お守り
「大将、その絵の後ろにあるものは何?」
夕は驚く店主を静かに見つめ、もう一度問いかけた。
「師匠……」
粟冬が立ち上がろうとしたが、夏凪に引き留められた。夏凪は粟冬に向けて首を横に振り、夕と店主の方へ視線を戻した。
「一つ聞きたい。あんたは夏凪と粟冬の何なんだ?」
店主が真剣な面持ちで夕を見つめると、夕は顎に手を当てて少し考えた。
「師匠……かな? 薫の奴から、こいつらをしっかり鍛えてくれって頼まれたしね」
「薫……薫先生か!? 今、薫先生って言ったのか!?」
店主は一歩前へ踏み出すと、夕の肩を激しく揺さぶった。夕はさっき食べたばかりのご飯が逆流しそうになる。
「た、大将! 落ち着いてください!」
「ハハハ! 夕の奴、バチが当たりやがった!」
「あんたは薫先生の何者なんだ……」
店主は夕の肩を揺さぶるのをやめた。
「……一応……同門の妹弟子、かな……」
夕は顔を真っ青にしながら自分の口を手で押さえ、吐き気を必死に堪えていた。
(あの師匠、僕に『師匠』って呼ばれるのをものすごく嫌がってたけどね……)
夕は水を一口飲んで体勢を立て直し、再び店主に向き直った。
「あなたの質問には答えたよ、大將。それで、壁の絵の後ろにあるものが何なのか、教えてもらえる?」
夕は再び店主に問いかけた。
店主は振り返って絵画のところへ歩み寄り、それを壁から外した。絵の後ろには、小さくて深い青色をした石が隠されていた。店主はその石を夕に手渡した。
「石……?」
夏凪と粟冬が声を揃えて言った。
「いいものだね! まさかこんな場所にこれがあるなんて」
夕は石を光にかざし、思わず感嘆の声を漏らした。
「まさかお嬢ちゃんに気づかれるとはね。恐れ入ったよ」
店主はにこにこと笑いながら言った。
「師匠、それは何ですか?」
粟冬と夏凪は席から立ち上がり、夕の隣に寄って石を観察した。
「これは素晴らしいものだよ! 魔晶さ! 色も実に見事だね!」
夕は粟冬と夏凪の肩を激しく揺さぶった。
「吐く……」
「う、うぷっ……」
「大将、これって妖獣から手に入れたものだよね。それに、薫の奴の気配が残ってる」
夕が魔晶を粟冬に向かって放り投げると、粟冬は慌ててそれを受け止めた。
「その通りだ。当時、俺が妻と一緒にここで飯屋を開いたんだが、初日にやってきたのは客じゃなく妖獣だった。絶体絶命って時に、薫先生が俺たちを救ってくれたのさ。その後、薫先生がこの魔晶を俺たちにくれて、好きに処理していいと言い残していったんだ」
店主は魔晶の経緯を説明した。
「先生はきっと、俺を信用して預けてくれたんだ!」
(あいつ、ただ処理するのが面倒だから押し付けただけだと思うけど……そんなこと口が裂けても言えないな……昔のあのロクでもない様子を知ってたら、絶対そうだと確信するよ……)
夕は昔のことを思い出し、思わず視線を逸らした。
「でもね、魔晶ってちゃんと処理しておかないと、妖獣を引き寄せる原因になるんだよ。あいつの気配が魔晶を封じ込めてくれていなかったら、今頃また妖獣が押し寄せていただろうね」
夕のその言葉を聞いた瞬間、夏凪は飛び上がらんばかりに驚き、魔晶を放り出した。魔晶が床に転がる。
「ちょっとちょっと、乱暴に扱っちゃダメだよ。物を大切にしないんだから」
夕は魔晶を拾い上げ、ついた埃を払った。
「そ、その中身はどうやって処理すりゃいいんだよ」
夏凪は冷や汗を流しながら言った。
「お守りか何かに加工すればいいだけさ。大したことじゃないよ」
夕は悪趣味な笑みを浮かべながら、魔晶を夏凪に近づけた。夏凪は呆れ顔の粟冬の後ろに隠れ、まるで小鳥を守る親鳥のような光景になった。
「当時、俺も能力者に頼んでお守りにしてもらおうとしたんだが、みんなに断られてね。魔晶のランクが低すぎるって言われたんだ」
店主が数人を見つめながら言った。
「こんなにいいものをランクが低いだなんて。そういうことなら、僕がやろうか」
夕がそう言うと、店主たちは驚愕して彼女を見つめた。
「あんたがやるって、本当にできんのかよ?」
「おいガキ、僕を疑ってるのか? 僕は君たちの師匠だぞ」
夕は夏凪を呆れたように見た。
「危険すぎます。いくら魔晶といえど、とても危険なものです」
「何、君まで僕を信じないの……?」
夕は額を押さえた。
「よし、試してもらうとしよう」
「大将!?」
店主の言葉を聞き、夏凪と粟冬は驚いて大声を上げた。
「やらせてみようじゃないか。薫先生の妹弟子というのが本物かどうか、俺たちにも見せてもらおう」
店主は目を閉じて言った。
夕は魔晶を軽く放り投げ、手を一振りした。魔晶を鎮圧していた薫の気配を消し去った瞬間、魔晶から放たれた強大な気配に、夏凪と粟冬は恐怖のあまり店主の手を引っ張って後退した。
妖獣の咆哮が耳元で鳴り響き、粟冬と夏凪は顔を真っ青にして冷や汗を流し、無意識のうちに店主の腕をきつく掴んでいた。
(うるさいな。いっそのこと、直接……)
夕は微かに眉をひそめ、宙に浮く魔晶に向けて手を挙げた。魔晶を粉砕してしまおうと考えたが、隣にいる面々のことを思い出し、すぐにその考えを放棄して手を下ろし、目を閉じた。
「静かにしなよ。僕の可愛い弟子たちを驚かせないでおくれ」
夕は再び笑みを浮かべたが、その笑顔はどこか陰湿に満ちていた。
夕は一歩前へ踏み出し、片手で魔晶を握り締めた。
(少し強引にいくか……そうしないと言うことを聞かないしね)
夕の瞳が赤く輝き、手の中の魔晶が白い光を放った。粟冬たちはその眩しさに耐えかねて目を閉じた。
「よし、目を開けていいよ」
数人が目を開けると、そこには夕がお守りに改造された魔晶をぶんぶんと振り回している姿があった。
「そんな風に振り回して大丈夫なのかよ」
夏凪が夕の隣に歩み寄り、お守りをじっくりと覗き込んだ。
「問題ないよ。さっきあれだけやったんだから」
「気楽に言ってくれるぜ」
夏凪は呆れて夕を見た。夕は肩をすくめる。
夕はお守りを店主に手渡すと、大きく背伸びをした。
「これで大丈夫。大将、このお守りは常に身に付けておくことをお勧めするよ。いや、何があっても絶対に身に付けていてね!」
「わ、わかったよ」
「よし、それじゃあ全部終わったことだし、ふぁあ……ちょっと疲れたね。今日はここまでにしよう。君たち二人も早く帰りなよ。わかった?」
店主に言い含めた夕は、振り返って粟冬と夏凪を見た。
「わかりました」
二人は声を揃えて言った。
「それじゃあ大将、俺たちはこれで。ごちそうさまでした!」
「ありがとうございました。またのお越しを!」
夏凪と粟冬は夕に別れを告げ、夕の視界から去っていった。そして夕は歩きながら、ふと思った。
「そういえば、薫の奴、僕の泊まる場所を用意してくれてないみたいだな……まあいいか、適当な木の上で寝るとしよう」
翻訳ツールを使っているので、間違っていたら教えてください。




