力を込める。
そして、脚に込められた力を解放し、全力で駆ける。
当然、遮蔽物のなくなった草原では、エティンに発見される。
遠くにいたエティンたちがこちらへ走ってくるが、俺のスピードはそれよりも速かった。包囲されていない以上、俺たちが捕まる要素はない。
シィを抱えた状態で草の大地を踏み、跳び、どこまでも駆け抜ける。
こうして、俺たちはエティンに包囲された村を脱出することに成功した。
降霊術の完成度は10%。クラウにとっては、シィを抱えて全力疾走できるレベルでしかなかったが、それでもエティンの相手をするには十分だった。
草原を走りながら、俺は自分の身体から溢れる力を再確認する。
どこまでも駆けていけるような、無尽蔵な力を感じながら走り続ける。
その後、シィを抱えたまま、何時間も走った。元の俺の身体なら疲労骨折で全身がバラバラになってもおかしくはないだろう。
しかし、クラウを憑依させた身体は息切れ一つ起こしていない。
「すごいな、勇者の降霊術。まるで疲れない」
(まあね。完璧でないにしろ、私の力の一端を得れば、丸一日くらいは余裕で走り続けられるわよ。どう、私ってすごいでしょ? 讃えてもいいのよ?)
それに対し、クラウは偉そうに自分の力を誇る。
「そうだな。すごいよ、クラウ」
偉そうにできるほどの力を、現在進行形で実感しているのだから、何の反論も出来ない。
俺がクラウに感謝していると、腕の中のシィが声をかけてくる。
「あと少しです、イツキさん」
そして、抱えられた状態で遠くを指差す。
その先には、自然の草原ではなく、人間の手が入った村があった。
ようやく目標の村を見つけ、俺とシィは顔を明るくする。
しかし、その歓喜はすぐに掻き消える。
「――村がエティンに襲われています!」
逃げる先の村の近くに、エティンが1匹いたのだ。
遠目でも、その巨体を確認できる。
そして、小さな人々がエティンを村に入れないよう奮闘しているのも確認する。
俺は予定と違う事態を前に、速度を緩める。
このまま、村へ近づいていいかわからなくなったからだ。
「村の前で、エティンと人が戦っている……?」
「そうみたいです。……戦ってるのは首都の騎士様たちですね」
近づくことで、小さな人々の詳細もわかってくる。
数十人の全身鎧を着た騎士たちが、隊列を組んでエティンに対抗している。しかし、その巨体を前に、隊列は意味を成していなかった。
「人が押されてる……」
「イツキさん、このままだと騎士様たちが!」
心優しいシィは騎士たちの劣勢を見て、今にも駆け出しそうだ。
他人が死ぬことを自分のことのように恐れている。
しかし、俺は腕に力を込めて、絶対にシィを離さない。
そして、これを何とかできるであろう人物に相談する。
「クラウ! 一匹くらいなら、いけるのか!?」
(うーん、囲まれてないならなんとかね。けど、万全じゃないから無理しちゃだめよ?)
「信じるからな!」
このままだと、俺のシィが泣いてしまう。
それは許せない。許されない。
俺はシィの為に、ここにいる。
「シィ、俺が行って助けてくるから、ここで待っててくれ!」
「イツキさんが? だ、大丈夫なんですか?」
「もちろん。俺にはあの勇者様が憑いてるから、心配しなくていい」
俺はシィの頭を撫でて、自信満々を装って微笑む。
そして、言葉を返そうとするシィを置いて、全速力でエティンへと駆けた。
シィという枷をなくした俺は風のようだった。
およそ人間では到達できないであろう視界が網膜に映る。一歩の一歩の歩幅から伸びていき、人間味が失われていく。前方の風景が、一瞬のうちに隣を過ぎていく。
俺は風の速さで戦場へと辿りつき、第一声をあげる。
「俺の名前は衛媛一姫! 旅人だ! 俺がその化け物を倒してやる!!」
騎士たち全員へ聞こえるように、そして、エティンへの宣戦布告も兼ねて叫んだ。
そして、全員の注目が俺に集まる。
誰もが驚きの目で俺を見る。なにより、俺の姿を見て戸惑っている。
騎士たちの中の一人が、俺に叫び返す。
「なっ、おまえのような少女では――っ!」
「――俺は男だ!」
最後まで言わせず、俺は叫びながらエティンに襲い掛かる。
エティンは突然現れた俺に拳を打ち下ろす。
しかし、遅い。
わざとスレスレでかわし、その腕の上を駆け上がる。
エティンは群がるハエを払うように腕を動かそうとするが、それも遅い。
エティンが腕を動かした瞬間には、俺の手に持ったナイフが首筋を切裂いていた。
「お、おぉ!」
騎士たちはエティンに一太刀入れた俺を見て、揃って喜びの声をあげる。
しかし、逆に俺は不満の声をあげる。
「浅い! 体積が無駄にでかい!!」
俺は攻撃を成功したあと、地面へと飛び降りる。
常に動き続けていなければ、エティンに捕まってしまう。俺は次の攻撃手段を考えながら走る。
(困ってるわね、イツキ! しかし、ここに生きる伝説クラウ・フィンフィラード様がいる限り、悩み無用!)
「クラウ、策があるのか!?」
(私が最強だったのは単純な強さのみの話ではないわ。
その百戦錬磨の経験も武器の一つなのよっ。
私には、あらゆるモンスター、神獣、悪魔、魔族と戦った際の知識がある!
ゆえに、イツキ。何の心配もいらない!!)
「あ、そういうのいいから。相手の特徴と弱点を、簡潔に3秒で纏めて教えてくれ」
なんだかクラウの語りが大仰過ぎて不快だったので、俺は冷たく返してしまう。
(…………)
「…………」
エティンの嵐のような攻撃をかわしながら、俺とクラウの間に静寂が流れる。
(うふふっ、私が初めてエティンと戦ったのはいつのことだったかしら。
そう、あれは私が6才の頃、故郷を追われた私が荒野を旅していたときね。
あのとき、私は軽い脱水症状に陥り、体調は最悪だったわ。
魔力を練ることもままならない状態で――)
そして、クラウは唐突に自分語りを始めた。
同化してるからか、クラウの怒りの念が僅かに感じ取れる。
「長い! わざとだろ! そういうのはあとで聞いてやるから!」
迫り来る拳をかわしつつ、ナイフで切り払うが、エティンの怒りを買うばかりで決定打にはならない。
右手をかわせば、左手が。左手をかわせば、右手が。絶え間なく襲ってくる。
しかし、その全ての動きを俺は見えていた。
まるで水の中のように鈍く動いていく世界。
液晶に写ったスローモーション映像を見ているような錯覚がする。
それほどまでに、何もかもが遅い。
かわすと同時に腕を裂く。かいくぐると同時に脚を裂く。
隙を見せれば横腹を裂く。背後を取れば背中を裂く。
余裕があれば身体に登って急所を裂く。目を、脈を、脊髄を狙って裂く。
裂いて裂いて裂きまくる。
長いようで短い時間が過ぎ、ついにエティンは前のめりに倒れた。
身体のいたるところから血を流し、細い息を繰り返す。
俺は力のないエティンの背中に登り、心臓があると思われる箇所にナイフを深く突き刺した。
クラウが憑いたことによって得た馬鹿力が、肉の奥に潜む臓器までナイフを届かせる。
エティンはごぷりと口から血を吐いて、絶命した。
「ごり押しで倒しちゃったじゃねえか……」
俺は返り血を拭いながら、倒れたエティンを見つめる。
(エティンの特徴は猪突猛進で、知性が低いことよ。
弱点は背中の肉が薄く、心臓を背後から狙えるわ。
はい、3秒!)
「終わってから言うな!」
戦闘終了してから助言するクラウに、俺は全力で突っ込みを入れる。
(私の楽しみを奪うイツキなんて死んでしまえばいい……っ!)
「そこまで!?」
(私の楽しみは自慢して自慢して自慢して、最後にちやほやされることよ。
定期的に褒められないと、禁断症状が出るわ。
――つまり、イツキは言ってはいけないことを言ったわ)
「難儀な性格し過ぎだ。いいから、ちゃんとやる気出してフォローしろ」
(あぁ、ちやほやされたいー。私のための賛美歌が聞きたいなーっ。
あぁ、私の銅像千個くらい建たないかなぁ!
もしくは、私に惚れてる美少女が百人くらい出てこないかなぁー!
可愛い子が私を褒めてくれたら、やる気出るのになぁー!!
イツキくらいの美少女でいいんだけどなぁー、ちらっちらっ)
俺はエティンの上から移動して、周りで口を開けたまま動かない騎士たちに声をかける。
「大丈夫ですか、皆さん。怪我はありませんか?」
(イツキって、躊躇なく無視するときあるわよね……?)
できるだけ丁寧に、そして、優しい笑顔を心がけて俺は騎士たちの安否を気遣う。
距離を取っていた騎士たちの表情が和らいでいくのがわかる。唐突に乱入してきた不審人物への対応を計りかねていたが、俺の友好的な態度を見て考えを変えてくれたようだ。
「な、なんと、美しい少女だ……」
「美しく……、そして、強いっ。あのエティンを短剣一つで仕留めたぞ……っ」
おい。
「この世の者と思えぬ美しさだ。まるで、戦乙女……」
「いや、あの可憐な姿。神の使わした天使に違いない!」
「天使どころではない……っ。もはや、女神! 我らの世界に舞い降りた戦の女神――!」
興奮した様子で、口々に俺を讃えていく騎士たち。
何度も何度も、俺の美しさばかりを繰り返す。
いや、いやいやいや。
そして、その中の一人が一歩前に出てくる。
一人だけ鎧の造りが違う。兜には羽がついており、鎧の装飾からも隊長格であることが見て取れる。
その装いにふさわしい荘厳な雰囲気を纏う、凛々しい女性だ。
いわゆる、女騎士だった。それも隊長。しかし、俺より背が高い。
俺は美女の登場に喜び、そして、下手をすれば目の前の美女のほうが俺よりも男らしい可能性に悲しむ。
いや、背が高いって言っても、少しだよ。ほんの少しだよ。
四捨五入すれば同じくらいになるはずだよ。
(この女騎士ちゃんとイツキを並べて、「どっちが男でしょう?」って聞いたら、たぶんイツキのほうが票少ないわね! 流石、私のイツキ!)
的確に俺の心をえぐってくるクラウを呪いながら、俺も女騎士へと一歩近づく。
女騎士は兜を脱ぎ、金色の髪を揺らしながら、頭を下げる。
「美しき少女よ、騎士団を代表して礼を言う。私はコールハワード王国『右天』騎士団第三十五分隊『黒空』の隊長の――」
「――少女じゃねえよ! 最初に男って言っただろ、こらぁ! わざとか、おまえらわざとか!?」
やっぱりか! もう嫌だ!
異世界にやってきて、化け物に襲われていた美女を助けたのに、男扱いされないとか!
何のリターンもない!
ちょっとぐらいの役得があってもいいじゃんか!
(わざとなのは私だけよ、イツキ。落ち着きなさい)
「おまえ、やっぱりわざとだったのかぁ! これが落ち着けるかぁ!」
(美少女のイツキを愛でつつ、美少女のイツキを煽れる。萌えと愉悦を同時に味わえるとは、イツキってば本当に罪作りな美少女よねぇー)
「萌えとか言うな! なんかおまえ、俺の世界に毒されてない!?」
(ええ、イツキの世界の文化は、大体網羅しているわ! つまり、イツキが魔法少女風ツンデレ系男の娘であることも理解しているわ!)
「そんな風に俺を見てたのか!? 最悪だ!」
俺は呆然とする騎士たちを置いて、クラウと言い争っていると、目の前の女騎士は申し訳なさそうに頭を下げ直す。
「す、すまない。君は男だったのだな。よく見れば、精悍な顔つきをしている。我々の無礼を許して欲しい……」
せ、精悍な顔つき?
「あ、いや、こんなのつけてたら勘違いするのも無理ないよね。頭上げて」
俺は思いもしない褒め言葉を受け、冷静さを取り戻す。
ウィッグを外して、女騎士に言葉を返す。
「寛大な心に感謝する。しかし、その美しい髪はウィッグだったのだな……」
女騎士はウィッグを外した俺を見つめる。
じっと見つめられると、照れてしまう。
そして、少し離れたところで様子を伺っていた騎士たちがどよめいている。
「着け毛だったのか!?」
「い、いや、しかし、それでも美しい。男とは到底……」
「ショートヘアーの女の子になっただけとしか見えない……」
「男、なのか……?」
「いや、逆にいい……」
こ、こいつら……。ぶちのめしたい……。
エティンを屠ったパワーで殴りたい。特に最後のやつ。
「確か、エヒメイツキ殿だったかな。申し遅れた、私はこの騎士団の隊長、フレイ・デリーターだ」
「え、えっと、イツキで呼び捨てでいいよ。よろしく、フレイさん」
差し伸べられた手を、俺は笑顔で握る。
しかし、困った。口調が固まらない。
「ああ、よろしく、イツキ。こちらも、フレイと呼んでくれていい」
「わかったよ、フレイ」
目の前の女性の年齢がわからないので、対応も中途半端なものになる。俺よりも背が高いとはいえ、かなり若く見える。俺と同年代の可能性だってあるだろう。
敬語を使えば間違いはないのだろうが、登場時に荒々しい口調だったため、今更敬語に戻すのも憚れた。
いや、本音を言おう。
敬語を使うと、女の子に間違われやすいのだ。
これは元の世界の16年の経験がはっきりと示している事実だ。
だから、敬語を使うのが俺は好きじゃない。
ゆえに、傍若無人な荒くれ者キャラでいい気がしてきた。
そうだ。
もうこれでいこう。
これしかない。
これなら男っぽいだろ!
高校デビューは失敗した俺だが、異世界デビューは失敗しない。
絶対にだ!
「それじゃあ、イツキ。まずは礼がしたい。とりあえず、村へ入ろう」
「ああ、わかった。けど、少し離れたところに人を待たせているんだ。連れてくるから、ちょっと待っててくれ」
「同行者がいたのか」
俺はできるだけ男らしく答えて、シィのほうへと歩いていく。
「しかし、なんて綺麗な顔だ。まるで王子様――」
そして、フレイから目を離した瞬間、変な言葉が耳に入った。
俺は驚いて、後ろに振り返る。
「ん? ……ん?」
「い、いや、何でもない……」
「あ、はい」
フレイは顔を赤らめて、顔を俯けていた。
俺も恥ずかしくなり、曖昧な返事を返して、シィのほうへ進み直す。
いくらか距離が離れたあと、俺は小さな声でクラウに話しかける。
「な、なあ……」
(確かに、王子様って言ったわね。いやぁー、頭の中に、お花畑が広がってそうな子だね。おもしろそっ!)
「だよな。今、王子様って言ったよなっ」
(驚きねー。こんな美少女捕まえて、王子とか発想がすごいわー。ウィッグを外したときのインパクトが強かったのかなー)
「こ、これはきてる……。学芸会と文化祭の演劇、皆勤賞でお姫様だった俺が王子様っ。王子様だっ。ははっ、俺を女装させてきた全人間よっ、ざまあみろ!」
念願の男役がきた!
つまり、リターンもきてるってことだ! 役得きたよ!
このフレイって人、俺に惚れてるんじゃないの!?
ぶっちゃけ、異性から同性愛の気もなく好意を寄せられるのは初めてかもしれない……。
(んー、状況補正かな。死にそうなところを華麗に助けたシチュエーションが、イツキの美少女パワーに勝ったのかな。元々、王子様願望強そうな子だし。いや、それとも……)
「いや、いやいや、やっと俺のイケメン力が開花してきたんだよ。俺から男らしさが溢れ出してきたんだよ!」
(それはないわー)
「こ、こいつっ。でも異性にモテてるのは避けようのない事実だからなっ」
(しかし、あのフレイちゃん。全うな性癖かどうか怪しい)
「あ、うん……。それは確かに……」
そこは否定しにくかった。
素で王子様なんて言葉を発する人間なんて始めて見た。
盛り上がった気持ちが消沈したところで、シィのところへと辿りつく。
「シィ、なんとかなったよ。村へ入ろう」
「すごいです、イツキさん。あのエティンを単独で倒すなんて……」
どうやら、遠めで俺の活躍を見ていてくれたようだ。
もしかして、フレイに続きシィも俺に異性として好意を持ってくれたのだろうか。
「そ、そうかな……?」
俺は意中の女の子の賞賛を受けて、顔を赤して照れる。
「間違いなくすごいです。お疲れ様です。今、汚れをとりますね……」
「ありがとう、シィ」
シィは懐からハンカチを取り出して、俺の顔を拭う。
そして、泥を払い、俺の髪に手を伸ばして整える。そして、俺の手にあったウィッグを取り、頭へと乗せる。余りにも流麗な一連の動きに、俺は抵抗ができなかった。
「はい、これで綺麗です」
シィは満足そうに、女装を完成させた俺を見つめる。
「う、うん、言葉通り、綺麗にしたね。けど、もう敵はいないし、ウィッグは外しておこうと思ってるんだけど……」
そう言って、俺がウィッグに手を伸ばそうとすると、シィが手を掴んで首を振る。
「いえ、いつモンスターが現れるかもわかりません。これがないと、イツキさんは力を失うんですから、危ないですよ」
「いや、敵が現れたらすぐに被るから、大丈夫だよ?」
「いやいや、油断しちゃ駄目ですよ。万が一のことがあります」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや。――さあ、行きましょう。イツキさんっ」
シィは強引に話を打ち切り、髪の長い俺の顔に見蕩れながら、手を引っ張っていく。
本当はウィッグなんてつけていたくない。しかし、そうするとシィは悲しむだろう。
俺はシィを悲しませたくない。
すごく、ままならない。
惚れた弱みとも言う。
…………。
シィの手って柔らかいなぁ……。
そんな現実逃避をしつつ、俺は引っ張られるがままに村へと向かった。




