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第26話 うまくできない

 その後、彼の運転で少しドライブを楽しんだ。


 桐生さんってハンドルさばきまでイケてる……。横顔をつい盗み見てしまう。


 だってとにかく乗り心地がいいんだもん。昔、父親に乗せてもらったときのことを思い出し比べてしまった。



 昼食は、湖岸にあるお洒落なレストランでランチを取った。

 運ばれてくる料理はどれも高級そうなものばかりで、見た目だけでも圧倒される。


 ……気が張っていたせいか、味も何もよくわからなかった。


 そっと桐生さんを見ると彼はとてもリラックスしている様子だった。


 デートなんてきっと何十回もしてきたんだろうな。


 桐生さんは、私と一緒にいて楽しいのかな。

 そのことがずっと胸の片隅に引っかかっていた。



 ランチを終えると、そのまま映画館へ向かった。


 桐生さんにエスコートされるまま席に着く。

 上映されるのは、ラブロマンス映画だった。


 彼の趣味なのかな。それとも、私のために選んでくれたんだろうか。

 こういうところも抜け目なさそう。


 隣に座る桐生さんとの距離が近くて、腕が触れそうになる。


 映画どころじゃなくて、内容はほとんど頭に入ってこなかった。

 ああ、いったい何をしてるんだろう。せっかくのデートなのに。


 ちょっと落ち込んでいると、桐生さんが声をかけてきた。


「ね、景色のいいところ、行ってみない?」


 さりげなくウインクされ、私はただ小さくうなずくことしかできなかった。




 彼が連れてきてくれたのは、きれいな景色を見渡せる海岸だった。


 近くの道路脇に車を止めて、ふたりで砂浜を歩く。


 波の音と潮の匂いが心地いい。

 暮れなずむ空は赤く染まり、その色が海に映ってとても幻想的だった。


「……きれい」


 景色を見つめながら今日一日を思い返す。


 散々だったな。せっかくの初デートなのにろくに楽しめなかった。

 桐生さんもきっと呆れてる。


 デートってこんなに大変なものなの?


 知らなかったよ。世の中の女性たちは、いったいどうやって乗り切っているんだろう……って、もしかして私だけ?


 そんなことを考えていると、土岐くんの顔が頭に浮かんだ。


 彼と一緒だったら、気楽に過ごせたのかな。


 土岐くんと一緒だと緊張しない。一緒にいるだけで癒される。自然で、なんでも話せて、親友みたいな……って、何考えてるの。


 今は桐生さんとデート中なのに。


「どうしたの? 元気ないね。楽しくなかったかな」


 立ち止まった桐生さんが真剣な眼差しを向けてくる。


 ゆらゆらと揺れる熱を帯びた視線。

 そのまっすぐさに射抜かれて、頬がじんわり熱くなった。


「あ、えっと、ごめんなさい。そうじゃなくて……」


 心配させてしまったかな。どうしよう。


 慌てる私を見て、桐生さんが困ったように笑う。


「無理をさせてるのかな?

 ごめん。女性と接するのには慣れてるつもりだったんだけどなあ。……どうも、望月さんにだけはうまくいかないみたい」


 悔しそうで、少し照れたような笑み。

 その意外な表情に、胸が小さく揺れた。


「ちがうんです! 私が悪いので、気にしないでください。

 あれですよね。私じゃつまらないですよね? やっぱりお付き合いやめますか? 桐生さんにはもっと素敵な女性の方が――」


 そこで言葉が詰まる。

 彼が、とても悲しそうな顔をしたから。


 どうしてそんな表情をするの?


 ズキズキと胸が痛む。苦しい。私はなんて言えばよかったの? どうすればよかった?


 息が詰まるような苦しさが胸にせり上がってくる。

 いや。こんなのいや。

 やっぱり、私には無理だったんだ。恋愛なんて。


「望月さん」


 その声にはっとして、顔を上げる。

 優しい瞳が私をじっと捉えていた。


「君は何も悪くない。大丈夫、もっとリラックスしてくれていいんだよ。

 俺もまだまだだな。こんなに緊張させるなんて」


 俯いて笑う彼を見て、心が少しだけ軽くなった。


 そんなふうに言ってくれるなんて。

 胸があたたかくなってぎゅっと締めつけられる。溢れそうな思いに耐えきれず、口を開いた。


「あの……なんでそんなに優しいんですか?

 どうして、私のこと嫌にならないんですか……」


 手を強く握りしめる。

 こんなことを言ってどうなるんだろう。

 気づけば、頬に熱いものが伝っていった。


 桐生さんの目が少し見開かれ、その手が私の頬をそっと包み込む。


「泣かないで、望月さん……いや、花音さん」


 ドクンと心臓が跳ねる。


 見上げると、愛おしそうに見つめられていた。


「花音さんは可愛いよ。それにとても美しい。自分では気づいていないだけで。

 俺は幸せだ。君にも、そうであってほしい」


 そう言って彼は目を細め、幸せそうに笑った。


 とろけてしまいそう。


 足元がふらつき、彼が私をふわりと抱き留めた。

 その仕草はとても優しくて――


「花音……」


 桐生さんの顔がゆっくりと近づいてくる。


 私は何もできないまま、そっと目を閉じた。


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― 新着の感想 ―
花音、デートに慣れてないからどうしても疲れてしまうでしょうね(・・;) 二人がぎこちなくなってしまう場面…花音がリラックスできる何か良いきっかけがあるといいのですが…。
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