第五十三話 お祭りの、、、意味?
どこまでも広く高い秋の空。
一本の細く長い白い雲が空を横切っていた。
朝から村は大にぎわい。
「お祭りだぞー!」
「おぉー、わっしょーい!」
いつもと違ってみんな同じ服。
紺に染まったその服は、背中に大きな丸と文字。袖の先端は燃えるように真っ赤だ。
みんな、はっぴって言ってる。
わっしょーい。わっしょーい。
広場の中央には矢倉。
その周りを大人たちが囲んでる。
みんな楽しそうだ。
蒸籠を乗せた大きなお鍋。
串に刺したお魚やお肉、とうもろこし。
どこからも美味しそうないい匂い。
くんくん。くんくん。
「ん~、いい匂~い♪」
ポルンの鼻がひくひく動く。
「おまんじゅうかなー?」
「こら、ポルン、お楽しみはまだだよー」
料理を準備してるはっぴ姿のおばさんたちが笑った。
「うぅー」
ポルンのお腹がぐぅーっと鳴る。
「あははは!」
みんな大笑い。
◇
広場では太鼓が並びだした。
ユウトたちの出番も近いのかも。と思ってたら、
「ほら、あんたたちも家に帰って着替えてきなさい」
「そうそう。神様をお迎えするんだからね」
と、料理を作ってるおばさんたちから声がかかる。
そっかぁ。神様のために、着替えてるのかぁ。と、思ったその時、
「おっ、ユウトまだ着替えてないのか?もうすぐ本番だぞ!」
すでにはっぴを着てるガンツが胸を張る。
「ユウトくん、知ってますか?はっぴには神様を迎える大切な意味が込められてるんですよ!」
ミックも来た。ミックも着替えてる。
「うん、ボク着替えてくるね!」
てってってっ。
ユウトは楽しげな足取りで急いで家に帰った。
◇
「ぴーひゃらー、ぴーひゃらー」
髪を上に上げたはっぴ姿のリーナお姉ちゃんが笛を吹く。
「お姉ちゃん、すごーい!」
同じ格好のリサも、両手を広げ嬉しそうに飛び跳ねる。
「えへへ、あっ、ユウトくん。着替えて来たんだねー。男らしくて格好いいよー」
リーナお姉ちゃんが褒めてくれた。
なんだか照れくさいけど、なんか嬉しい。
「そうね、いいじゃない」
リサも照れくさそうに褒めてくれた。
なぜかドキリとした。
ユウトは目をそらし空を見上げた。
「お祭りって楽しいね」
「うん!」
リサもにっこり。
すると。
「おや?」
かめ先生がやってきた。
「ほっほっほっ。ユウトくんは、お祭りの意味を知っておりますかな?」
「いみ?」
ユウトが首をかしげる。
「お祭りって、おまんじゅう食べる日じゃないの?」
いつの間にか着替えてるポルンが言う。
「それも大事ですな」
ほっほっほっと笑う。
「でもですな」
「お祭りはありがとうの日なんですじゃ」
「ありがとう?」
「そうですじゃ」
「畑に」
「森に」
「川に」
「動物たちに」
「そして」
「たくさんの実りに対する感謝をする日なんですじゃ」
「ふーん」
ユウトはよく分からない。
「いっぱいありがとうする日?」
「そういうことですじゃ」
かめ先生はうんうん頷いた。
◇
夕方。
お祭りが始まった。
ぴぃーひゃら~♪
リーナお姉ちゃんの笛。
どんとんっ。どんとんっ。
どんとんっ。どんとんっ。
ガンツ。
ユウト。
リサ。
ミック。
ポルン。
五人の太鼓。
真剣な表情で、額に汗をいっぱいかいて。
キラキラの笑顔で。
両手に持ったバチを左、右、左、右と交互に一生懸命叩く。
昨日より上手。
「いいぞー!」
「上手になった!」
おじさんたちも拍手する。
ユウトたちは嬉しくて仕方ない。
ぴぃーひゃら~♪
どんとんっ。どんとんっ。
ぴぃーひゃら~♪
どんとんっ。どんとんっ。
祭りは最高潮だ。みんなユウトたちを見て、周りでお酒を飲んで楽しんでいる。
ぴぃーひゃら~♪
どんとんっ。どんとんっ。
ぴぃーひゃら~♪
どんとんっ。どんとんっ。
村中に音が響く。
やがて。
とんとん!!やーっ!!
パチパチパチ。パチパチパチ。
一斉に拍手が鳴り響く。
ピューピュー口笛も聞こえる。
最高だ。すごく楽しい。
演奏が終わり、余韻に浸っているといつの間にか日が暮れた。
焚き火がゆらゆら揺れる。
すると。
しーーーーーん。
一瞬で静寂が訪れた。
さっきまで騒いでた村のみんなが静かだ。
あれっ!?おかしい。
「ん?」
ユウトは不思議そうにキョロキョロする。
ふと気付く。
そんちょーも。
お父さんも。
お母さんも。
みんな空ではなく。
森の方を見ている。
「どうしたのかな?」
ボクはリサに小声で話しかける。
リサは唇に指を当て、しっ。と目で見て教えてくれる。
その時。
ゴォォォ……
低い声が響いた。
「え?」
地面が少し揺れる。
ざわざわざわ…。ざわざわざわ…。
森の木々が揺れる。
風が吹く。
そして。
森の奥から。
真っ白な大きな大きな鹿が、ゆーーーっくり現れた。
右足をすっと。次は左足をすっと。交互に前に足を出す。
「わぁ……」
ユウトは目を丸くした。
大きい。
とても大きい。
角は木の枝のように広がり。
葉っぱや小鳥がとまっている。
優しい目。
怖くない。
でも、なぜか命を吸い取られそうな感覚がある。決してずっと見てはいけない。そう感じた。
周りの大人たちは両膝をつき頭を垂れている。
気付かなかった。あわてて同じようにする。
とても大きかった。
「神獣様、ようこそいらっしゃいました。謹んでお礼申し上げます」
そんちょーが更に深々と頭を下げた。
村人たちも。
みんな頭を下げる。
「ありがとうございます」
「今年もありがとうございます」
静かな声。
ユウトも真似する。
「ありがとうございます!」
リサも。
「ありがとうございます」
神獣は静かに目を細めた。
キュイイィィン。キュイイィィン……
優しい声。
すると。
風が吹く。
さらさらさら。
さらさらさら。
葉っぱが揺れる。
そして。
ぽとん。
「あっ」
いちょうの葉が色づく。
山も急に紅葉が加速する。
どんぐりや銀杏。
栗や柿がたっくさん実る。
実りだす。一斉に。
柿が赤く染まる。
畑の野菜たちもすくすく育ち、元気そうに揺れている。
「わぁー!」
「すごーい!」
、
みんな大喜び。
神獣はくるっと振り返り、静かに、そしてゆっくり歩き出した。
森へ帰るみたいだ。
もっとちかくでみたい!!
ユウトは、そう思うと我慢ができずに走り出したくなった。
チラッと見ても周りは気付いない。
ユウトが走ろうとする。
「そうだ!タオルケット召喚して、お空から追いかけよう!」
すると。
神獣が振り返った。
優しい目。
ふぅっと風が吹く。
その時。
頭の中で。
ぶっぶー。
《タオルケットは衣替のため封印されました》
「え?」
ユウトは止まった。
「どうしたの?」
リサが聞く。
「なんでもない」
ユウトは神獣を見る。
神獣は怒っていない。
ただ。
優しく見つめていた。
まるで。
「また今度」
そう言っているみたいだった。
キュイイィィン。キュイイィィン……
神獣は森の中へ消えていく。
「いっちゃったね」
「うん」
リサが隣で笑った。
「でも」
「お祭りって楽しいだけじゃなかったね」
「うん!」
ユウトも笑う。
「ありがとうの日なんだね!」
「そう!」
リサが胸を張る。
「これから収穫で忙しくなるわよー!」
「リサ、それってさっき聞いたばかりでしょ?」
リーナお姉ちゃんが笑った。
「あっ」
「あははは!」
みんな笑う。
見上げると。
どこまでも高い夜空。
満月の横には。
いつものように。
一本の細く長い白い雲が。
静かに浮かんでいた。




