表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/43

第28話 いつも通りなんて

 朝の光が窓から差し込み、爽やかな今日がはじ……まらない。

 けっきょく、あれから一睡もできないまま、寝不足の朝を迎えた。


 鏡を見れば、やつれた自分が映っている。

 ひどい顔。目の下にはしっかりとくまができていた。それをコンシーラーで隠しながら大きく息を吐く。


 桐生さんと今日も顔を合わせるよね。同じ部署なんだから当たり前か。どんな顔をして会えばいいんだろう。

 気まずいなあ。でも、変な態度を取ったら彼も嫌だよね。


 ここはいつも通り。うん、そうだよね。


 そう思い直し、準備を済ませて勢いよく家を出た。



 ――けれど、その勢いはあっけなく削がれることになる。


 会社に着いてすぐ、足が止まった。

 エレベーター前にいるのは桐生さんで、私は少し離れた場所から見つめることしかできない。


 どうして話しかけないのかって? だって彼は今、女性社員に囲まれて楽しそうに談笑している。


 せっかく覚悟を決めて来たのに、なんて運が悪いんだろう。自分の運のなさを内心でぼやいた。

 この状態じゃ、声なんてかけられない。

 でも、無視して通り過ぎるのも、それはそれでどうなんだろう。


 迷っていると、後ろから声がかかった。


「おはよう、望月さん」


 振り向くと、土岐くんが立っていた。

 爽やかな笑顔に少しほっとする。


「おはよう、土岐くん」


「どうしたの? こんなところで」


 そう聞かれて、答えに詰まったまま桐生さんのほうを見てしまう。


「あ、そういうことか」


 土岐くんは納得したように小さく頷いた。


「よかったら、運動がてら階段で行かない?」


 そう言って、にこりと微笑まれる。

 突然の提案に戸惑っていると、「いいから、いいから」と軽く背中を押された。


 私は促されるまま、エレベーターを通り過ぎて階段へ向かった。




 階段をのぼりながらそっと隣に目をやると、そこに土岐くんがいる。それだけで、張っていた気持ちが少しゆるんだ。

 こういうのも、たまには悪くないかもしれない。


 少しの沈黙のあと、彼が口を開いた。


「……あのさ」


「な、なに?」


 さっきのこともあって、ちょっと気まずい。


「聞きにくいんだけど、桐生さんと、うまくいってないの?」


 ああ、やっぱり心配してくれてる。だからさりげなく助けてくれたんだ。

 どうしよう、さすがに今回のことは相談しづらい。


「う、うん。ちょっと」


 適当に誤魔化しながら、ぎこちなく笑ってみせた。


「そっか。でも、きっと大丈夫だよ。

 桐生さんいい人だし、すぐに仲直りできるって。二人ともとてもお似合いだよ」


 天使みたいな微笑みに、心があたたかくなる。


「……ありがとう」


 感動していると、土岐くんは照れくさそうに笑った。その表情がまた可愛い。


「ねえ、ひとつ聞いてもいい?

 前から疑問だったんだけど、土岐くんは、なんでそんなに親切にしてくれるの?」


 率直な気持ちだった。ことあるごとに慰めてもらっている。

 彼の性格なのかもしれないけど、誰にでもこんなふうに優しいのかな。それとも、私だけ?

 なんて、そんなわけないよね。


「え? そ、それは……」


 土岐くんが戸惑ったようにあたふたした、そのとき。


「よお、おはよう!」


 後ろから声がかかり、土岐くんの肩がびくっと跳ねた。


 振り返ると、男性が階段を駆け上がってくる。よく見れば、この前食堂で会った土岐くんの同僚だった。

 彼は私たちの前で足を止め、にこりと笑う。


「あ、邪魔だった?」


 ちょっとにやけた表情で土岐くんを見る。


「な、なにがだよ! おはよう。ほら、行くぞ」


 土岐くんは慌てた様子で彼の背中を押し、そのまま階段をのぼっていった。


「望月さん、また今度ね」


 途中で一度だけ振り返り、そっと優しく笑う。その背中は、やがて階段の向こうへ消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
桐生さんとの距離を戻すキッカケ…残念でしたねΣ(・□・;) でも、土岐くんが言うようにきっと大丈夫!(*´꒳`*) それにしても… 土岐くんが花音に親身になってくれる理由、早く本人の口から聞きたくて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ