47、玄奘と三蔵法師①
「あ~、お師匠様ぁ、活き活きしてるなぁ~」
復活した猪八戒が、口を開けたままの沙悟浄の元へやってきた。八戒は拘束したままの牛魔王にも舞台の上の三蔵法師をよく見るようにと言い、自らも楽しそうな玄奘を見る。客達が演舞と信じて歓声を上げている試練は、小一時間続いていた。真剣を使っての演舞は、時間が経つほどにドンドン観客を増やしていく。玄奘は先ほど猪八戒を担いで半里を全力疾走したとは思えない体力を披露し、素早い動きでずっと双子の攻撃をかわし続けていた。
人間であるはずの玄奘の動きに双子の狸の化生の方が息を切らし始めた。双子の体力と集中力の低下を感じた玄奘は、そろそろいいかと勝負に出た。剣と金縄を奪い、双子を金縄で拘束すると剣を突きつけた。勝負は、そこで決まった。玄奘は血の一滴も流すことなく勝利した。僧衣に多少の切り傷は出来たものの無傷だ。
三蔵法師の勝利に、広場の大勢の観客達が盛大に歓声を上げた。小一時間にも及ぶ演舞など中々見ることなどない。しかも真剣で行うなどあり得ない。さすが五宝貝の双子星だ。超一流の芸を見せてくれたと言って老若男女問わず、大勢の客が舞台におひねりを次々投げていく。
「お師匠様ぁ~お疲れぇ~!ふぅ、これでぇ~少しはぁ、三蔵法師の知名度が上がるでしょう!」
「え!?」
驚く悟浄をチロリと見上げ、八戒は言う。
「何?お師匠様が何でこんなことしたか、沙悟浄はわかんないの?沙悟浄は天界で役人だったんだから、これぐらいはわかっててほしいんだけど」
「す、すまない!八戒の兄者!」
しょげ返る沙悟浄に一瞥をくれると、八戒は五宝貝の店員達と供におひねりを拾い集めて、大金を手に入れた玄奘と五宝貝のメンバー等と店に戻った。店では綺麗さっぱりに全身を洗って悪臭がスッカリ消えた玉面公主が、鉄扇公主と色違いの碧い着物ドレスを着て待っていた。鉄扇公主に麝香の付け方を教えてもらったようで、上品な香りに玉面公主はご機嫌だった。
沙悟浄は牛魔王の拘束を解こうとしたが、幾度もこのような話し合いを設けようとして逃げられているのだと鉄扇公主は語り、猿轡だけを解いてくれと頼んだ。それでも逃げようと芋虫のような動きで逃げだそうとした牛魔王を玉面公主が本性の9本の狐の尾を出して捕らえた。7人兄弟は夫と本妻、妾の3人の話し合いの場を手早く整えた。店内の扉から一番離れた席を彼らに提供し、3人は話し合いを始めた。3人が離れると八戒は玄奘と五宝貝のメンバーが話し合っている場から、少し離れて悟浄を呼んだ。
「お師匠様は沙胡蝶についた三蔵法師のイメージを取り除くために、こんなことをしたんだよ」
沙胡蝶と玄奘の二人は、頭のハゲと美形であること以外に共通点はない。しかし鉄扇公主が集めた二人の噂を聞き比べると、どうしても沙胡蝶の方が世間一般的に見て、僧侶らしく見えてしまうのだ。太上老君の使者である双子でさえ間違えたのだ。今後だって間違える者は多数出てくるだろう。だから玄奘は自分こそが三蔵法師であると、世間に知らしめる必要があった。顔を売り、名を売り、例え、今後その事で多くの妖怪達に命を狙われるとしても、そうすることが必須だったのだ。
「それにお師匠様は貧しい寺で育っているから、お金を稼ぐことの大変さを知っているから、試練で悟空が壊した店の弁償代を稼ぎたかったのさ」
自分こそが三蔵法師だと世間に大々的に知らしめることが出来て、自分の供の壊した物への弁償代が稼げる。しかも試練は、玄奘の最も好む武闘に仕向けることが出来た。
「一度で三つの成果を得られるんだ。本当にお師匠様は賢いよね」
さすが最後の三蔵法師は、一味も二味も違うと八戒は賞賛し、それを聞いた沙悟浄は首をかしげた。
「最後の三蔵法師とは何でしょうか?」




