「創造」
「どうして羊なんだ? 昨日、羊のことを考えたりした?」
夕は不思議そうに粟冬を見た。
「昨日……昨日……あ! 昨日、トレーニングのせいで筋肉痛がひどくて眠れなくて、羊を数えて寝たんです」
粟冬は小首を傾げて言った。
混み合ったソファに座り、手元に羊を一匹抱えながら、後ろの夏凪の背中にもたれかかっている夕は、顎に手を当てて考え込んだ。
「あの子、覚醒したね」
「はあ?」
夕の導き出した結論に、三人は戸惑いの声を上げた。
「『能力』が、大方覚醒したんだよって言ったんだよ」
夕は呆れてもう一度繰り返した。
「……」
「……」
三人は沈黙した。
「おそらく『創造』の能力だね」
夕は彼らを無視して、自分の推測を続けた。
「どうして『具現化』じゃなくて『創造』なんだい?」
薫が尋ねる。
「その二つって何が違うんだよ」
ずっと黙っていた夏凪が口を開いた。
「簡単に言えば、格が違うんだよ。『創造』は生命体を作り出せるけど、『具現化』にはそれができない」
夕は顔を上げて夏凪の質問に答え、腕に抱いている羊を指さした。
「薫、前にあっちにいた時にも同じようなのに遭遇したでしょ? 忘れたの?」
夕は目を細めてからかうように言った。
「ちょっと忘れちゃったな」
「老いぼれてボケたんじゃない?」
「そういえば、ここ数日はどこで寝てたんだい?」
薫は話をそらし、これまで滞在先がなかった夕に問いかけた。
「パトロールだよ。最近、この近くの結界に穴が開いてて、怪物や魔獣が入り込んでる。忘れずに補修しておきなよ」
夕は顔も上げず、手元の羊をいじりながら言った。
「じゃあ、寝る時間はあったのかい?」
薫が眉をひそめて言う。
「日が昇ってからの二時間、木の上でちょっと寝たよ」
夕がそう言うと、薫は夏凪に目配せした。夏凪は振り返り、強引に夕の顔を上向かせた。案の定、夕の目元には酷い隈があった。
「師匠……木の上で寝てただなんて……」
「あんたバカだろ、夕。筋金入りのバカだ」
粟冬と夏凪は呆れ果てて言い、夕は気まずそうにそっと視線を逸らした。
「ご飯はちゃんと食べてるのかい?」
薫は額を押さえながら言った。
「ここへ来る前、師匠が僕にお小遣いと、あなたのクレジットカードをくれたんだよ。元々はあなたから用事があるって話だったのに、まさかその用事が『師匠になれ』だとは思わなかったけどね」
夕はそう言って、ポケットから財布を取り出して見せた。
「……僕、師匠に言いつけようと思うんだけど……」
「あんたが宿泊先の手配を忘れてたって知ったら、師匠は僕とあんた、どっちを先に殴ると思う?」
夕の言葉に、薫はすでに悲惨な未来を想像したのか、ため息を一つついてポケットから鍵とスマホを夕に手渡した。
「鍵は隣の部屋のだよ。スマホの使い方は、後で粟冬に教わって。夏凪、あいつの三食をしっかり管理してやってくれ」
「了解です」
「分かりました」
「ところで、この羊の群れはいつ消えるんだい?」
「あと一時間もすれば消えるよ」
一時間が経ち、羊たちが徐々に消えていくと、薫はかかってきた電話に出ていくつかの指示を出し、そのまま去っていった。ソファには三人だけが残された。
「それで、君たちは今日もトレーニングやるの?」
夕は立ち上がり、振り返って夏凪と粟冬を見た。
「まずはあんたを寝かせた方が良さそうだな」
「賛成。ベッドに押し込んじゃいましょう」
言うが早いか、夏凪と粟冬は素早く夕の両腕を掴み、客室へと引きずっていった。
「物置部屋……?」
「物置は隣の部屋だよ。ここは客室。元々は……友達が泊まるための部屋だ」
夏凪の言葉に、夕は不思議そうに二人を見つめた。
「師匠、まずは寝てください。僕と夏凪で食材を買いに行ってきますから」
粟冬はそう言って夕をベッドに横たわらせ、夏凪が夕に布団を掛けた。
「……フカフカだ……」
夕は狸寝入りを決め込もうとしていたが、マットレスの心地よい柔らかさに加え、平均二時間しか寝ていない限界の身体だったため、すぐに深い眠りに落ちてしまった。
「こいつ……普段は木の上で寝てるくせに、マットレスに寝かせた瞬間一発で爆睡しやがった」
「ふふ、僕たちも早く食材を買いに行きましょう」
翻訳ツールを使っているので、間違っていたら教えてください。




