第五十六話 焼きいも、ほくほく
秋の午後。
さらさらとした秋風が心地いい。
「今日はたき火で焼きいもするぞー!」
「わーい!」
お父さんの声に、ユウトはぴょんっと飛び上がった。
わんわんも。
「わふっ!」
しっぽをぶんぶん。
「そうだ、ユウト。リサやガンツたちも呼んでみんなでしよう!」
「うん、わかかった。よんでくるねー」
ユウトは、やったぁ。と急いで呼びに行く。
「わんわん、いこう」
「わふっ!」
わんわんはしっぽをふりふり。
おでかけが嬉しそうだ。
◇
「こんにちはー」
リサやガンツたちも集まる。
裏庭の端では、お父さんとリサパパが落ち葉や小枝をいっぱい集めていた。
「よーし、火をつけるぞ」
ぱちっ。
ぱちぱち。
赤い火がゆらゆら揺れる。
「きれー」
ユウトは目を細める。
「暖かいねー」
リサも嬉しそう。
「ふふっ、火は近づきすぎちゃだめよ」
リーナお姉ちゃんが優しく言った。
その横では。
「オレたちはお芋係だ!」
ガンツが胸を張る。
「はいっ!」
ミックも元気よく返事。
「早く食べたいなぁ」
ポルンだけはもうお腹を押さえていた。
「あははは!」
みんな大笑い。
◇
「それじゃ、お芋を包むぞー」
水につけてある小ぶりいも。
お父さんが教えてくれる。
「まずは濡らした藁でいっぱい包んで」
「その上から、この大きな葉っぱで包むんだ」
リサパパもにこにこ。
「こう?」
ユウトが一生懸命包む。
「そうそう!」
「上手上手」
リサも隣で一生懸命。
「リサ、お姉ちゃんだから上手にできるの!」
えへへっと得意顔。
リーナお姉ちゃんも笑った。
「ふたりとも上手だよ」
そして。
「よーし、最後はこの泥を塗ったら完成だ」
「はーい」
みんなで泥をぬりぬり。楽しい。
よし、完成だ!
「いくぞー!」
◇
みんなで焚き火の前へ。
でもさっきまでのように燃え上がってない。
今にも消えそうだ。
「わっ、たきびさん消えてる!?」
ユウトは、焼きいもが食べられないとしんぱいになった。
「ははっ、大丈夫だよ。ユウトくん。これは熾火って言って、焼きいものためのお布団だよ」
リサパパは、その熾火を長い棒で掻き分けながら、にこっとした。
お顔にすすがついている。
「おいもさんのおふとん!?」
ユウトの目がキラキラする。
おいものおふとんがあるとはしらなかった。
「おふとん、いいなー」
「あははっ、ユウトは布団が好きだなぁ」
ガンツが腹をかかえて笑う。
あっ、ガンツの手でドロが服についた。
みんなも笑ってる。
「よし、それじゃー、中に入れるぞ」
リサパパがみんなからおいもを受け取り、おふとんの中に。
「ほいっ!」
「そりゃー!」
「わふっ!」
わんわんまで前足をぱたぱた。
お芋は熾火の中へ。
チリチリ。
じりじり。
熾火が熱くぽうっと光る。
◇
待ってる間。
ガンツたちは鬼ごっこ。
「待て待てー!」
「きゃー!」
リサが逃げる。
「はははっ、今度はオレが鬼だー!」
ガンツが両手をあげて追いかける。
「みなさんも、逃げてくださいー!」
ミックが追いかけられる。
「お腹すいたなぁ」
ポルンは熾火の前から離れない。
「まだかなぁ」
くんくん。
くんくん。
すると。
「わん?」
わんわんが鼻をひくひく。
草むらが。
もぞっ。
「ん?」
ユウトが見る。
誰もいない。
でも。
ころころ。
小さな石ころが転がった。
「風かなぁ?」
ユウトは首をかしげた。
その奥で。
小さな小さな笑い声がしたような。
くすくす。
でも。
「ユウトー!」
リサの声。
「鬼ごっこしよー!」
「うん!」
ユウトはすぐ走っていった。
草むらの陰で。
小さな小さな影が。
にこにこしながら熾火をひっそり見ていた。
◇
しばらくすると。
「おっ、いい匂いしてきたぞ!」
お父さんが言った。
ふわぁぁ。
甘い匂い。
「わぁ!」
「ほんとだ!」
「いい匂い!」
みんな集まってくる。
ポルンなんて。
「もう限界ぃ……」
ふらふら。
「あははは!」
みんな大笑い。
お父さんが火の中からお芋を取り出す。
「熱いぞー」
ほかほか。
湯気がもくもく。
「うわぁ!」
ユウトの目がきらきら。
半分に割る。
ぱかっ。
中から。
黄金色のお芋。
ほわほわの湯気。
「わぁぁぁ……」
リサが思わず声を上げた。
「きれーい」
リーナお姉ちゃんも目を細める。
甘い匂い。
優しい匂い。
なんだか幸せな匂い。
ふーっ。
ふーっ。
少し冷まして。
ぱくっ。
「あっ!」
ユウトの目が丸くなった。
ほくほく。
ねっとり。
優しい甘さが口いっぱいに広がる。
「おいしいー!」
「ほんとだー!」
リサもにこにこ。
「甘い!」
「柔らかいです!」
「うまーい!」
「もっと食べたい」
ガンツも、ミックも、ポルンも大喜び。
わんわんも。
「わふっ!」
小さく切ってもらって。
もぐもぐ。
しっぽぶんぶん。
「ふふっ」
リーナお姉ちゃんも幸せそう。
「自分たちで掘ったお芋だから、余計に美味しいね」
「うん!」
ユウトも嬉しくてたまらない。
◇
気がつけば。
お芋の山が少し減っていた。
「あれ?」
リサが首をかしげる。
「さっきもっとあったよね?」
「オレ食ってないぞ?」
ガンツも不思議そう。
「ぼくもまだ二つです!」
「ポルンは?」
「三つしか食べてないよ?」
「三つも食べたの!?」
みんな大笑い。
すると。
草むらの奥で。
もぞもぞ。
小さな葉っぱの帽子がちらっと見えた。
そして。
ころころ。
小さなお芋を抱えた影が、慌てて隠れた。
「ん?」
ユウトが目をぱちぱち。
でも。
もう何もいない。
「気のせいかなぁ」
すると。
くすくす。
どこからか楽しそうな笑い声。
風の音だったのかもしれない。
さらさら。
秋の風が吹く。
空にはいつもの一本雲。
「焼きいも最高だな!」
ガンツが笑う。
「うん!」
リサも笑う。
「またやろうね!」
「うん!」
ユウトも笑った。
秋のおやつは、ほくほくで。
なんだか心までぽかぽかになる。
そんな一日だった。




