冗談
——後悔した……。
つい先ほど、薫によってビルから押し出された夕は、さっき弟子を取るなんて言わなければよかったと、公園のベンチに座って悔やんでいた。
「あのくそ老いぼれ妖怪め、自分の仕事を押し付けやがって。絶対にあいつを破産するまで食い尽くしてやる」
そう吐き捨てると、夕は立ち上がって背伸びをした。その時、目の前のベンチに座っている夏凪と粟冬の存在をふと思い出した。
夏凪は目の前にいる夕に対して、不信感と警戒心を抱いているようだ。見るからに一筋縄ではいかなそうなオーラを纏っている。
粟冬は夏凪に比べれば接しやすそうだが、いかんせん無表情で、夕に対しては純粋な好奇心だけを抱いているようだった。
——この二人のガキ、どう処理したものか……。薫のところに放り投げ直して帰るか。
夕が二人をどう送り返そうかと企んでいると、突然、声が上がった。
「あの……薫先生とはどういうお知り合いなんですか?」
声をかけたのは粟冬だった。その顔には相変わらずこれといった表情はない。
「あの薫とかいう老いぼれ妖怪か? 僕とあいつは同じ師匠に教わったんだ。認めざるを得ないけど、あいつはここでかなり上手くやってるみたいだね」
夕は再び腰を下ろし、背もたれに寄りかかりながら気怠げに言った。
「どうして薫先生のことを老いぼれ妖怪なんて言うんですか」
「あいつはもう500歳だから」
「500歳!? 骨董品じゃねえか!」
夕がそう告げると、夏凪は凄まじく驚いた表情を浮かべた。粟冬の顔に大きな変化はなかったが、額には冷や汗がにじんでいた。
「じゃあ、あんたもまさか……」夏凪は嫌な予感がしたのか、引きつった表情で夕を指さした。薫の年齢を聞いたせいで、夕の年齢もそれと同じくらいだと思い込んだのだ。
「残念ながら、僕はまだ16歳だよ。証明書でも出そうか?」夕は呆れたように夏凪を見た。
「だったらなんで、薫先生はあんたに俺たちの『能力』の指導を頼んだんだよ」
夏凪は極めて態度の悪い様子で、夕に問いを投げつけた。
「僕は君たちに『能力』を教えに来たんじゃない。剣術や武術の類を教えに来たんだよ」
夕は左手で自分の頭を支え、右手でひらひらと手を振った。そして、どこかミステリアスな笑みを浮かべた。
「はあ? 『能力』の使い方も学ばずに、代わりに剣術を学ぶってか? あんた、本当は『能力』なんて持ってないんじゃないのか!」
夏凪は夕の言葉に苛立ちを募らせた。粟冬は隣で身動きもせず、夕がなぜ「能力」を教えないのか不思議そうにしている。
その会話を耳にした通行人たちが一斉に足を止め、不気味で品定めするような視線を三人、正確には夕へと向けた。
「そんなに見つめないでよ。僕だって恥ずかしくなる。……なーんてね」
夕は軽やかに笑うと、立ち上がって一番近くにある大樹の根元へと歩み寄り、落ちていた木の枝をいじり始めた。
「まったく、まったく。ほんの数日前までただの一般人だったガキのくせに」
突如、夕が木の枝を無造作に数回振るうと、隣の大樹がメキメキと音を立てて倒れた。夏凪と粟冬も「能力」についての知識はあったが、それでも背筋に冷や汗が流れるのを止められなかった。
「木が……倒れた……」
「どうして……」
夕がパチンと指を鳴らすと、風が巻き起こり、無数の葉がその大樹を包み込んだ。数秒と経たないうちに葉は散り、大樹は何事もなかったかのように元の姿へと戻っていた。夕は木の枝を放り投げ、夏凪と粟冬の方へと歩いていく。
「君たち二人は、今のところ『能力』について知識として知っているだけだろう。何しろ数日前に『書』に選ばれたばかりなんだから。無闇に使えば危ない目に遭うよ。まずは基礎体力のトレーニングからだ。行くよ、青二才のガキども」
言い終えると、夕は先に公園を後にした。夏凪と粟冬は互いに顔を見合わせ、小走りで夕の後を追いかけた
翻訳ツールを使っているので、間違っていたら教えてください。




