第四十六話 すたんど・ばい・うにうに
もうすぐ夏も終わりというのにまだまだ暑い。
そんなある日の朝。
ユウトは縁側でごろーんとしていた。
お気に入りのタオルケットを抱えて、うにうに。
「きもちいいー」
風がふわりと吹く。
すると。
「おはよー!!ユウトー!」
元気な声が聞こえた。
いつも通り元気いっぱいにリサが走ってきた。
「大変よ!大変よ!」
リサがわきわきしてる。
「どうしたの?」
きょとん。と首をかしげながらボクは答える。
「きたのよー!」
「誰が?」
「かめ先生よ!!」
「えーーーー!!」
ボクは驚きのあまり飛び上がった!やったー!!と目がぱちくりさせる。
「ふふふっ、嬉しそうね。走ってきてよかった」
リサも大きくいえーいとピースしている。
「ほんとうに来たの!」
ユウトは飛び起きた。
「うん、ほんと!」
「わーい!」
わくわくした。
ついに。
ついに手紙をくれた、かめ先生が来てくれたんだ。
◇
村の広場。
そこには人だかりができていた。
「おぉ」
ユウトは目を丸くする。
そして。
その真ん中に。
ひとりのおじいさんがいた。
大きなとんがり帽子。
長い白ひげ。
木の杖。
背中には大きな荷物。
そして。
のんびり。
とても、のんびりした雰囲気。
「ほっほっほ」
おじいさんは笑った。
「やっと着きましたぞ」
その場のみんなが笑う。
「かめ先生ー!」
リサが手を振った。
「おぉ、おはようございます。キミたちは誰かな?」
おじいさんは目を細める。
「私はリサよ。こっちがユウト。」
「おはよー!」
「おぉ、そうでしたか、キミたちが。初めまして。私は、カメハマンネンですじゃ。みんなからは、かめ先生って呼ばれておりますな。ほっほっほっ」
すると。
かめ先生はゆっくりしゃがみ込んでくれた。
「はじめまして」
にこり。
「おぉ、とってもお利口さんですな」
とても優しい笑顔だった。
◇
「かめ先生、遠かった?」
リサが聞く。
「はい、それはもぅ、遠かったですぞぉ」
かめ先生は笑う。
「となり町から歩いて来たんじゃが」
「うん」
「途中でお昼寝したり」
「うん」
「道を間違えてしまったり」
「うん」
「あぁ、池で魚も眺めておりました」
「かめ先生、のんびり屋さんだねー」
「ほっほっほっ」
かめ先生は笑った。
ボクたちも笑った。
◇
ボクのお家について。
かめ先生は荷物の中から布に包まれたものを取り出した。
「まずはこれをお返ししますな」
サルーキさんに渡した模様の入った石だった。
「あっ!」
ユウトの目が輝く。
「ボクの石!」
「うん、そうですな。それに遺跡の石かもしれませんな」
かめ先生は優しく言う。
「手紙を送ってからも調べてみたのですが、やはり古代遺跡で使われていた模様で間違いありません。これは立派な発見ですぞ」
かめ先生は優しく微笑む。ボクもなんだか大発見した気持ちになり誇らしかった。
「わぉー!やったね、ユウト」
リサが声を上げた。
「じゃあ遺跡あるの!?」
「あるかもしれません」
「おぉー!」
今度はユウト。
「でも」
かめ先生は笑った。
「本当にあるか、まずは調べてみないと分かりませんな」
◇
その日は村でゆっくり休むことになった。
長旅だったからだ。
夕方。
縁側。
ユウトとリサは、かめ先生の隣に座っていた。
「先生ってすごい魔法使いなの?」
リサが聞く。
「ほっほっほ」
かめ先生は少し困った顔をした。
「いえいえ、そんな事はありませんよ。ただ少し昔、宮廷魔法士をしておりましたな」
「きゅうてい?」
「王様のお仕事を手伝う魔法士ですじゃ」
「おぉー!」
二人とも目を輝かせる。
「すごい!」
「いやいや」
先生は首を振った。
「今は魔法の紙を作るおじいさんですじゃ。ほっほっほっ」
「ところで、ユウトくん。明日は朝から見つけた場所に案内してもらっても大丈夫ですか?」
「うん、もちろん!」
「私もー!」
「はい、それではお願いしますね」
「他のおともだちもいい?」
ユウトはガンツたちを誘おうと思って聞いてみた。
「はい、大丈夫ですよ。ほっほっほっ」
かめ先生は優しく微笑んだ。
◇
翌朝。
いよいよ出発。
集まったのは。
ユウト。
リサ。
ガンツ。
ミック。
ポルン。
そして。
かめ先生。
「よーし!」
ガンツが拳を上げる。
「古代遺跡目指して探検だ!」
「おー!」
みんな元気いっぱいだった。
◇
森の中。
てくてく。
てくてく。
木漏れ日が揺れる。
「かめ先生大丈夫?」
ユウトが聞く。
「だいじょーぶですじゃ」
先生は杖をつきながら答える。
その歩みは遅い。一歩ずつゆっくり歩いている。
「ふぅ」
休憩。
「かめ先生、大丈夫!?お水いる?」
ポルンが水筒を差し出す。
かめ先生は優しく受け取る。
「ポルンくん、ありがとう」
ほっほっほ。
みんな笑った。
◇
そして。
森が開け、大きな木が見える。
秘密基地。
「おぉ……」
かめ先生は立ち止まった。
「これは見事な場所ですな。魔力が溢れてますじゃ」
見上げる。
枝は空を覆うほど広い。
風が吹く。
葉っぱが揺れる。
「いい場所じゃ」
先生は嬉しそうだった。
◇
「石を見つけたのはこっちだよ!」
ユウトが案内する。
先生はゆっくり歩く。
そして。
例の場所へ。
しゃがみ込む。
石を地面へ置いた。
「さて」
先生の雰囲気が少し変わる。
空気が静かになる。
「久しぶりですな」
杖を持ち直す。
「古代探索魔法、サーチ」
杖の先が光った。かめ先生の目も淡く光っている。
ふわり。
淡い青い光。
石の模様が輝く。
「おぉぉ!」
子どもたちは大興奮だった。
◇
光が地面を走る。
するすると進む。
そして。
洞窟の奥へ。
「追いかけますぞ」
先生が言う。
みんな走った。
◇
秘密基地のさらに奥。
普段は行かない場所。
そこに。
古い石壁があった。一部が少し欠けている。
「こんなのあったっけ?」
リサが驚く。
「知らない!」
ユウトも驚いた。
先生は壁を触る。
「なるほど、なるほど」
少し魔力を流し込む。
「ほっほっほっ、ユウトくん。こないだの模様の入った石は持っていますか?その石をその窪みにはめてもらえませんか?」
「うん、あるよ!ここでいい?」
とボクは入れようとしたが上手く入らない。
「ユウト、反対!反対!」
ん?反対向きにすれば、いいのか。
すると。
カチッ。
窪みに見事にはまった。
「ほっほっほっ、ありがとう。それではもう一度、ほいっ」
また魔力を流し込む。
ゴゴゴゴ……
壁が動いた。
「おぉぉぉ!」
みんな声を上げる。
◇
中は小さな部屋だった。
棚。
壺。
古い道具。
ぼろぼろの本。
でも。
「えー、遺跡じゃないのー?」
リサが首をかしげる。
先生も少し考える。
「ふーむ」
「えー、外れかよー?」
ガンツが言う。
「かもしれませんなー、ほっほっほっ」
先生も不思議そうだった。
◇
その時だった。
ふわり。
小さな光が現れた。
「えっ?」
ユウトが目を丸くする。
光は小さい。
でもすごく優しい光。
ふわふわ漂う。
「なんだ?」
みんなびっくりして一瞬固まる。
その時ガンツはみんなの前に出て、手に持っていた棒を構える。
しかし、光はすーっと部屋の奥へ飛んだ。
◇
そこには。
一枚の古びた鏡。
誰も気にしていなかった。
光は鏡の前で止まる。
くるくる回る。
まるで。
見て見て。
と言っているみたいだった。
「かめ先生、この鏡の前で光が止まりましたよ」
ミックが言う。
「鏡……ふーむ?」
先生は近づく。
そして。
淡く光っている目を見開いた。
「まさか」
震える声だった。
「そんな……」
◇
先生は鏡へ手を触れる。
魔力を流す。
すると。
鏡が光り始めた。
淡い銀色。
そして。
鏡の中に景色が映る。
違う景色。
知らない場所。
石の柱。
大きな広間。
古代文字。
長い通路。
「えっ」
リサが固まる。
「なにこれ」
ガンツも固まる。
ミックも。
ポルンも。
ユウトも。
みんな言葉を失った。
◇
かめ先生は額に汗を浮かべながら震える声で言った。
「これは、転移鏡……」
「てんいきょう?」
ユウトが聞く。
先生はゆっくりうなずく。
「鏡の向こうに」
ごくり。
先生は息を飲む。
「本物の古代遺跡がありますぞ」
◇
しーん。
一瞬。
誰も動かなかった。
そして。
「いせきだってー!!」
リサが叫ぶ。
「ほんとにあったー!!」
ユウトも飛び上がった。
「すげぇぇぇ!!」
ガンツも叫ぶ。
かめ先生は鏡の向こうを見つめていた。
長い間。
探し続けた夢。
その入り口が。
今。
目の前にあった。
夏の冒険は。
いよいよ本当の始まりを迎えようとしていた。




