閑話①(第九十七話) 新たな春。わんわん大きくなったね
朝。
ふわり。と
春の風が部屋へ入ってきた。
「おふとん、気持ちいぃ…」
うにうに。
うにうに。
おふとんの中で。
至福の時間。
「ユウトー、朝よー。起きなさーい」
おかあさんの声が聞こえる。
おふとんの中へ頭までもぐる。
これでもう、お母さんの声は聞こえない。
出たくない。
ユウトは幸せそうにおふとんを楽しむ。
「こらっ!早く起きなさい。朝ごはん、冷めるわよ」
お母さんがやってきて。
おふとんをはがす。
気持ちよかったのになぁ。
むにゃ。むにゃ。
まだ眠たい。
◇
「おはよう、マイカ」
「おはよう、アイナ」
ユウトは妹たちにあいさつした。
けど二人は。
すやすや。
気持ちよさそう。
おふとんの中で寝てる二人を。
そっと近くでのぞき込む。
二人とも。
すごく気持ちよさそうだ。
「まだねてるね」
そっと二人の小さな手に触れる。
すると。
ぎゅっ。
同時に二人の小さな指が。
ユウトの指を握った。
「わっ、あくしゅしてくれた」
ユウトは嬉しそうに笑う。
「えへへ」
その様子を見ていたお母さんも。
優しく微笑んだ。
「二人とも、お兄ちゃんが大好きなのね」
「ほんと?」
「うん、きっとそうよ」
ユウトはえへへっ。と。
少し照れくさそうに笑った。
◇
「わふっ!」
朝ごはんを食べ終わると。
わんわんが外へ行こうと誘ってくる。
「おさんぽいこう、わんわん」
「わふっ!」
一人と一匹は。
春の村を歩き始めた。
道ばたには。
黄色い花。
白い花。
小さな草もいっぱい。
「わぁ」
「いっぱいさいてる」
しゃがみ込んで眺める。
「きれいなお花だね」
わんわんも。
くんくん。
花の匂いを嗅いでいる。
◇
「ユウトー!」
広場からリサが手を振った。
「おはよー!」
「おはよー!」
二人は笑顔で駆け寄る。
「妹たちは元気?」
「うん!」
「まいかも、あいなも、いっぱいねてる!」
「ふふっ」
「早く会いたいなぁ」
リサがそう言った時だった。
「わふっ!」
わんわんが急に走り出した。
「わっ!」
ぴょん。
ぴょーん。
広場を大きく飛び回る。
前よりずっと高く。
前よりずっと速い。
「わぁー!」
「はやーい!」
ユウトも追いかける。
でも。
全然追いつけない。
「まってー!」
わんわんは嬉しそうに。
ぐるっと一周。
また戻ってきた。
◇
「……あれ?」
リサは首をかしげる。
「リサ、どうしたの?」
「わんわん、なんだかとっても立派になったね」
ユウトもじーっと見る。
「……あっ」
もうすぐ出会って1年。
改めて見ると。
大きくなったと感じる。
「最初はこんなに小さかったのにね」
リサは大袈裟にすごく小さく両手で弧を描き。
手のひら乗るくらいの大きさだったと手をフリフリする。
出会った時はまだまだ小さな子犬。
でも今は立派に成長して。
大きくなってきた。
ちょうどそこに。
ガンツたちが手を振りながらやって来た。
「おーい、ユウトー、何してるんだ?」
「ガンツ!」
「わんわん、おおきくなった?」
ガンツは笑った。
「あぁ、そう言われるとそうだな」
ガンツは「うーん」と頭をかきながら、ちらりとミックたちを見る。
「前よりずっと大きいですね!」
ミックが答える。
「うん、すごく大きくなったよねぇ。わんわん」
ユウトはなんだか嬉しくなって、うんうんと頷いた。
◇
「ほら、ユウト見てろよー」
ガンツはわんわんの横へ立つ。
「去年はここくらいだっただろ?」
手で高さを示す。
ユウトもうんうん。と頷く。
「今はもう、この大きさだ」
「わぁ、ホントだね」
本当に大きい。
「毎日見てると気づかないもんだな」
ガンツは頭をぽりぽりとかいた。
「そうなの?」
「そうですよ、ユウトくん。毎日だと気づかないもんですよ」
ミックが言うと。
「少しずつ大きくなるからなぁ」
ポルンも大きくあくびをしながら言う。
ユウトは。
わんわんを見つめる。
「そうなんだぁ」
◇
そこに。
リーナお姉ちゃんもやって来た。
「あら、おはよう。みんなで何してるの?」
「わんわんがおおきくなったんだって!」
リーナお姉ちゃんはしゃがみ込んで。
優しくわんわんをなでる。
「言われると、本当ね。わんわん、かっこよくなったわね」
更になでる。
すると。
わんわんもしっぽをさらにぶんぶん。
すごく嬉しそう。
「わふっ!」
わんわんも返事をする。
リーナお姉ちゃんはわんわんを撫でながら立ち上がり
ユウトを見る。
「ユウトくんと一緒に成長してたのね」
「ボクも?」
「もちろん。ユウトくんも前よりお兄ちゃんらしくなったもの」
「えへへ」
照れて笑う。
◇
「そうだ」
ユウトは急に思いついた。
「だっこ!」
ぎゅっ。
わんわんを抱えようとする。
「うーん!」
「うーん!」
「……あれ?」
持ち上がらない。
「お、重たい!」
みんな大笑い。
「わははは、ユウト何してるんだ。わはは」
「そりゃそうだですよー」
「ふふっ、ユウト当たり前じゃない」
リサがお腹を抱える。
「もう子犬じゃないもの」
「わふっ!」
わんわんはなぜか得意そうだった。
しっぽもぶんぶん。
◇
そのままみんなで歩いていると。
そんちょーが向こうから歩いて来た。
「おっ、みんな元気に遊んでるか」
「おはよー、そんちょー!」
「おはようございます」
「もちろんだぞ」
そんちょーは。
みんなを見るなり笑いながら。
「みんな、ずいぶん立派な顔になったなぁ」
そんちょーはうんうん。と頷いてる。
「わんわんも、ずいぶん成長したな」
「覚えてるの?」
「ははっ、そりゃもちろん。村であったことならなんでもな」
「さすがそんちょーだな」
「さすがです」
みんなから褒められて。
なんだかそんちょーも嬉しそう。
そして、わんわんの頭を撫でながら
「でもな、ここまでいい子に育ったのは、ユウト。キミが毎日かわいがったからだぞ」
「ボク?」
「あぁ」
「一緒に遊んで」
「一緒に笑って」
「一緒に寝て」
「それが一番の大切な事なんだよ」
ユウトは。
わんわんをぎゅっと抱きしめた。
「えへへ」
「よかったね」
「わふぅ♪」
◇
帰り道。
夕日が村を優しく照らしていた。
ユウトは。
歩きながら思う。
わんわんも。
マイカも。
アイナも。
少しずつ。
少しずつ。
大きくなっていく。
そして。
ボクも。
きっと。
少しずつ。
お兄ちゃんになっていく。
「わんわん」
「これからもずっといっしょだよ」
「わふっ!」
大きくなっても。
小さい頃と変わらない。
嬉しそうに尻尾を振るわんわんを見て。
ユウトも。
とびきりの笑顔になった。
春の風は。
今日も優しく。
みんなの成長を見守っていた。




