第四十八話 すたんど・ばい・うにうに③
部屋の中央、台座の上にぽつんと置かれた、古びた、でもどこか神聖な雰囲気をまとった本物の宝箱。
絵本でしか見たことがないような宝箱が、みんなの目の前にあった。
「おいおい、 本物の宝箱だぞ!」
ガンツも大興奮だ。
声が静かな部屋に何重にも響き渡る。
「本物だよね!本物だよね!」
リサもぴょんぴょんしている。
ミックもポルンもボクもみんなの目がきらきらしていた。
だって古代遺跡だ。
謎を解いた。
大穴も越えた。
妖精にも会った。
その最後にある宝箱だ。
きっとすごいお宝に違いない。
その時。
ふわり。
小さな光が、宝箱のまわりを嬉しそうにくるくると一周する。まるで
「よくがんばったね、あけてごらん」
と言っているみたいだった。
「ユウト、あけよう! みんなであけよう!」
リサがボクの手をぎゅっと握りしめる。
ミックもポルンも、生唾をごくりと飲み込んだ。
「うん……! せーの、で行くよ!」
みんなで宝箱の前に並び、そっと大きなフタに手をかける。
せーのっ!
ギギギギギ……ッ。
重い音を立てて、フタがゆっくりと開いていく。
その瞬間だった。
ピカァァァァァッ!!!
「うわぁっ!?」
宝箱を開けると、ふわりと優しい金色の光が溢れた。眩しくてボクたちは思わず腕で目を覆う。
◇
「おぉぉぉ!まぶしいけど早く見たいー!!」
全員が身を乗り出す。
金貨かもしれない。
宝石かもしれない。
伝説の武器かもしれない。
光はしだいに優しく徐々に消えていく。
ボクは恐る恐る目をあけると、宝箱の中から、ぽわぽわとした無数の『光の粒子』が空へと舞い上がっていくところだった。
「わぁ……きれい……」
リサがうっとりと見上げる。
光の粒は、まるで部屋の中に作られた満天の星のようだった。
そして、ごくり。中を覗き込む。
「あれ? 」
リサが首をかしげる。
「宝箱の中、これだけ?」
ポルンが箱の中をのぞき込む。
光が飛び去ったあとにポツンと残っていたのは――。
◇
中に入っていたのは。
『一冊の古い絵本』と『美しい装飾が施された短剣』
それだけだった。
◇
しーん。
一瞬。
みんな固まる。
「えっ……少な」
ガンツが言った。
「金貨は?」
ポルンも言った。
「宝石は?」
ミックも言った。
うーん。なんだか思ってたのと違う。
◇
でも。
次の瞬間。
「あははははっ!」
リサが笑い出した。
「なんで笑うんだよ!」
ガンツが言う。
「だって!」
リサはお腹を抱えている。
「宝箱なのに絵本なんだもん!」
「あっははは!」
ユウトもつられて笑った。
なんだか可笑しい。
こんなに頑張って。
こんなに大冒険して。
最後が絵本だったなんて。
◇
すると。
ふわり。
妖精が宝箱の上へ降りた。
そして。
絵本をちょんっと指差す。
「読めってことかな?」
ユウトが言う。
リサが絵本を開く。
ページはぼろぼろだった。
でも。
中の絵は残っていた。
「こびとのおはなしかな?」
字は読めなかったが、小さな人たちが描かれていた。リサが首をかしげる。
「こびと?」
ユウトも覗き込む。本の中には
木の実を隠したり。
帽子を盗んだり。
笑ったり。
走ったり。
なんだか楽しそうな絵が描かれていた。
◇
「へぇ」
ミックが言う。
「きっと昔のお話ですね」
「かわいいな」
ポルンも笑う。
「オレは短剣の方が気になるぞ」
ガンツが言った。
短剣は古いのに不思議と綺麗だった。
柄には見たこともない模様が刻まれている。
「かっこいい!」
ユウトが目を輝かせた。
◇
その時。
ふわり。
妖精がまた光り、ボクの目の前でくるくる回る。
きょとん、とボクが見つめると、妖精は鼻の頭に小さくタッチした。
『ありがとう、小さな勇者さま』
そんな声が聞こえた気がした。
妖精は微笑むと、光の粒となって、きらきらと消えていった。
わっ、消えた。
もう帰ろうってことかな?
◇
「帰ろっか」
リサが言う。
「うん!」
ボクも頷く。
宝物は思ったより少なかった。
でも。
みんな不思議と残念じゃなかった。
だって。
遺跡を見つけた。
妖精に会った。
謎を解いた。
空飛ぶおふとんにも乗った。
みんなで笑った。
それだけで十分だった。
◇
帰り道。
大穴を越え。
通路を戻り。
鏡の部屋まで帰ってきた。
「おかえりなさい」
かめ先生が笑っていた。
相変わらずおふとんの上で座っている。
「ただいまー!」
みんな一斉に駆け寄った。
◇
「どうでしたかな?」
先生が聞く。
「すごかった!」
「めちゃくちゃすごかった!」
「謎もありました!」
「妖精もいました!」
「宝箱もあったぞ!」
みんな一気に話し始める。
かめ先生は。
ほっほっほっ。
と嬉しそうに笑っていた。
◇
「かめ先生!」
リサが短剣を差し出した。
「ん?」
「はい、これあげる!」
「ほぇ?」
先生が目を丸くする。
「だってかめ先生も行きたかったでしょ?」
リサは笑った。
「だからおみやげ!」
みんなも笑った。
◇
かめ先生はしばらく固まっていた。
それから。
そっと短剣を受け取る。
「これは……」
先生の声が少し震えた。
「古代王国の紋章が入った短剣ですじゃ」
「すごいの?」
ユウトが聞く。
「えぇ、とても貴重なものですじゃ」
かめ先生は静かに頷いた。
「これを私がもらっても?」
こくり。とみんなうなずく。
「もう友達だろ、オレたち」
ガンツが言う。
「わしの一生の宝物になりますぞ。みなさん、ありがとうですじゃ」
そう言って。
本当に嬉しそうに笑っているのに、目が少しだけ潤んでいた。
「かめ先生、よかったね!」
みんなも笑った。
「それとね!」
リサは絵本も見せた。
「こびとの絵本!」
「ほぉ?」
先生は目を細める。
そして。
表紙を見た瞬間。
「これは…」
小さく呟いた。
◇
けれど。
何も言わなかった。
ただ。
優しく本を撫でる。
「面白そうな絵本ですな」
そう言って笑っただけだった。
それからみんなで帰ることにした。
かめ先生が魔法を唱え、ボクたちは次々と鏡に入る。最後にボクが入ろうとした時に、かめ先生が言った。
「このおふとんはすごい能力ですじゃ。おかげで、疲れが全て取れましたのじゃ。魔力も回復するのは大変珍しい力ですじゃ。大事にするんじゃぞ」
かめ先生は優しく微笑んだ。
◇
夕方。
みんなは村へ帰った。
夏の風が吹いていた。
長かった冒険も終わりだ。
「楽しかったね」
リサが言う。
「うん!」
ユウトは大きく頷いた。
本当に楽しかった。
きっと。
ずっと忘れない。
夏の大冒険だった。
◇
そして。
誰もいなくなった遺跡。
静かな最奥の部屋。
ぽつんと残された宝箱。
その下で。
かたり。
と小さな音がした。
宝箱の土台がほんの少しだけ動く。
宝箱の下には、誰も気づかなかった小さな階段が隠されていた。
◇
暗い階段の奥で小さな足音が聞こえる。
とことこ。
とことこ。
やがて、小さな影が現れる。
帽子をかぶったとても小さな小人だった。
その小さな影は。
誰もいなくなった部屋を見回した。
そして。
ぽつりと呟く。
「……あれ?扉が開いてる?」
夏の大冒険は終わった。
けれど。
新しい物語は。
もう始まっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。みなさんのおかげでここまで執筆できました。ありがとうございます。
これで第2章の夏編完了です。楽しんでいただけましたら幸いです。
また明日6/26(金)から第3章秋編スタートします。
感想や評価をいただけますと、モチベーションアップになります。ぜひよろしくお願いします




