第七十三話 かめ先生、とうみんする
最終章、冬編スタートです。
次の日の朝。
ちゅんちゅん。
小鳥の声。
お布団の中。
ユウトは目を開けた。
ぼーっと天井を見る。
そして。
「あっ……」
昨日のことを思い出した。
鏡。
ジーン。
大失敗。
「……」
胸がきゅっと苦しくなる。
その時。
「ユウトー!」
お母さんの声。
「お父さん呼んでるわよー」
「……うん」
元気のない返事。
のそのそと起き上がる。
居間に行くと。
お父さんが待っていた。
「おはよう」
「……おはよう」
「よく眠れたか?」
ユウトは首を横に振る。
「おとうさん」
「ん?」
「ボク、こわしちゃった」
ぽろぽろ。
また涙が出てきた。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
お父さんはしゃがみこんだ。
「うん」
「知ってる」
「小さな箱で、全部聞いてたからね」
ユウトはびっくり。
「しってたの?」
「うん」
「でもね」
お父さんは優しく笑う。
「みんな無事だった」
「それが一番大事なんだ」
「……うん」
「それに」
「かめ先生、楽しみにしてたんだよ」
「かがみ?」
「そう。どうやって直そうかなって」
「もうなおせない……」
ぐすっ。
「かめ先生またみんなで冒険したいって」
「……」
「だから」
お父さんは優しく頭を撫でる。
「ちゃんと謝っておいで」
「うん」
「ごめんなさいって言っておいで」
「うん!」
「よし」
「それじゃ、行っておいで」
「かめ先生は?」
「鏡のあった部屋に行った」
「見たいそうだ。冬眠する前に」
「とうみん?」
「そう」
「春までぐっすり寝るんだって」
「えぇー!」
◇
今日も行くのかと思うと足取りが思い。
さくっ。
さくっ。
落ち葉を踏む音。
今日もみんなも一緒だった。
リサ。
ガンツ。
ミック。
ポルン。
わんわんに隠れてるジーン。
みんな静かだった。
奥の部屋。
とんとんとん。
「かめせんせー」
「いますか?」
「ほっほっほ」
「開いておるぞ」
中に入る。
すると。
「わぁ」
あれだけ真っ白だった部屋が綺麗になってる。
ぬくぬくした格好で、お掃除してるかめ先生。
「ほっほっほ」
「来たかの」
ユウトは。
ぽろぽろ。
「かめせんせぇ」
「ごめんなさ~い」
「うわぁぁん」
「かがみこわしちゃったぁ」
かめ先生は。
のそのそ。
ゆっくり近づいて。
ぽんぽん。
「ほっほっほ」
「よいよい」
「壊れたなら直せばよい」
「ひっく」
「失敗したなら、次頑張ればよい」
「でもぉ」
「うむ」
「じゃが」
「謝りに来たのはえらいぞ」
「え?」
「失敗するのは誰でもするもんじゃ」
また、頭をぽんぽんする。
「だまーっておる事はよくない」
「じゃが」
「謝るのは勇気がいる」
「おぬしは、ちゃんと来た」
「それでよいんじゃ」
ぽんぽん。
「かめせんせぇ」
「ほっほっほ」
「子どもなんじゃから」
「失敗するのが仕事じゃ」
「乗り越えるのがもっと大事なんじゃよ」
◇
「ところで」
かめ先生はわんわんをじーっと見る。
「そこに小人さまがいるじゃろ」
見つかってる。
「はい!」
でも姿は見せない。
「帰る方法はあるんじゃろ?」
「うん!」
ジーンは元気よく頷いた。
「秘密の道があるの」
「場所は秘密」
「人間さんは通れないけど」
「私は帰れるわ!」
「ほっほっほ」
「それなら安心じゃな」
リサがしょんぼり。
「一緒に行けないんだ」
「ごめんね」
ジーンも少し寂しそう。
「でも!」
パチリ。
「きっとまた来るわ!」
「約束よ!」
「ほんと!?」
「うん!」
「絶対!」
「また遊ぼうね!」
「うん!」
「わふっ!」
わんわんもしっぽをぶんぶん。
◇
「それからのぅ」
かめ先生が笑う。
「わしもしばらく冬眠しようと思うとってなぁ」
「「えぇーー!!」」
「ほっほっほっ。春までお休みじゃ」
「やだー!」
「起きてよー!」
「ほっほっほ」
「無理じゃよ。わしは亀だからな。ほっほっほっ」
「春になったらまた起きる」
「その時、またみんなで考えようぞ」
「うん!」
「約束!」
「うむ」
◇
「それじゃ」
「みんな」
「ありがとう。みんなのおかげで冬を越せる。本当にありがとう」
ジーンは一人一人を見る。
「ガンツ!」
「おう!」
「ポルン!」
「うん!」
「ミック!」
「はい!」
「リサ!」
「うん!」
「わんわん!」
「わふっ!」
そして。
「ユウト」
「……うん」
「もう泣かないの」
「でも」
「友達でしょ?」
「うん」
「また会えるんだから」
「そんな顔しないの」
パチリ。
いつものウインク。
「次迎えに来たら、今度こそ王国にいらっしゃい。歓迎するわ」
「約束よ」
「うん!」
ユウトも笑った。
「やくそく!」
◇
ふわり。
葉っぱのお帽子。
緑のワンピース。
「みんな、大好き!」
「またね!」
「またなー!」
「また遊ぼうねぇ!」
「お元気で!」
「わふー!」
「うん!」
パチリ。
最後のウインク。
そして。
近くの草の中に。
カサカサという音は。
あっという間に聞こえなくなった。
もう姿も見えなくなった。
◇
「ほっほっほ」
「さて」
「一緒に村に戻ろうか」
かめ先生と一緒に村まで戻る。
ゆっくり。ゆっくりと。
「春になったらまた呼びに来ておくれ」
「えー、起きてきてよー」
「わははっ!」
みんな笑った。
ひゅるるる。
冷たい風。
空から。
ちらり。
また、ちらり。
「あっ」
「雪だ」
白い小さな雪。
落ち葉の上に。
静かに。
ひとつ。
またひとつ。
降り積もる。
楽しかった秋が終わり。
新しい季節が始まる。
静かに。
冬が始まった。




