第七十四話 みーのーむーしー、ごーろごろ
しとしと。
朝から冷たい雨。
窓の外はどんより曇り空。
ひゅるるる。
風が吹くたび、木の枝がゆらゆら揺れている。
冬になってから、村の景色もすっかり変わった。
葉っぱはなくなり。
草も茶色。
森もなんだか静か。
そんな空を、ユウトはぼんやり眺めていた。
「ユウトー」
お母さんの声。
「朝ごはんよー」
「うん……」
元気のない返事。
のそのそ。
居間へ行く。
「おはよう」
お父さんが笑う。
「おはよう」
でも。
元気はない。
「眠そうだねぇ」
「うん」
お母さんも苦笑い。
最近のユウトは元気がない。
朝起きて。
ご飯を食べて。
ぼーっとして。
昼寝して。
ぼーっとして。
また寝る。
そんな毎日。
「今日はリサちゃん来ないの?」
お母さんが聞く。
「……わかんない」
もぐもぐ。
パンを食べる。
でも。
なんだか美味しくない。
お父さんが優しく聞く。
「まだ気にしてる?」
「……うん」
「そうか」
「ボク」
ぽつり。
「こわしちゃったから」
「みんな王国行けなかったし」
「ジーンも一人で帰っちゃった」
お父さんは笑った。
「そうだね」
「でも」
「ジーンちゃん怒ってた?」
「ううん」
「リサちゃんは?」
「おこってない」
「ガンツくんは?」
「おこってない」
「ポルンくんも?」
「おこってない」
「ミックくんも?」
「……うん」
「じゃあ」
お父さんはにっこり。
「一番怒ってるのは誰だろう?」
「……ボク」
「そうだね」
ぽんぽん。
「少しずつでいいんだよ」
「うん」
でも。
元気は出ない。
◇
ごろん。
ごろごろ。
お布団の中。
ユウトは丸くなる。
みのむしみたい。
「はぁ」
ごろん。
「はぁ」
ごろごろ。
白にゃーがお庭にやって来た。
「にゃぁ」
ぴょん。
縁側にごろん。
ごろごろ。
「白にゃー」
なでなで。
気持ちいい。
でも。
やっぱり元気は出ない。
すると。
わんわんも縁側にやってくる。
「ふふ」
ちょっとだけ笑う。
でも。
またごろん。
「みのむしー」
ごろごろ。
みのむしー。
ごろごろ。
◇
昼頃。
とんとん。
「ユウトー」
リサの声。
「遊ぼー!」
「……」
布団の中。
「いるんでしょー!」
とんとん。
「ユウトー!」
「わふっ!」
わんわんの声。
「うぅ」
起きたくない。
ごろごろ。
「ユウトー!」
「いるー?」
「ユウトくーん」
「おーい!」
ガンツたちの声も聞こえる。
「いないのかなぁ」
リサの声。
「いると思うんだけどなー」
ガンツ。
「最近元気ないですしね」
ミック。
「ねむいのかなぁ」
ポルン。
すると。
わんわんが。
「わふっ!」
窓の方へ。
ひょい。
ひょい。
「わんわん?」
次の瞬間。
カリカリ。
カリカリ。
「わっ!」
窓の外。
わんわんが顔を出した。
「わふっ!」
「わんわん!?」
しっぽぶんぶん。
「わふっ!」
「ふふっ」
ちょっと笑う。
「ユウトー!」
窓の向こうからリサ。
「いたー!」
「わははっ、やっぱいた!」
「こんにちは!」
「やっほぉ」
みんな笑ってる。
「ユウト!」
「遊ぼ!」
「……」
ごろん。
「今日はいい」
「えー!」
「なんでー!」
「ごろごろする」
「みのむしだねぇ」
ポルンが笑った。
「みのむしー!」
リサも笑う。
「みのむしー!」
ガンツも笑う。
「ほっほっほっ」
……ん?
「ほっほっほっ?」
みんな固まる。
「え?」
「かめせんせー?」
「起きたの!?」
びっくりして外を見る。
でも。
誰もいない。
「気のせい?」
「かめ先生寝てるもんね」
「不思議ですね」
ミックも首をかしげる。
そして。
みんなは笑った。
「また来るね!」
「みのむしー!」
「元気出せよー!」
「わふー!」
ぱたぱた。
走って帰っていく。
また静かになる。
◇
夕方。
雨も止んで。
空が少し赤くなった。
ユウトは窓の外を見る。
みんな。
楽しそうだったな。
ジーン。
今頃元気かな。
王国のみんな、お腹いっぱい食べてるかな。
そんなことを考えていると。
窓の外。
木の枝に。
ころん。
「あっ」
小さなみのむし。
風に揺られて。
ころん。
ころころ。
ころころ。
「ふふ」
ユウトは少しだけ笑った。
「ボクとおなじだ」
ころころ。
ころころ。
ごろごろ。
冬の始まり。
ユウトの心も。
まだ。
みのむしみたいに丸くなったままだった。




