第九十二話 ゆきいちご
「ユウトー!」
朝ごはんを食べ終わると、お父さんが帽子をかぶりながら声をかけた。
「今日は牧場のおじさんのところへ行くぞ」
「うん!もーもーさんのお手伝いにいくの?」
ユウトは元気よく返事をする。
「いや、今日は牧場の隣の農園だよ。ゆきいちごの収穫のお手伝いにおじさんが誘ってくれたんだ」
「ゆきいちご?」
ユウトは首をかしげる。
「そう、この時期。冬の終わりから春になる、この少しの間だけ採れる、とっても甘くておいしい果物だよ」
「わぁ!」
ユウトの目がきらきら輝いた。
◇
牧場へ着くと、ガンツたちも集まっていた。
「おはよー、ユウトー!」
リサが元気いっぱい手を振る。
「今日はいっぱい採るわよ!」
「おー!」
「ゆきいちご、楽しみだな」
ガンツもやる気満々。
「ゆきいちご、一度食べてみたかったんですよ」
ミックも嬉しそう。
「うーん、とってもいい匂いがするぅ」
ポルンはもう鼻をひくひくさせていた。
わははっ。とみんな笑った。
◇
牧場の隣。
そこは広い農園。
一面に白い雪のような花と赤いいちごが並んでいた。
「わぁぁ!」
ユウトは思わず声をあげる。
雪が残る畑の中で、真っ赤ないちごが宝石みたいに光っている。
「これがゆきいちごだよ」
農園のおじさんが笑った。
「赤くなったものだけを、優しく持って摘んでね」
「はーい!」
みんな元気よく返事をした。
◇
ユウトはそっと手を伸ばす。
「こう?」
「そうそう」
おじさんが頷く。
くるり。
ぽろん。
いちごがきれいに採れた。
「やったぁ!」
「上手だねぇ」
褒められて、ユウトはにこにこ。
「リサもいっぱい採る!」
リサは次々と赤いいちごを見つける。
「ユウト、これ真っ赤だよ!」
「ほんとだ!」
二人でかごへ入れていく。
◇
「よいしょっと!」
ガンツはいっぱいになったかごを運んでいた。
「重くても平気だ!」
力持ちだ。
「ガンツ、ありがとう」
おじさんが笑う。
「へへっ!」
ガンツは少し照れくさそうだった。
◇
「これは丸くて立派ですね」
ミックは一つひとつ眺めながら摘んでいく。
「でもですね」
少し曲がったいちごを持ち上げる。
「形が違っても甘さは変わらないそうですよ」
「へぇー!」
ユウトはびっくり。
「よく知ってるなぁ」
ガンツも感心していた。
◇
その頃。
「くんくん……」
ポルンは鼻を動かしていた。
「あっ!」
葉っぱの奥へ手を入れる。
「ここにある!」
真っ赤ないちご。
「またあった!」
次々と見つけていく。
「すごーい!」
リサが目を丸くする。
「においで分かるんだね!」
「えへへ」
ポルンは少し照れながら笑った。
◇
お昼前。
「みんな、ちょっと休憩!」
農園のおじさんが声をかけた。
机の上には、お皿いっぱいのゆきいちご。
「これは形が悪くて売れないやつだから、みんな食べていいよ」
「えぇっ!」
子どもたちは大喜び。
「いただきまーす!」
ユウトは一つ口へ運ぶ。
ふわっ。
「あっ……」
口の中でやさしくほどける。
甘い。
でも少しだけ酸っぱくて。
春みたいな味だった。
「おいしー!」
リサもにっこり。
「こんなの初めて!」
「これは最高ですね」
ミックも幸せそう。
「もう一個いいですか?」
ポルンはもう二つ目を持っていた。
「わははは!」
みんな笑う。
「わふっ!」
わんわんにも、小さく切ったいちごを一切れ。
ぺろっ。
「わふぅ♪」
しっぽが止まらなかった。
◇
「ゆきいちごはね」
農園のおじさんが話し始める。
「春になる少し前だけの特別な果物なんだ」
「だから毎年、この季節になるのが楽しみでね」
みんな静かに聞いていた。
短い季節だからこそ。
特別なんだ。
◇
帰る前。
「……あっ」
ユウトが一つのいちごを見つけた。
真っ赤で。
形もきれい。
太陽の光を浴びて、きらきら光っていた。
「おじさん!」
「これ、とってもきれい!」
おじさんは優しく笑う。
「それならユウトにあげよう」
「ほんと!?」
「今日いっぱい頑張ってくれたごほうびだ」
「ありがとう!」
ユウトは両手で大切に受け取った。
◇
帰り道。
ユウトは小さな籠を大事そうに抱えて歩く。
「そのいちご、食べないの?」
リサが聞く。
ユウトは首を横に振った。
「ううん」
「ボクね、ゆきりんにあげたいんだ」
リサは少しだけ目を丸くして。
すぐに笑った。
「それ、すごくいいわね。きっと、すっごく喜ぶよ」
「えへへ」
ユウトも笑う。
籠の中では。
一番きれいなゆきいちごが。
春を待つように、赤く輝いていた。




