第八十九話 うさぎのおもち
夜。
今日は大晦日。
村のみんなは、明日のお正月に向けて早めに眠る日だった。
外はしんしん。
雪が静かに積もっている。
「すぅ……」
ユウトも、おふとんの中ですやすや。
わんわんも。
「わふぅ」
足元で丸くなって眠っていた。
◇
その時。
ぺったん。
ぺったん。
どこからか。
小さな音が聞こえてきた。
「……ん?」
ユウトが目を開ける。
耳をすます。
ぺったん。
ぺったん。
「なんのおと?」
隣では。
わんわんも。
「わふ?」
耳をぴんっと立てていた。
◇
そーっと。
窓へ近づく。
外を見る。
「……わぁ」
雪道の向こう。
白くて丸い影がぴょんぴょん跳ねていた。
長い耳。
まんまるのしっぽ。
大きな杵。
そして。
背中には大きな荷物。
ぺったん。
ぺったん。
歩くたび。
杵が臼に当たって音を鳴らしている。
「うさぎさん?」
◇
ユウトは。
そっと玄関を開けた。
きぃ。
「こんばんは」
思わず声をかける。
すると。
うさぎさんが振り向いた。
「こんばんは」
にこっ。
とても優しい顔だった。
「起きちゃったんだね」
「うん」
「なにしてるの?」
「おもちを届けに来たんだよ」
「おもち?」
「そう」
うさぎさんは荷物をぽんぽん。
「一年に一回だけのお仕事」
◇
「ぺったん」
「ぺったん」
うさぎさんはその場でおもちをつき始めた。
杵は大きいのに。
ぴょん。
ぴょん。
軽やかに跳ねる。
「すごーい!」
ユウトは目をきらきら。
わんわんも。
「わふぅ!」
しっぽぶんぶん。
「わんちゃんもこんばんは」
うさぎさんが優しく頭を撫でる。
「わふぅ♪」
嬉しそうだった。
◇
「どうしてよるなの?」
ユウトが聞く。
「みんなが朝起きた時に、お正月が始まるでしょう?」
うさぎさんは笑う。
「だから、その前に届けるんだ」
「そっかぁ」
「みんなが笑顔で新しい年を迎えられるようにね」
ぺったん。
ぺったん。
白いおもちが。
ころん。
ころん。
できあがっていく。
◇
「そうだ」
うさぎさんは大きな袋を開けた。
「今年も交換してもらおうかな」
中から取り出したのは。
小さな籠。
「こうかん?」
「うん」
「みんながお家の前に置いてくれてるんだ」
木の実。
干した果物。
月林檎。
美味しいお野菜。
「その代わりに、おもちを置いていくの」
「そうなんだ!」
ユウトは初めて知った。
「だから毎年、おもちがあるんだね!」
「そういうこと」
うさぎさんはにっこり笑った。
◇
「わふ?」
わんわんが。
できたてのおもちをじーっと見つめる。
「食べてみる?」
うさぎさんは。
ほんの小さくちぎって渡した。
「わふっ!」
ぱくっ。
もぐもぐ。
「わふぅ〜♪」
もちもち。
やわらかい。
とても美味しかった。
「気に入ってくれたみたい」
うさぎさんも嬉しそう。
◇
「さて」
空を見上げる。
まんまるのお月さま。
「まだまだ届けるお家がいっぱいだ」
「もういっちゃうの?」
「うん」
「朝までに全部回らないとね」
ぴょん。
うさぎさんは荷物を背負う。
「また来年」
「うん!」
「またね!」
「わふっ!」
ぴょん。
ぴょん。
ぺったん。
ぺったん。
音を鳴らしながら。
雪道の向こうへ。
少しずつ。
少しずつ。
見えなくなっていった。
◇
夜中。
「おかあさん!」
「あら、まだ起きてたの?めずらしいわね」
「うん、まだおきてたよ!それより、おもち!」
玄関の前には。
丸くて真っ白な。
つきたてのおもち。
「まぁ」
お母さんが笑う。
「今年もうさぎさん、来てくれたのね」
「ボクあったよ!」
「えっ?」
「ついさっき」
「ぺったんぺったんしてた!」
お母さんはくすっと笑う。
「そうなの?」
「うん!」
「とってもやさしかった!」
ぺったん。ぺったん。
空には不思議な音が響く。
まだ白いお月さまが、うっすらと残っていた。
その中で。
長い耳の影が。
ぴょこんと跳ねたような気がした。




