第七十五話 雪
肌寒い朝。
まだ暗い外。
しーん。
静かな部屋。
お布団の中。
ごろごろ。
ごろごろ。
ユウトは今日も丸くなっていた。
あったかくて。
気持ちいい。
その時。
とんとんとん。
「ユウトー、朝よー!」
お母さんの声。
「ほら、起きて」
「……うぅ」
ごろごろ。
むにゃむにゃ。
……。
とんとんとん。
「ユウトー!」
ん?また来た?
「起きなさーい!遊ばなくていいのー?」
今はそういう気分じゃないんだ。
「もう、知らないわよ」
知らないって言われても。
寒いし、眠い。
お布団は気持ちいい。
ごろごろ。
「こらっ、起きなさい!」
ん?誰の声???
聞き覚えがあるような……
あっ!
と思ったその時。
ばっ!
お布団がめくれた。
「あははっ。おはよ、ユウト。いつまで寝てるのっ!」
「わっ!」
リサだった。
「おはよ、ユウト」
「どうしたの?こんな朝早くから」
「外見た?」
「ん?」
「雪!」
「え?」
「雪だよ!」
「ゆき?」
「うん!」
「雪!」
リサはにっこり。
「ほら!」
カーテンを開ける。
「わぁ……」
ユウトは目をぱちぱち。
屋根や畑に。
白く積もった。
「ゆきだ……」
「そう。だから遊ぼうと思って」
わんわんのはしゃいでる声が聞こえる。
わふっ!わふっ!
きっと、しっぽぶんぶんだろうな。
「ほら!」
「早く!」
「みんな待ってるよ!」
「みんな?」
「うん!」
ガンツ、ミック、ポルン。
いつものメンバーが。
こんな朝早くから。
すると。
窓の外。
「おーい!」
「ユウトー!」
「おはよー!」
「ゆきだよぉ!」
みんな、おーいと手を振る。
元気いっぱい手を振る。
ユウトは。
なんだか久しぶりに。
少しだけ。
胸がぽかぽかした。
◇
朝ご飯。
「おかわり!」
久しぶりに。
ユウトがおかわりした。
「まぁ」
お母さんが嬉しそう。
「今日は元気ねぇ」
「うん!」
「雪だもん!」
お父さんも笑う。
「それはよかった」
「でも」
お父さんが指を立てる。
「転ばないようにな」
「うん!」
「走ると滑るわよ」
「うん!」
「わんわんも連れていってあげてね」
「わふっ」
お庭でちょうどわんわんが鳴いた。
「わはは!」
みんな笑った。
◇
村の広場。
「うわぁぁ!」
「まっしろ!」
「すごーい!」
「きれーい!」
あちこちから楽しそうな声。
いつもの畑の横を通って。
いつもの道を行く。
でも、今日は白い道。
「ユウト!」
「おっそーい!」
ガンツが笑う。
「わははっ。待ちきれなくてポルンが雪食べてたぞ!」
「おいしーの?」
「冷たかった!」
みんな大笑い。
「見て見てぇ」
ポルンが小さな雪玉を見せる。
「できたよぉ」
「おぉ!」
「私も!」
リサもころころ。
「ボクも!」
ユウトもころころ。
ころころ。
ころころ。
小さな雪玉。
なんだか楽しい。
すると。
わんわんは。
わふっ!
ぴょーん!
わふっ!
ぴょーん!
ひらり。ひらり。と振る雪を。
食べようとぴょんぴょんしてる。
「わふ?」
でも、雪に逃げられる。
「わははは!」
その姿が面白くってみんな笑う。
「わんわん、頭に雪が乗ってるよ!」
「体にも!」
「わふぅ!」
雪を取ろうと体をふるふる。
「あははっ、かわいぃねー」
リサはくすりと笑う。
ユウトも。
「ふふっ」
笑った。
すると。
「あっ、ユウト笑った!」
リサが言った。
「え?」
「ユウト笑った!」
「ほんとだぁ」
ポルンも嬉しそう。
「よかったぁ」
ミックもにこにこ。
「わはは!」
「やっぱユウトはそうじゃなくちゃ!」
ガンツも笑う。
「……うん」
なんだか。
ちょっとだけ元気が出た。
◇
その時。
ひゅるるる。
風が吹いた。
さらさら。
さらさら。
雪が舞う。
「きれい……」
リサが見上げる。
「うん」
ユウトも見上げる。
空から。
ふわふわ。
ふわふわ。
白い雪。
静かに優しく降ってくる。
すると。
わんわんが。
くんくん。くんくん。
「わふ?」
「どうしたの?」
わんわんは。
雪の積もった森の方を見ていた。
じーっ。じーっ。
「わふ?」
でも。
何もいない。
ただ。
ひゅるるる。
風が吹いて。
白い雪が。
ふわふわと踊っていた。
◇
その日の昼。
すでに雪は溶けて、畑や道はきらきらしてる。
「明日も雪降るといいな」
ぽつり。
「またみんなと遊ぼう」
なんだか明日が楽しみになってきた。
わずかに残った雪がキラキラと輝く。
そんな冬の始まり。
なんだか。
少しだけ。
胸がぽかぽかした。
冬が始まる。
村は静かに。
これから白い季節に包まれていく。




