第六十七話 お母さんのお腹②
朝。
ひゅるるる。
ひんやりとした秋の風が吹き込んでくる。
「うっ、うっ、さむい」
うにうに。
うにうに。
おふとんの中に潜り込む。
うにうに。
うにうに。
ユウトは気持ちよさそうだ。
「んー」
ぬくぬく。
ぽかぽか。
もう少し。
もう少しだけ。
そんな時。
「ユウトー」
優しい声。
お母さんがにこにこ笑っていた。
「朝よ」
「んー」
「おはよー」
ユウトはお母さんにぎゅーっ。
「ふふっ」
お母さんもぎゅーっ。
「今日は甘えんぼさんね」
「えへへ」
その時。
「おっ?」
ユウトは目をぱちぱち。
「ねぇねぇ、おかあさん、おなかおっきくなった?」
お母さんのお腹。
前よりなんだか少しだけ大きな気がする。
「うん、お腹でね、赤ちゃんが大きくなってるのよ」
「ほんと?」
「うん」
「すごーい!」
ユウトは目をきらきら。
お母さんも嬉しそう。
◇
朝ごはんを食べて。
縁側でぽかぽか。
お父さんはお庭の掃除が終わってお茶を飲んでいる。
お母さんは少し厚手の羽織を肩にかけて、ゆっくり座ってにこにこ。
わんわんは。
「わふぅ」
お母さんの足元で丸くなる。
さらさら。
落ち葉が踊る。
「気持ちいいねぇ」
お母さんが笑う。
「うん!」
ユウトもにっこり。
すると。
「ん?」
お母さんがお腹に手を当てた。
「ふふっ」
「どうした?」
お父さんが優しく聞く。
「今ね」
「ポコッて動いたの」
「おっ!」
お父さんが嬉しそう。
「またか!」
「うん」
ユウトは首をかしげる。
「ポコ?」
「赤ちゃんが元気に動いてるんだよ」
「えっ!」
ユウトは目をまんまる。
「お腹の中で?」
「うん」
「すごーい!」
◇
「さわってみる?」
お母さんが優しく笑った。
「いいの?」
「うん」
ユウトはそーっと手を伸ばす。
お母さんの少しまあるいお腹。
「こんにちはー」
「ボク、ユウトだよー」
ぺたっ。
お腹は温かい。
「赤ちゃん、ねんねしてる?」
すると。
ぽこっ。
「わぁ!」
ユウトは飛び上がった。
「うごいた!」
「動いた!」
お母さんも嬉しそう。
「元気いっぱいねぇ」
「すごい!」
「赤ちゃん、こんにちはしてくれた!」
お父さんも笑う。
「そうかもしれないな。おにいちゃんに会いたいよーって言ったのかもな」
ユウトは目をきらきら。
「やったー、こんにちはー!」
ユウトはお母さんのお腹にまた優しく、そおっと手を乗せる。
「ボク、おにいちゃんだよー!」
すると。
うにょ。
「わぁぁ!」
「あっ、また!」
「すごーい!」
みんなにこにこ。
わんわんも。
「わふ?」
不思議そうに首をかしげる。
◇
午後。
お父さんは洗濯物を取り込んでいる。
お母さんは椅子に座ってゆっくり。
ユウトはお母さんのお膝にぴとっ。
「重くない?」
お父さんが聞く。
「大丈夫よ」
「ユウト、甘えんぼさんだから」
お母さんはくすくす。
「えへへ」
すると。
「ん?」
お母さんがまた笑った。
「ふふっ」
「また動いた?」
「うん」
「元気いっぱい」
お父さんも隣に座る。
「どれどれ」
お父さんの手。
お母さんの手。
ユウトの手。
三つ並んでお腹の上。
ぽこっ。
「あっ!うごいた!」
「元気だなぁ」
お父さんもにっこり。
お母さんもにっこり。
ユウトもにっこり。
ぽこ。
うにょ。
「あはは!なんだかくすぐったい」
お母さんが笑う。
「赤いちゃん、いっぱいあそんでるね!」
ユウトも大喜び。
◇
夕方。
空はオレンジ色。
ひゅるるる。
優しい風。
夕焼けの雲がゆっくり流れる。
縁側で。
お父さん。
お母さん。
ユウト。
わんわん。
みんなで並んで座っていた。
「あー、幸せだなぁ」
お父さんが、ぐーっと両手を伸ばしながらぽつり。
「うん」
お母さんもにっこり。
ユウトはお母さんにもたれて。
「ボクもー」
「幸せー」
すると。
ぽこん。
「あっ」
「また動いた」
お母さんが笑う。
「あかちゃんもしあわせ?」
ユウトが聞く。
お母さんは優しく頷いた。
「きっとそうよ」
「お父さんも」
「お母さんも」
「ユウトも」
「わんわんも」
「みんなの声が聞こえてるから」
「きっと嬉しいのよ」
「そっかぁ」
ユウトはにっこり。
お母さんのお腹にぴとっ。
「あかちゃーん。ゆっくりおおきくなってね」
「ボク、いっぱいあそんであげるからね」
すると。
ぽこん。
「あっ!」
「あはは!」
「お返事してる!」
お父さんもお母さんも笑った。
わんわんも。
「わふっ!」
しっぽをぶんぶん。
ひゅるるる。
秋の風が優しく吹く。
ぽかぽか。
にこにこ。
お母さんのお腹の中では。
小さな命が。
今日も元気いっぱい。
うに。
うに。
幸せそうに動いているのだった。




