71、孫悟空の語りはじめ
「どうして沙胡蝶の真珠を奪おうとしたんだ?あれはお前のものではないのだろう!」
東海竜王のさらなる叱責の声にも幽体姿の海の王は、だんまりを決め込み、口を尖らせたままだった。いつもならば、甥がすねてしまったら、東海竜王は仕方の無い甥っこだと追求をそこで止めてしまうが、今回ばかりは見逃すことが出来なかった。甥が海の王として、東海竜王の名に賭けて誓った以上、自分は東海竜王の名に賭けて、この事に関してはキチンとさせなければならない責務が東海竜王にはあったからだ。
海の王と東海竜王の膠着状態を見て、孫悟空は場が動くそうにないと察したので、自分の師である玄奘に視線を移した。
「時間がもったいないので、お師匠さんに、今から報告をしたいと思います。他の皆んなも聞いて下さい」
その場にいる皆をゆっくりと見渡した後、孫悟空は昨夜のことから順に説明を始めた。
「俺達と沙胡蝶が出会ったのは、つい昨日の夕方のことです。その時の沙胡蝶は争い事を怖がる、少し無防備な人間の子どもという印象でした。でも俺は沙胡蝶の頭に違和感を感じ、沙胡蝶の頭にある、真珠色のハゲが本当のハゲではなく、魔力がふんだんに詰め込まれた魔道具だと気づきました。それも沙胡蝶を守るためだけに稼働する、超特級品の魔道具です。昨夜の時点では、沙胡蝶を守るための呪いが掛けられていることと、真珠を無理矢理沙胡蝶から取り上げる者に、死後ももだえ苦しむ呪いが掛けられていることを俺は解析していました」
玄奘と猪八戒と沙悟浄は、その通りだと頷く。
「そして今朝、沙胡蝶は自分の素性と、東海竜王のお遣いのために旅をしているのだと、俺達に話しているときに、そこにいる鉄扇公主に攫われました」
名前を挙げられた鉄扇公主は、申し訳無さそうに黙って深く頭を下げた。
「沙胡蝶が攫われた時点で俺達は犯人は玉面公主ではないかと推測をたて、お師匠さんは八戒と沙悟浄には鉄扇公主の芭蕉扇を借りてくるようにと言い、俺には沙胡蝶の頭に乗せられた真珠の呪いの確かなことを調べてくるようにと指示を出されたので、俺達はその通りに動きました」
猪八戒と沙悟浄は続けて頷いた。
「俺は沙胡蝶の言った、海の国の王の子という言葉を頼りに海に出ました。そして俺は分身の術を駆使し、沙胡蝶に関わる全てを調べ尽くしたのです」
孫悟空は二度手間を嫌うため、ほぼ全ての海の国の民達に聞き取りを行い、海の国の竜宮の膨大な量の資料や記録簿も調べ尽くしていた。『なんで知ってるかって?簡単さ、俺は午前中にお前の国に行っただろ!俺は何回も調べるのに往復するのが本当に面倒で嫌なんだ!だから沙胡蝶のことを調べようとしたら、その親や国の事も全て調べ上げるのが、本当の面倒くさがりってもんよ!』といった先ほどの言葉は伊達や酔狂ではなかったのだ。
「海の王が欲しがった真珠とは、沙胡蝶が頭に乗せている、へしゃげた真珠のことです。でも神器が嘘を見抜いた通り、それは海の王の物ではありません。真珠は海の王に失恋したミス・オクト……海の魔女が自分の親友である沙胡蝶の母親、白蘭にあげたものだったのです」
そうして孫悟空は、竜宮の資料と記録簿で調べた沙胡蝶の母親である、白蘭について語り出した。




