第八十一話 お母さんのお腹③
ちゅん。ちゅんちゅん。
小鳥さんたちが楽しそう。
「んー……」
うにうに。うにうに。
気持ちいい。
あったかい。
もう少しだけ。
もう少しだけ寝ていたい。
でも。
「ユウトー」
優しい声。
「朝ご飯できたわよ」
「はーい」
お母さんだ。
ユウトは、もぞもぞと起き上がる。
ふぁぁ。
大きなあくび。
今日も1日が始まる。
◇
「いただきまーす!」
今日の朝ご飯。
だいこんの葉っぱがのったご飯。
卵焼き。
お味噌汁。
ユウトの大好物だ。
どれも美味しそう。
「いっぱい食べてね」
「うん!」
もぐもぐ。
ぱくぱく。
ユウトは夢中で食べる。
ふと。
「あれ?」
お母さんを見る。
「お母さん」
「なぁに?」
「お腹、またおっきくなった?」
お母さんは、ふふっと笑った。
「そうねぇ」
「もうずいぶん大きくなったわね」
ユウトの隣によいしょと座る。
お母さんのとなり。
「ほんとだぁ」
前より、もっと丸い。
もっと大きい。
「赤ちゃん、大きくなったの?」
「うん」
お母さんは、お腹を優しくなでた。
「冬が終わる頃には、会えると思うわ」
「そっかぁ。うまれるんだぁ」
ユウトは目を丸くした。
まだ実感はない。
でもお母さんは嬉しそう。
「もうすぐだね」
「そうね、もうすぐよ」
◇
朝ご飯のあと。
ユウトは、お母さんのお手伝い。
「これはこぶ!」
「ありがとう」
お皿を運んだり。
洗濯物を持ったり。
「えらいねぇ」
「えへへ」
ちょっと嬉しい。
でも。
「よいしょ……」
お母さんが立ち上がる時。
少しだけゆっくりだ。
「おかあさん?」
「大丈夫よ」
「赤ちゃんが大きくなってきたからね」
「歩くのもちょっと大変なの」
「そうなんだ」
ユウトは、お母さんのお腹を見た。
大きいなぁ。
赤ちゃんって、こんなに大きくなるんだ。
◇
「ちょっと休憩しましょうか」
縁側。
二人で並んで座る。
今日は風も穏やかだった。
「気持ちいいわねぇ」
「うん」
わふっ。
わんわんもやって来る。
ぽてん。
二人の足元で丸くなった。
「わふぅ」
「わんわんも休憩?」
「わふっ」
しっぽがぱたぱた。
ユウトは、お母さんのお腹をじっと見ていた。
「おかあさん、さわってもいい?」
「もちろん」
お母さんは優しく笑う。
ユウトは。
そーっと。
ぽん。
手を当てた。
「あったかい」
「ふふっ」
「昔はユウトもこうやってお腹の中にいたのよ」
「ボクも!?」
ユウトは驚いて目を丸くする。
「うん」
「ユウトが産まれてくる時は今よりもっともっとお腹も大きくなっててね」
お母さんは優しくお腹をさする。
「この子も、このお腹も、まだまだ毎日大きくなると思うわ」
「へぇー」
その時。
とん。
「わっ!」
ユウトはびっくり。
「うごいた!」
「今、蹴ったかも!?」
「えぇー!」
もう一度。
じーっ。
見つめる。
すると。
とん。
「わっ、また!」
「お兄ちゃんに、こんにちはって言ってるのかもね」
「こんにちはー!」
ユウトはお腹に話しかけた。
「ボク、おにいちゃんだよー!」
しばらく待つ。
すると。
とん。
「おへんじした!」
「ふふふっ」
お母さんも笑った。
「仲良くなれそうね」
◇
「ねぇ、おかあさん」
「なぁに?」
「あかちゃんは、おなかのなかでなにをしてるの?」
お母さんがユウトの頭を優しく撫でる。
「赤ちゃんはね、ふわふわのお水の中で、ぷかぷか浮いてね」
「ぷかぷか?」
「うん」
「そこで安心して眠ってるのよ」
「ボクみたい!」
「そうね」
「ユウトも、お布団に入るとすぐ寝ちゃうものね」
「えへへ」
ちょっと照れくさい。
「あかちゃんも、おふとんすきかな?」
お母さんを見上げる。
「きっと好きよ」
お母さんはにっこり。
「じゃあ!」
ユウトもにっこり。
「ボクのおふとん、かしてあげる!」
「ふふっ、ありがとう。赤ちゃんも嬉しいと思うわ」
「でも赤ちゃんだから小さいお布団だね」
「そっかぁ」
少し考えて。
「じゃあ、いっしょにねる!」
「それもいいわね」
◇
午後。
ぽかぽか陽気。
ユウトは、お母さんの隣で絵を描いていた。
ぐるぐる。
くるくる。
「できた!」
「見せて」
「これ!」
お父さん。
大きなお腹のお母さん。
その横で笑っているユウト。
そして。
小さな赤ちゃん。
「まぁ」
お母さんは目を細めた。
「素敵な絵ね。あっ、赤ちゃんも笑ってる!」
「うん」
「みんな笑ってて楽しそう」
「だってかぞくだもん!」
その一言に。
お母さんは、とても嬉しそうに笑った。
◇
夜。
「そうだ」
お父さんがお茶を飲みながら言った。
「そろそろ名前も考えなくちゃな」
「そうねぇ」
お母さんも笑う。
「あかちゃんのなまえ?」
ユウトは不思議そう。
「うーん」
「男の子かなぁ」
「女の子かもしれないし」
「迷っちゃうのよ」
「どっちかなー?」
「ユウトはどっちがいい?」
お父さんが聞く。
「んー」
ユウトは少し考えて。
「どっちでもいい!」
「わはは!」
お父さんが笑う。
「そうか」
「いっぱいあそぶ!」
「おやつもはんぶんこする!」
「えほんもよんであげるの!」
「おふとんもかしてあげる!」
お母さんがくすくす。
「赤ちゃん喜ぶわねぇ」
「あぁ、本当にいいお兄ちゃんになりそうだ」
そう言って、お父さんはユウトの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「名前かぁ。そうだなぁ」
お父さんが腕を組む。
すると。
「わふっ」
わんわんがお庭から吠えた。
「わははは!」
「あははは!」
お父さんとお母さんは大笑い。
「わんわんも名前を考えたいみたいだな」
ユウトも笑った。
◇
お布団の中。
ぬくぬく。
ぽかぽか。
赤ちゃんも。
もうすぐ会えるのを。
楽しみにしてくれてる。
「はやくあいたいなー」
「ボク、おにいちゃんだもん」
えへへ。
冬の夜空は。
今日も優しく輝いていた。




