『技能』
こうして二ヶ月が経ち、夏凪と粟冬は夕のトレーニングにすっかり慣れていった。もっとも、たまに夏凪が余計なことを言って夕を怒らせ、追加のしごきを受けることはあったけれど。
この期間中、夕は粟冬からスマホの使い方を教わっていた。とても便利なものではあったが、夕はネットゲームにのめり込むようになり、たまにゲームのために夜更かしをしては、夏凪に無理やり寝かされるようになっていた。普段の三食も夏凪が面倒を見ており、ピーマン嫌いの粟冬と、普段あまりご飯を食べない夕は、いつも夏凪に捕まっては食事を摂らされていた。
本来は隣の部屋が夕のために用意されていたのだが、夏凪と粟冬は夕が私生活においてほぼ何もできないことに気づき、二人の判断で夕を客室に住まわせることにしたのだ。
夏凪は料理がとても上手だったが、たまに粟冬の嫌いなピーマンが食卓に並ぶことがあった。粟冬がピーマンを皿の端に避けるたび、夏凪は容赦なく皿の中のピーマンをすべて粟冬のところへぶち込んだ。夕には特に嫌いな食べ物はなかったが、たまにご飯を食べるのさえ面倒くさがることがあり、結局はそのたびに夏凪に引っ張ってこられるのだった。
「あいつ……だんだんオカンみたいになってきてない?」
「夏凪はもともと、こういう人だよ」
朝、夏凪に引きずり出されてきた夕と、皿の中のピーマンを避けている粟冬は、夏凪が作った朝食を食べながら、魚を焼いている夏凪の陰口を叩いていた。
「もし俺に子供ができたとしても、絶対にあんたたちみたいなのはお断りだね。一人は食べるのを面倒くさがるし、もう一人は偏食だしさ」
「あんただって人参嫌いなせに!」
「少なくとも俺は食べる。あんたはハナから口にすらしないだろ」
夏凪は焼き上がった魚をテーブルに置くと、夕の向かい側に腰掛けた。夕は朝食を食べながら、口喧嘩をする二人を眺めていた。
「師匠は、嫌いな食べ物ってないんですか?」
粟冬と夏凪はひとしきり言い争った後、揃って夕に視線の向けた。
「ないと思うよ。大抵のものは食べるしね」
「羨ましいなぁ……」
粟冬は夕の偏食のなさを羨んだ。
「君たち二人は、子供の頃からの知り合いなの?」
夕は味噌汁のお椀を持ち上げ、目の前の二人を見た。
「俺たちは物心ついた時にはもう一緒にいた。まあ、兄弟みたいなもんだよ」
「いいね、そういうの」
夕は味噌汁を口にした。
「あんたにはいないのか?」
夏凪が顔を上げた。
「覚えてないんだよね。子供の頃のことは何も記憶にないんだ」
「何一つ?」
口に豆腐を詰め込んでいたため、夕は言葉を返す代わりにコクコクと頷いた。
「普通、少しは覚えてるもんだろ……」
「頭の中には空白しかないんだよ。何一つ覚えてない。ただ、師匠たち数人のことだけしかね」
「『たち』?」
夕は考え事に耽り、無意識のうちに箸を動かす手を止めた。
「うん、あの人たちのことだよ」
「それより、トレーニングを始めてもう二ヶ月か……今のところ覚醒したのは粟冬だけだね」
夕は顎に手を当ててそう言った。夏凪は眉をひそめて俯き、粟冬は心配そうに彼を見つめた。
「夏凪、覚醒のことは心配しなくていいよ。覚醒するタイミングは人それぞれだからね。一番遅い人だと、50歳になってからようやく覚醒した人だって実在するんだから」
夕は肩をすくめて言った。
「じゃあ、薫先生はどうなんだよ?」
夏凪は顔を上げ、ひどく不機嫌そうな顔で夕を見た。
「認めたくはないけど、あいつは10代の頃に覚醒したんだよ。おまけに天才なもんだから二つの能力を持っていて、あんな顔をしてるくせに……」
夕は忌々しそうに言いながら、不器用な手つきで魚の骨を取り除こうとした。だが、またしても魚の身を派手に跳ね上げさせてしまい、見かねた夏凪が皿を丸ごと引き取って骨を取ってやることにした。夏凪は手際よく骨をすべて取り除くと、夕の前に皿を戻した。
「あんな顔って?」
粟冬が味噌汁を飲みながら尋ねる。
「……何が目的だか知らないけど、あいつはわざわざ『無効化』を使って、自分の身体の時間を10代の頃で停止させてるんだよ」
「でも、今は20代くらいに見えますよね?」
粟冬は不思議そうに小首を傾げた。
「『技能』のことを説明し忘れてたね……。おそらく『幻化』か何かを使って、今の姿に偽装してるんだと思う」
「『技能』と『能力』って何が違うんだ?」
夏凪は箸を置いて尋ねた。
「『技能』は後から学ぶことができる。でも『能力』は無理。ただ、『技能』もそれなりの才能が必要だけどね」
「なるほどな. その『技能』ってのは、どうやって学ぶんだよ?」
夏凪が問いかけると、部屋の空気が一瞬にして冷え切った。
「それは……あんな感じだよ。感覚で掴むの」
「どんな感じだよ!!」
翻訳ツールを使っているので、間違っていたら教えてください。




