十七話 魔境の化け物
二人は同時に魔境の地に足を着ける。
来る際は勿論あの耳障りな甲高い音が発生したが、拓は既に三回目と言うこともあり大して動じなかったが、初見のペストは踞って耳を押さえていた。
「な、んなのよ、アレ」
「あぁ、忠告すんの忘れてた。魔力の塊が精霊に介入すると反発が起きて微精霊が音を発するから気を付けろよ~」
「遅いわよ!」
ペストは拓に掴みかかる勢いで言った。
「悪かったって」
勿論悪びれもせずに言う拓。
ペストは殴りかかるのを精神力で押さえて、魔境を見渡す。
「ふ~ん、それっぽい場所ね。何処も変わらないって事かしら」
ペストの発言をそれとなく聞き入れ、拓は少し離れた所にある黒い雰囲気の城に向かって歩き出した。
それを追い掛けるようにペストも歩き出す。
その道中は二人とも言葉を発さず、周囲の雰囲気を眺めていた。
だが、数分歩いたところで二人は同時に足を止める。
二人は顔を見合わせ、その原因に歩み寄る。
「何でこんなところに···」
「どうせ魔王討伐とか言って来たら体力がもやなかったんだろ。そこに白狼の死体もあるわけだし」
二人が目の前にしているのもは、木の根元に座り込んで眠っている女性だった。
長い白髪の女性の顔には濃い疲労が浮かんでいる。
「闇の魔力に耐性の無い人間が良く此処まで来られたわね」
「巫女等なら何か知ってるかもな。ペスト頼む」
「ええ」
そう言ってペストは黒い風を生み出して円球を作り、女性を覆った。
これで起きないと言うことは眠りについてまだ時間が経っていないのだろう。
――――――だがその時。
「!ペスト!離れろ!!」
拓が必死の顔相で叫んだ。
その瞬間、拓の右手が消える。
「!?」
ペストは拓に言われた瞬間に瞬時に離れたために問題はなかった。
「おや、仕止め損ないました。お二人様やりますね」
城に進む道から此方に近付いてくる2つの影。
1つは、燕尾服を身にして、長髪を後ろで縛っている青年。
もう1つは、赤い膝丈の浴衣を羽織った少女。
発言からして今の攻撃は青年のものかと思われた。
攻撃の放った跡は地面が抉れていた。
「不意討ちとは卑怯なんじゃねぇか?化け物」
「それはお嬢様に申して下さい。私がした訳じゃ有りませんから」
どうやら攻撃を放ったのは少女の方らしい。
「それでは自己紹介をさせていただきましょう。此方のお方は私達の後方に見える城の主、アンリ=アクサラ、と申します」
「うわ、マジかぁ」
拓は執事の青年の発言に嫌な顔をする。
「悪神に近い存在の悪魔とか面倒すぎるわ······」
「フフフ、そして私はお嬢様の執事をしています。空白と名乗っています。以後お見知り置きを」
拓の発言に気を良くしたのか、笑みを浮かべて自分の紹介をした。
だが、拓が警戒しているのはアンリではなく空白の方だった。
「何だよ、テメェみていのが居るとは思っても居なかったぞ。こりゃ分が悪すぎる」
冷や汗を少しばかり流しながら弱音を吐く。
後ろでずっと話を聞いているペストは戦闘体勢をとる。
少女は此方を睨み、執事は笑うだけだった。




