第七十七話 ぎょーしょーおじさん③
ひらひら。ひらひら。
雪が朝から降っている。
「さむーい」
けど、今日はぎょーしょーおじさんのサルーキさんが広場に来てるみたい。
これはぜひ行かないと。
「今日は、なにがあるのかなー?」
「うふふっ、楽しみね。うちも冬仕度しなくちゃね」
優しくしゃべるお母さん。
お腹のおっきくなったお母さんはゆっくり歩くユウトと手を繋いで歩いていく。
その横には、わんわん。
てってってっとしっぽを振って嬉しそうに歩いてる。
◇
村の広場。
「こんにちはー!」
ユウトは大きな声でごあいさつ。
風に揺れる茶色のすらっとした毛がふわりと動く。
犬人族のサルーキさんが振り向いた。
「こんにちは、ユウト君。元気がいいねぇ。」
にこにこ笑顔。
いつもの声。
大きな荷車。
木箱いっぱいの野菜や果物。
お肉や温かそうな服。
いっぱいある布袋。
見たこともない物が、ところ狭しと並んでる。
「こんにちは、サルーキさん。今日はまたいっぱいね」
「これはこれは。はい、冬に備える時期ですからね。特に今年はどこも豊作で。安く買えると評判ですよ」
サルーキさんはお腹の大きくなったお母さんを見て優しく笑った。
「ユウト君、もうすぐお兄ちゃんだね。お手伝いがんばるんだぞ」
「うん!」
「わふっ!」
「おぉ、わんわんも。元気ですねー」
わしゃわしゃ。
わんわんは、しっぽぶんぶん。
いつも仲良しだ。
「わふー!」
「ふふっ」
「覚えてますよ」
サルーキさん、本当に楽しそう。
なんだか嬉しい。
◇
「こんにちは、サルーキさん!」
リサもやってきた。
「こんにちは、リサちゃん。元気でしたか?」
「うん、とっても」
と言って力こぶを作って見せる。
「はははっ、それではいっぱい買い物して下さいね」
「そうね。でもしっかりおまけしてね」
パチリとウインク。
商人顔負けである。
サルーキさんが来る日。
広場は村の人でいっぱい。
みんな買い物を楽しんでるみ。
サルーキさんはみんなに呼ばれて大忙し。
「今日は月林檎が安くて美味しいですよー」
「毛皮や毛布がいいものが入ったので、ぜひ見て下さい」
「今年の毛布いいわねぇ」
「この薬草茶、温まりそうだ」
「塩も買っとこう」
村の人たちも楽しそう。
サルーキさんは、一人一人丁寧に話をしている。
旅の話。
となり町の話。
雪の多い北の村の話。
ユウトは、それを聞くのが好きだった。
みんな思い思いの買い物を楽しんでいる。
お母さんはサルーキさんに
「お塩とお肉をもらっていい?それに毛布も一つ。見繕ってもらえる?」
サルーキさんは、にこにこ。
「はいっ、どうぞ。毛布はこれなんてどうですか?すごくきれいでしょう。いい品ですよ。それに今年の冬は寒そうですからね。温かくして下さいね」
と言って、暖かそうなきれいな毛布を見せてくれた。
「うん、それいいわね。お願いね」
サルーキさんは商品をまとめて
「はい、どうぞ。ユウトくん、持てるかな?」
とユウトに渡してくれた。
「うん、大丈夫。持てるよ!」
荷物は大きかったけど。
ユウトはしっかりと受け取った。
任せてもらえたのが、とても嬉しかった。
◇
「ねぇ、この木箱見て。絶対美味しそう!」
リサが蓋のある木箱を指差す。
となりは果物が見えてて、美味しそう。
でも蓋をしてるこっちが美味しい?
「でも、なかがわかんないよ?」
「ふふっ、なんかいい匂いしたの!」
「ふふっ、よく気付きましたね」
サルーキさんが木箱を開ける。
「正解です」
「ほら」
「わぁ!」
小さな包み。
「干しリンゴですよ」
「これは干しぶどう」
「こっちは南の町の木の実です」
「おぉー!」
リサは目がまん丸。
「旅先で見つけましてね」
「甘くて美味しいんですよ」
「美味しそう!食べてみたーい」
リサはそう言うと。
サルーキさんが小さいものをそれぞれ一つずつくれた
「わーい、やったー」
リサときゃっきゃっと喜ぶ。
◇
もぐもぐ。
「おいしー!」
「んー、ユウト。これ、すごく甘くて美味しいね」
「うん、おいしぃね」
「わふわふっ!」
わんわんまで大喜び。
「ふふっ」
「気に入ってもらえてよかったです」
すると。
「そうだ!」
ユウトが思い出した。
「サルーキさんかめせんせーにいしをとどけてくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「おれいずっといいたかった」
サルーキさんがやさしく頷く。
「はい、かめ先生もとっても喜んでましたよ」
「ほんと!?」
みんな集まる。
「はい、まるで子どものようにはしゃいでました」
あははっ、とみんな笑う
◇
「ねぇねぇ、サルーキさん」
「はい?ユウトくんどうしました?」
「たびってたのしい?」
「そうですねぇ」
サルーキさんは空を見上げる。
「大変なことも多いですよ」
「寒い日もありますし」
「お腹が空くこともあります」
「でも、こうして皆さんと会えるのは楽しいですね。それが私は好きなんだと思います」
「それにこの村はなんだか帰ってきたような気持ちになるんですよ」
「帰ってきた?」
「えぇ」
「不思議ですね」
にこり。
優しい笑顔だった。
◇
次の日。
わんわんとお散歩中。
旅立つサルーキさんとちょうど会った。
「そろそろ私は次の村へ向かいます」
「えぇー、もういっちゃうの?」
「はい、次の村も待っていますので」
そっかぁ。サルーキさんを待ってるのはこの村だけじゃないのか。
「またきてね」
「はい、また来ますよ」
優しい笑顔。
「それでは」
大きく手を振る。
「ばいばーい!またねー!」
荷車がゆっくり進む。
ひゅるるる。
冬の風。
夕焼けの中。
サルーキさんは、小さくなっていく。
ユウトはいつまでも手を振った。
わんわんもしっぽを振る。
「わふっ!」
冬の空は寒かった。
でも。
なんだか一つ大人になった気がした。




