第八話 ぎょーしよーおじさん
「ぎょーしょーおじさん?」
「そう、今、広場に来てるみたいなの。一緒に行かない?」
「うん、それじゃ、よく眠れる枕が欲しいな」
「こら、ユウト、そんなの見たこともないわよ。それに、ユウトはいつもすぐ寝てるからいらないでしょ」
お母さんは笑いながら、ボクのほっぺたを軽くつねりながら言う。
うん、困ってないな。いらないかも。
「なら、家で寝て待つよ」
「ダメよ。一緒に行くの。荷物持つのも手伝ってもらわなきゃ」
結局、ボクは行くらしい。
◇
今日もお日さまぽかぽか。風もさわやか。
うん。実にいいお天気で睡眠日和だ。
お母さんと手を繋いで、村の広場までやってきた。
「わぁ……」
広場は大人でいっぱいだった。
木箱。荷車。吊るされた布袋。見たことない瓶。干したお肉。お魚。色んなものが並んでる。
「はいっ、ゆっくり見てくださいねー! 今日はお肉もお魚もありますよー!」
元気な声が聞こえた。
「おぉー……」
茶色のすらっとした長い髪。ぴんっと立った犬耳。整った顔立ち。
なんかすごくかっこいいワンちゃんがしゃべってる。
「あの人が行商でいつも来てくれるサルーキさんよ。犬人族らしいわよ」
「わぁ……ぎょーしょーおじさん、かっこいぃ……」
キラキラした目で見上げる。
サルーキさんは、にこっと笑った。
「おや、小さいお客さんですね?」
「こんにちわぁ」
「こんにちは。今日はおつかいですか?」
「お母さんとお買い物だよ」
「なるほど!お手伝いがんばってるですね、それはすごい」
わっはっはっと笑う。でも、なんだか優しい声だった。
◇
「さて、お塩とお砂糖を買いましょう。残りが少ししかないの。他には……」
「うん、分かった」
お母さんは袋を見ながら、色々見ている。
でも。ボクは別のものが気になった。
「……これ、なぁに?」
棚に並んでいた、小さなガラス瓶。中に、きらきらした色の石が入っていた。
「あぁ、それは“星砂”ですよ」
「ほし……」
「夜に少しだけ光るんです」
「おぉー」
異世界っぽい。
サルーキさんは、次々いろんな物を見せてくれた。
「これは海の貝殻」
「おぉ」
「これは南の町のお菓子」
「おぉぉ」
「これは魔法の紙。魔法が1度だけ使える大変貴重なものなんですよ。」
「おぉぉ、すっすごい!!この紙を使ったらボクも魔法を使える?」
「えぇ、もちろん。使えますよー。はははっ、ユウト君は賢いですね。そうですね、もしユウト君がこの魔法の紙を使えば、そこにある瓶一つ分の水が出る優れたものなんですよ」
丁寧にいろいろ教えてくれた。
なんだか楽しかった。
◇
その時だった。
「わふっ!」
「あっ、わんわん!」
いつの間に来たのか。わんわんが広場へ飛び込んできた。
「ユウトー!」
どうやらリサも来てたみたいだ。走ってくる。
「わんわんが急に走って来たから、ついてきちゃったの!」
「わふぅ!」
わんわんは、サルーキさんの前でぴょんぴょんしていた。
「おや?」
サルーキさんがしゃがみこむ。
「白い子犬ですねぇ」
「わんわん!」
「なるほど、お名前ですか」
わしゃわしゃ撫でる。わんわん、しっぽぶんぶん。
「犬人族だから、わんわん語わかるの?」
リサが聞いた。
「はははっ、少しだけですよ」
「わふっ!」
「ふむふむ……“ユウト大好き”だそうですよ」
「ほんとぉ!?」
「たぶん!」
みんなで笑った。
◇
そのあと。
「ふぁ……」
ぽかぽか陽気。広場のにぎやかな声。そろそろ帰る頃だしなんだか眠くなってきた。
「ユウト、後少しで帰るから寝ないでよ?」
「うん、まだ起きてる……」
「目が半分閉じてるわよ」
その時。
「よっと」
サルーキさんが、大きな荷物を持ち上げた。
「これ、運ぶの手伝いますよ?その荷台に乗せればいいですか?」
「ホントに!?サルーキさん、ありがとう。それは、すごく助かるわぁ」
箱は大きかった。でもボクもお手伝いをする。
「よいしょ……」
「おぉ、力持ちですねぇ」
「えへへ」
ちょっと嬉しい。
そのまま、とことこ運ぶ。でも。
「んぅ」
ぽかぽか。ねむねむ。
そして。
「すぅ……」
「あらら寝ながら運んでるぅ!?」
箱を抱えたまま寝ていた。
「器用ですねぇ!?」
サルーキさんがあははっと笑いながらびっくりしていた。
◇
帰り道。
「今日は助かりました。また来月も来ますね」
サルーキさんが、大きく手を振る。
「ばいばーい!」
「わふー!」
リサとわんわんも元気いっぱい。
ボクは、お母さんと手を繋ぎながら歩いていた。
「……ぎょーしょーおじさん、かっこよかった」
「ふふっ、そうねぇ」
「いっぱい旅してるの、すごい……」
「ユウトも大きくなったら旅したい?」
「んー……」
少し考える。
「やっぱりおうちがいいかな。ゆっくり寝たいし」
春の風は、今日もやさしかった。




