第八十八話 冬の夜空は危険?危ない!動く星!
夜。
村のみんなが眠る時間。
雪はやみ、空にはたくさんの星が輝いていた。
しん。
とても静かだった。
◇
「よし、それじゃ今日も見回りに行くか」
ユウトのお父さんが、厚い上着を羽織る。
「今日も冷えますねぇ」
リサパパも笑いながら手袋をはめた。
二人はランタンを持ち、静かな村を歩く。
さくっ。
さくっ。
雪を踏む音だけが響く。
「今年は雪が多いですね」
「子どもたちは大喜びだけどな」
「ええ」
二人は笑った。
◇
その時だった。
ふと。
リサパパが空を見上げる。
「……来ましたね」
「ああ」
お父さんも立ち止まる。
遠い夜空。
きらきら輝く星座。
……と思った、その瞬間。
ぱさっ。
ぱさっ。
星座が羽ばたいた。
「来たな」
北の空から。
無数の光。
まるで星そのものが飛んでくる。
きらきら。
ふわふわ。
ゆっくり。
でも確実に。
村へ向かっていた。
◇
「今年も星渡りの季節ですね」
リサパパが笑う。
「子どもが見たら驚くだろうな」
「何度みても本当に星が飛んでるようにしか見えないないですね」
しかし。
二人は慣れた様子だった。
星の正体。
それは。
冬だけ現れる。
星渡りという、不思議な生き物。
羽を広げ星座に擬態する。
そのため、昔から
星が動いていると言われてる。
◇
「さて」
お父さんは荷物をごそごそ。
取り出したのは。
小さな布袋。
「今年もいっぱい集めておいて正解だったな」
中には。
月林檎の皮。
秋の間に干しておいたものだった。
「甘い匂いがしますねぇ」
リサパパが笑う。
「こいつら、これが大好きだからな」
◇
でも。
星渡りは。
もう村のすぐ近く。
きらきら。
ぱたぱた。
屋根へ降りようとしている。
「少し急ぎますか」
「そうだな」
お父さんが手を上げる。
「――鬼火」
ぽっ。
青い炎が夜空に浮かんだ。
「ではこちらも」
「――狐火」
こんっ。
金色の炎がふわり。
二つの火は。
ゆっくり森の方へ飛んでいく。
◇
その下へ。
ぱらぱら。
ぱらぱら。
月林檎の皮をまく。
すると。
くんくん。
くんくん。
星渡りたちが空で向きを変えた。
「来た来た」
リサパパが笑う。
きらきら。
ぱたぱた。
まるで流れ星の川。
鬼火と狐火を追いかけるように。
群れはゆっくり森へ向かっていく。
◇
その光景は。
本当に美しかった。
黒い夜空。
青い鬼火。
金色の狐火。
そして。
何百という星渡り。
まるで。
星空そのものが流れているみたいだった。
「何度見てもきれいですねぇ」
「ああ」
お父さんも頷く。
「冬だけの景色だからな」
◇
やがて。
群れは森の奥へ。
きらきら。
ぱたぱた。
少しずつ。
少しずつ。
星空へ溶け込むように消えていった。
静かだった。
さっきまで羽ばたいていたことが嘘みたいに。
「よし」
「今年も無事ですね」
「ああ」
二人はほっと笑う。
◇
「そういえば」
リサパパが思い出したように言う。
「子どもの頃、本当に星が襲ってくると思ってました」
「ははは」
お父さんが笑う。
「俺もだ」
「親父が夜中に出ていくたび、何と戦ってるんだろうって思ってましたよ」
「実際は」
お父さんは空を見上げる。
「腹ぺこのお客さんを案内してるだけだったな」
二人は顔を見合わせ。
くすっと笑った。
◇
その頃。
「すぅ……」
ユウトは。
ぽかぽかのおふとんで夢の中。
わんわんも。
「わふぅ」
隣で丸くなって眠っていた。
二人はまだ知らない。
村のみんなが安心して眠れるように。
今夜も。
二人のお父さんが。
冬の夜空を、そっと守ってくれていたことを。




