46、三蔵法師への試練
「キャー!!檜、素敵ー!!」
「楡ー!格好いいー!!キャー!」
「あの人も、カッコいい!!誰なの?」
「三蔵法師っていう名の、旅のお坊さんだって!」
「天竺に経典を賜わりに行くそうなの!」
「えっ!何で、そんなお坊様が、こんな事を!?」
「何でもいいじゃない!カッコいいんだから!」
「そうよ!!イケメンだから!」
「それもそっかー!!お坊さん、頑張ってー!!」
「3人ともカッコいいー!!抱いてー!!」
「三蔵法師様、素敵よ-!頑張って-!!」
歓楽街の街の中央にある広場にある石舞台の上で美しい男達が、華麗に舞うようにして戦っている姿を一目見ようと大勢の女性客が集まり、大きな歓声を上げていた。
五宝貝の突然の惨事の詫びにと3人の見目麗しい青年が、広場で本当の武器を使って演舞を行うと知り、集まった彼女達は観覧料を支払い、良い席で齧りつくように舞台に見入っている。通りすがりの男達も面白く思ったのか次々とやってきた。舞台の上では、檜と楡が本性を現し、金角銀角となって三蔵法師である玄奘と対峙していた。
金角が剣を一度突き出すと玄奘は七度身をかわし、剣撃を避ける。銀角が金縄を投げると、捕らわれないうちに玄奘は逃げる。双子の技を華麗に避ける玄奘の姿に、観客達は大いに盛り上がった。
玄奘は悟空の分身から伝言を聞いた後、孫悟空と沙胡蝶を待つ間に太上老君から任されたという試練をするよう双子に迫った。双子の狸の化生達は、当惑気味に太上老君から預かった4つの宝貝を見せた。
一振りで七度の攻撃が出来る七星剣。鉄扇公主も持っている芭蕉扇と同じ名だけど、こちらは一振りで大火を出す芭蕉扇。先ほど孫悟空が壊した瓢箪と同じ働きをする浄瓶。どこまでも相手を追いかけて縛り上げてしまう幌金縄。
老君から5つの宝貝を預かったのは三蔵法師の供となった妖怪達への試練のためであり、これらは対人間用ではないと檜と楡は説明をする。しかし玄奘は反論する。沙胡蝶を三蔵法師と誤解し、試練を行った話を聞いたからには、玄奘にも酒池肉林の試練は通用しなくなった。孫悟空には瓢箪の試練があったが、猪八戒は瓢箪の酒で、さっきまで酩酊状態だったので激しい運動は避けてやるべきだし、悟浄は昨日、供になったばかりなので試練を受けるには早すぎる。故に自分が2人の供の分もまとめて試練を受けたいと主張した。
さらには、自分が受ける試練を見世物にするようにと玄奘は提案する。驚く双子に玄奘は店内を見回し、その見世物で得た金を店の修繕費に充てるようにと説明する。老君の五宝貝は玩具ではないし、生死に関わる怪我を負いかねない試練を見世物にするわけにはいかないと、当然双子は同意しなかったのだが玄奘は聞き入れなかった。
「こんなもので私が怪我などするはずがない」
そう言って、ニヤリと不敵に笑う玄奘に檜と楡も本気となった。
「そこまで言うのなら、僕は金角として七星剣でお相手しよう」
「なら僕は、銀角として幌金縄で挑むとしよう」
双子の本気の闘気を感じて、嬉しそうに玄奘は口元を歪ませた。
「二角同時にお相手しよう。悟空が戻るまでの暇つぶしにちょうどいい」
こんなやり取りを交わして、話は冒頭に戻るのであるが、この展開に沙悟浄は開いた口がふさがらなかった。
「玄奘様……。あなた本当に人間なんですか?……」
大歓声の中、沙悟浄のつぶやきは誰の耳にも聞こえない位の小声だったが、それに応える者がいた。
「お師匠様はぁ~、ちゃんと人間だよぉ~」
沙悟浄が振り向くと、酩酊状態から回復した猪八戒がそこにいた。




