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86、式神の知らせ

「はぁ~、”東海竜王の竜牙”と”鉄扇公主の翡翠石”に”玉面公主の石榴石”とは、恐れ入ったねぇ」


 猪八戒はそう言いながら、孫悟空の抱きかかえる沙胡蝶の額を触ってきた。息が浅かったので高熱が出ているのかと猪八戒は心配したが、どうやら熱はないとわかり、安堵のため息をついた。


「三蔵様。もう夜が来ますし、沙胡蝶殿を休ませたいと思うのですが……」


 もう逢魔が時は過ぎ去って、辺りは薄暗くなっていた。沙悟浄は、玄奘に声を掛けた後に一つの提案を口にした。


「ここからならば街よりも流砂河の方が近いです。あそこなら河童の薬があるので、沙胡蝶殿の体も直ぐに良くなりますぞ!」


 確かに歓楽街に行くよりも流砂河の方が近いと、筋斗雲で確認済みの孫悟空は同意した。しかし檜と楡は、川で野宿することに良しとは頷かなかった。沙胡蝶をきちんとした布団で休ませたいと主張したのだ。だが、そんな檜と楡の所に、歓楽街の方から式神が飛んできたことで、彼らはそうも言っていられなくなった。


「げ!!太上老君が来てるって!!」

「そうか。試練が終わったから、僕らを連れ戻しにきたのか!」

「大変だ、楡!老君が店のお酒に手を出し始めて、困っていると書いてあるぞ!」


 檜と楡は沙胡蝶と同じくらい顔色を青くした。


「大変だ!あのお方は酒は()()なんだぞ!店のお酒を全部飲んでしまう!」

「それにただでさえ乗り物酔いで体調を壊しているさっちゃんが、酒精でさらに辛くなっちゃうよ!!」


 金髪と銀髪の双子は慌てふためきながらも、孫悟空に抱き上げられている上から、そっと優しく沙胡蝶を二人がかりで抱きしめた。


「さっちゃん、沙胡蝶っていうお名前だったんだね。とっても可愛いお名前だね。でも僕らはずっと友達だから、これからもさっちゃん、と呼ばせてね。後ね、本当に瓢箪で怖い思いをさせてごめんね。さっちゃんを小さくさせちゃってごめんね」

「さっちゃんが海の化生でも怖くなんかないよ!僕らもね、本当は狸の化生なんだ。おんなじだよ。ずっと友達だからね」

「うん。ありがと。ずっと。友達」

「これ、僕らの式神。また困ったことがあったら、いつでも呼び出して。僕ら太上老君の宝を使って君を必ず守るから!」

「後、孫悟空君には絶対口吸いさせないこと!今度こそ内蔵を吸い出されるかもしんないんだからね!それと知らない大人について行っちゃダメ。それと……」

「もう、檜ったら!早く行かないと店が困るよ!じゃぁ、またね、さっちゃん!三蔵法師達、僕らのさっちゃんを頼んだからね!」


 そう言って双子の狸の化生は、慌ただしく歓楽街の方に、走って行ってしまった。10年ぶりに会う、父親代わりの太上老君を思って走る二人の口元は、困りながらも笑いがこみあげるという、おかしなものだった。


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