69、正式な誓い
「東海竜王の名に賭けて真珠はお前のものだと今、お前は誓った。それが嘘なら、お前はどうなるか分かっているんだろうな?」
孫悟空の言葉にたじろぎつつも、海の王は是と頷く。
{分かっている。誓いの言葉に嘘があれば、叔父が私を裁く。私は叔父の采配に一切の異を唱えずに従う}
フフンと余裕の表情で海の王は内心ほくそ笑む。こんな竜宮でも神殿でもない場所で、誓った言葉など何の効力も発さないはずだと海の王は思っている。それにこれが嘘とバレても大したことにはならないはずだ。もし叔父に知られたって、叔父は自分に甘いのだ。そうそうひどいことにはならない。海の王は、そう思いながら悟空を見やれば、自分以上に孫悟空がほくそ笑んでいるのが気になった。
{何がおかしい?}
「いや……本当にお馬鹿さんな竜だなぁって思ってさ!つくづくお前の叔父は可哀想だな。ああ、もう誓っちまった後に、紹介するのもなんだけど、ここにおられる御方は、俺のお師匠さんで、三蔵法師という。この人は、人間の国の帝の名代であり、釈迦如来の命を受けた、この大陸一の位の高いお坊様さ!つまり、人間の代表って訳だ!……で、こっちにいるのは俺の弟分の猪八戒と沙悟浄だ。この二人は化生だが、元は天界の役人だった者達だ。だから、まぁ天界の関係者とも言えなくもない者達なんだよ。……で、そっちの女人は鉄扇公主と言って、お前が憑依している牛の奥方だよ。この奥方は仙女でな、仙界の関係者とも言える。で、あっちの落ち込んでる女人は、あれでも九本の尾を持つ狐の化生だ。尾が多いほど獣の化生は魔力が高いから、こいつも化生の代表になれる。そしてこっちの双子は太上老君の神使をやっている狸の化生達だ。いいか、こいつらは神使、つまり神様の名代てわけさ。これがどういうことか、わかるか?……つまりだな、お前は、お前の叔父の東海竜王だけではなく、海の王として東海竜王の名に賭けて、人間と、天界の関係者と、仙界の関係者と、化生代表という、各界で力のある見届け人達の見守る中、神の名代である神使立ち会いの場で、正式に誓ってしまったんだ。大方、この誓いの重要性に気がついていないんだろうなぁ。いいか、よく聞けよ!誓う場所なんか関係ないのさ!誓いの真偽は神使の立ち会いの元、東海竜王の名の力で、すぐ判明する。ほら、神使達の持つ5つの神器である五宝貝が一斉に動き出したぞ!」
檜と楡の持っていた5つの宝具である五宝貝達は皆の見守る中、一人でに動き出し、正式な誓いにより、その真偽はすぐに判定されることになった。何故なら宝具の一つである七星剣は、正確に牛魔王の中の海の王を7回刺し貫き、憑依した海の王の体を牛魔王から離脱させた。二つ目の宝具の幌金縄は離脱した幽体の海の王を逃がすことなく、雁字搦めに捕縛した。
憑依が解けた牛魔王は、みるみる体が萎んでいき、全身青あざだらけで気絶した。そして遙か遠い所から、もの凄い早さで飛翔してきたものが、ドドドドドオォォォォォォン!……と林の木々をなぎ倒して不時着した。それは陸の悪魔の襲撃で痛めつけられて傷心した心を癒やそうと、硯を擦って詩作にふけようとしていた東海竜王だった。
神使立ち会いの場で一応四海竜王の末尾である海の王が、各界代表の見届け人達の前で東海竜王の名に賭けて誓ったため、正式な誓いと認められ、その真偽を見極めた神器を見て裁定が行われる。その裁定人になった東海竜王が、この場に引きずられてきたのは当然のなりゆきであったが、海の王と、その叔父である東海竜王だけが、まだ事態を飲み込めていなかった。




