第五十四話 イチョウ、ひらひら、ぎんなん、くさーい
祭りの次の日の朝。
とても静かな朝。
昨日のお祭りが夢みたい。
でも森は赤や黄に彩られ、なんだか嬉しそう。
多くの実りが小鳥さんにおいで。おいで。としてる。
チーチー。ギィー。
キィキィ。チュルチュル。
たくさんの小鳥さんの声。
仲良く歌ってる。
木の実をつつき楽しそう。
チーチー。ギィー。
キィキィ。チュルチュル。
今日も空は高くて青い。
そしていつもの1本雲も嬉しそうに大きく見える。
お母さんと朝のお散歩。
てってってっ。
なんだかいつもより足取りが軽い。
でも。
「わぁー、きれいねぇ!」
お母さんが思わず声を上げた。
「うん、きれー」
ユウトも。
広場の先の道。
まっ黄色の木が並んでる。
「イチョウ並木って言うのよ」
朝日が差し込む。
葉っぱがきらきらと光ってる。
風が吹くたび。
さらさらさら。
黄色い葉っぱが舞い落ちる。
「きれーい!」
リサとリーナお姉ちゃんとリサママ。
道の向こうからやってくる。
リサは両手を広げてくるくる。
みんなにこりと微笑んでる。
◇
いっぱい人が集まって。
落ちてる実を拾ってる。
「昨日まで緑だったのにね!」
リサが言うと
「神獣さまのおかげかなー?」
リーナお姉ちゃんは棒で実を拾いながら答える。
ふと、イチョウを見上げる。
その時。
ぽとん。
何かが落ちた。
「ん?」
ユウトが拾い上げようとする。
「あっ、触わっちゃダメよ」
お母さんがきゅっと手を引っ張る。
丸い実。
黄色くて。つるんとしている。
「どうして?」
首を傾げながらお母さんを見あげて訪ねる。
「それはね、その実を触ると手がかぶれるからよ」
「かぶれ?」
聞き返す。
「そう、手が痛い痛いになるの。だから素手で触らずに、ほらこれ使って拾うのよ」
そういって、長い棒を2本。
ひょいっと器用に実を摘まみ、中の白いものを摘まむ。
そして、次はユウトよ。と棒を渡す。
「わっ、白いの拾うんだ。やりたーい」
ユウトの目はきらきら。
早く早くと棒をせがむ。
◇
「おーい!」
向こうからガンツたちが走ってくる。
「見ろよー!」
ガンツが胸を張った。
袋をがばっと開けてみせる
さっきの白いものがいっぱい。
「へへっ、いっぱい拾ったんだ。すげーだろ」
「わぁ、すごい!いっぱいだね」
リーナお姉ちゃんが褒める。
「これは、ぎんなんっていうんですよ!」
ミックが教えてくれる。
「そうなの?イチョウじゃないの?」
リサが聞く。
「はいっ、イチョウから落ちた実の種を銀杏って言うんです!」
「へぇ、すごいじゃん、ミック」
リサに褒められて嬉しそう。
えへへっ、とミックは鼻の下を擦りながら嬉しそう。
「でも、どうしてみんな拾うだろう?」
◇
ユウトが首をかしげた。
すると。
ポルンが急に立ち止まる。
「あれ?」
「どうしたの?」
「ユウト、この実を嗅いで。面白いから」
といってイチョウの実を棒で摘む。
ユウトは顔を実に近づける。
「うわっ、くさーい」
鼻がもげそうだ。
「え?」
くさいのに、みんなもなぜか実を顔に近づける。
くん。
「うわっ!これはくさいですねっ!!」
ミックは鼻を摘まむ。
「くさい!くさーい!」
リサは飛び上がった。
「はははっ、そりゃぎんなんだからな!?」
ガンツは楽しそう。
みんな大騒ぎだった。
◇
「ふふっ、みんな楽しそうね」
リサママの笑い声がした。
「ホント、みんな何を騒いでるの?」
お母さんも楽しそうだ。
「あっ!お母さん!」
ユウトたちは駆け寄る。
「ママー、この実くさいよ!!」
「お母さん、まだいっぱい落ちてるよ!」
「早く食べたーい」
ポルンは待ちきれない。
みんな一斉にしゃべる。
「もうちょっとみんなで拾おうね」
リサママは棒でひょいっと一つ拾った。
「これどうやって食べるの?」
ユウトが聞くと
「えぇー!?知らないのー?」
みんなの声が重なった。
「この種をなー、火にかけるんだよ!」
ガンツが大声で言う。
「ひに!?」
「そうよ!お鍋に入れて振り振りするのよ!」
リサが両手をぶんぶん振る。
「爆発します!」
ミックが人差し指を立てて言う。
「えぇ、危ない。怖いよぉ」
「ふふふっ、ユウトくん大丈夫よ」
リーナお姉ちゃんは優しく言う。
「よーし、それじゃ、誰が一番拾えるか競争よ!」
「おー!」
お母さんが言うと、みんなで答えた。
◇
子どもたちみんなで。
ぎんなん拾いを始めた。
「いっぱいある!」
「こっちも!」
「こっちにも!」
黄色い葉っぱの下には。
ぎんなんがたくさん落ちていた。
ころころ。
ころころ。
夢中になって集める。
「大収穫だな!」
ガンツが笑う。
「お祭の次の日もお祭りですね!」
ミックも得意そうだった。
「お腹すいたなぁ」
ポルンだけはいつも通りだった。
◇
お昼。
広場の隅で。
お母さんとリサママが蓋のついた小さな鍋を用意していた。
「今日はここでしましょ」
「わーい!」
みんな集まる。
ぱちぱち。
火が燃える。
ころころ。
ぎんなんが鍋の中で転がる。
しばらくすると。
ぱんっ!
「わっ!」
ユウトが飛び上がった。
「はじけた!」
次から次に弾け出す。
パチッ、パチン!
パン!ポン!
「わっ、わっ、いっぱい弾けるよ!」
きゃっきゃっと笑う。
美味しい匂い。
「もう食べ頃よ」
◇
「いただきまーす!」
みんなで一つずつもらう。
熱いので。
ふーっ。ふーっ。
殻を割る。
ぱきっ。
中から出てきたのは。
きれいな緑色だった。
「きれーい」
リサが目を丸くする。
「さーて、食べてみるか」
ガンツがぱくり。
もぐもぐ。
「お?」
「どう?」
「うまい!」
「ほんと!?」
みんなも食べる。
ぱくっ。
もぐもぐ。
「あっ」
ユウトの目が丸くなった。
「おいしい!」
「ほんとだ!」
「不思議な味!」
「もちもちしてる!」
リサも嬉しそう。
ポルンは。
「もっと食べたい」
もう次を見ていた。
「あははは!」
みんな大笑い。
◇
食べ終わって。
みんなで木の下に寝転がる。
さらさらさら。
黄色い葉っぱが落ちてくる。
「秋だねー」
リサが言った。
「うん」
ユウトも頷く。
昨日はお祭り。
今日はぎんなん。
秋は楽しいことがいっぱいだ。
すると。
ひらっ。ひらっ。
一枚の葉っぱが。
ユウトの鼻の上に落ちた。
「ぷっ」
「ふふふっ」
リサが笑う。
ユウトも笑った。
見上げる空は高くて青い。
そして。
遠くには。
一本の細く長い白い雲が。
静かに空を泳いでいた。




