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第27話 受け止めきれない

 まだ唇に彼の熱が残っている。

 恥ずかしくて顔が上げられない。私はさっきからうつむいたまま黙り込んでいた。


 帰りの車内はとても静かだった。カーステレオから流れる音楽だけが、かすかに耳に届く。


 桐生さんはいったい何を考えているんだろう。

 さっぱり見当もつかないけれど、もしも私と同じ気持ちなら、嬉しい。


 しばらくして、家からほど近いコンビニに停車した。最初に待ち合わせをした場所だ。


 ふっと緊張がやわらぐと同時に、ほんのりとした寂しさが胸に広がった。


 もうお別れなんだ。


「桐生さん、今日はありがとうございました」


 頭を下げて顔を上げた瞬間、すぐ目の前に桐生さんの顔があった。

 息を呑む間もなく、彼が私に口づけた。


「っ……」


 不意打ちに驚き、息が止まる。

 さっきの優しいキスとは違う。感情をぶつけるみたいな激しいものだった。


 心臓が破裂しそうで、頭が真っ白になる。とっさに軽く押し返した。


「あ、あの、ちょっと、ま……」


 いったん唇が離れたのに、すぐにまた塞がれてしまう。


 体がじんわりと火照り、口づけはさらに深くなる。初めての感覚に身をよじるけど、彼は身を引く気配がない。


「んっ……」


 抵抗するつもりで腕を伸ばすが軽く掴まれてしまった。

 そのままシートが倒されて、仰向けになる。桐生さんが覆いかぶさるように身を寄せてきた。


「ま、待って」

「好きだよ、花音」


 ドクン。名前を呼ばれると、体の力が抜けてしまう。

 甘く痺れるような感覚はあるけど、急すぎて気持ちがついていかない。


 ふいに柔らかな感触が首筋に触れた。


「あっ」


 ど、どうしよう。まだ心の準備が。


「い、いや!」


 思わず声が出た。桐生さんの動きがぴたりと止まる。


 彼の瞳が悲しそうに揺れた。


「あ、あの、私、まだ……」


 躊躇(ためら)いを見せると、彼は押し黙り、ゆっくりと口を開いた。


「わかった」


 それだけ言って、桐生さんは眉をひそめた。

 ズキッと胸が痛む。


 あきれた? 怒った?


 桐生さんはすっと身を引いた。


 ゆっくり起き上がって、そっと彼を見る。桐生さんは下を向いたまま黙り込んでいた。


「き、桐生さん……」


「うん。ごめん。もういいから」


 こちらを見ない。少し冷めたようなその口調に、血の気がさっと引いた。


 だ、だめだ。

 嫌われた。


 そのあと、桐生さんは何も話さなくなった。

 気まずい空気に耐えきれず、私は「じゃあ、帰ります。さようなら」とだけ言って車を飛び出した。



 逃げるように走って、家まで帰った。

 荒い息を整えながら部屋の真ん中で立ち尽くす。


 絶対嫌われた。呆れてたよね。「ごめん。もういい」って、そういう意味だよね?

 私、振られたの?

 いや、まだそうと決まったわけじゃない。別れようって言われたわけでもない。……でも。


 私はその場でひとり膝を抱えた。


 やっぱり私じゃ桐生さんを満足させることなんてできないんだ。


 似合ってないってことは最初からわかってた。それでも、自分なりに彼にとっていい彼女でいようって思って、頑張ったつもりだった。


 でもこんな彼女、嫌だよね。あんなふうに拒絶して。


「はぁ、どうしたらいいの?」


 頭の中がもやもやして、何も考えられない。


 ふと、土岐くんの顔が浮かんだ。

 まただ。最近よく彼のことを考えてしまう。


 そうだ、また彼に相談をって……さすがにそれは無理か。


「はは、私なに考えてるんだろう」


 悩みは尽きることなく、夜は更けていった。


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― 新着の感想 ―
桐生さんとのすれ違いに悩む花音、切なすぎますね(/ _ ; ) 自分の中だけで抱え込まないでほしいです…。
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