第四十話 強敵!蚊、ぶーん、また来た!
ぶぅぅぅぅぅん……。
「……また来た」
夜。
ユウトが眠ろうとするとまたやって来た。
あのいやーな音。
ユウトはタオルケットを頭までかぶって丸くなる。
しーん。
……いったかな?
そっと顔を出した、その瞬間。
ぶぅぅぅぅぅん。
「やっぱりまた来たぁ……」
耳元をかすめる。
「ひゃっ、もぅいやだなぁ」
ユウトは、またおふとんへ潜り込んだ。
夏になると現れる。小さくて。すばしっこくて。そしてかゆくなる。
蚊。苦手なあいつがまたやって来た!!
◇
朝。
「かゆぃ」
ユウトは腕を掻きながら起きた。
ぷくっと赤くなっている。
かゆい。
とても、かゆい。
ぽりぽりぽり。
「あらあら、また刺されたのね」
お母さんが薬草を塗ってくれる。
ひんやりして気持ちいい。
「なんでぼくばっかりぃ……」
ユウトは少しだけ不満そうだった。
「ユウトがおいしいのかもね」
「やだぁ」
お母さんは、くすくす笑った。
◇
その日の夜。
ボクはおふとんの中で考えていた。
うーん、どうすれば刺されないのかな?
逃げてもやって来る。
隠れてもやって来る。
とてもすばしっこくて強い。
もう刺されたくなかった。
「むむむ……うーん」
腕を組む。
でも良い考えは出てこない。
その時。
ぶぅぅぅぅぅん。
「また来たぁ!!」
ユウトは思わず叫んだ。
暗い部屋の中。
どこを飛んでるか分からない。
でも、そのぶーんという音が。
自信満々に部屋を飛んでいるように感じてまるで、
『今日も来たよ』
と言っているみたいだった。
「うぅぅ……」
眠い。
でも刺されたくない。
どうしよう。
ぎゅっと、おふとんを握った。
「助けてー、おふとん!!」
その瞬間だった。
頭の中で音が鳴る。
チャラララッラッラッララーン。
《おふとん防御スキル・蚊帳を覚えました》
「へっ?」
ユウトは、ぱちぱち瞬きをした。
「かや?」
聞いたことがない。
でも。
なんだか使えそうな気がする。
「おふとん召喚!それと、えーと、かやも!」
ぽふんっ。
すると。
おふとんが、ふわっと光った。
「おぉ?」
おふとんの周りに、薄い網目の光の幕が広がっていく。
おふとんは、まるで透明な小さなお城みたいになった。
触ろうと手をのばすけど、うまく触れない。
でもやさしい光に包まれているのは分かった。
◇
ぶぅぅぅん。
蚊が飛んでくる。
そして。
こつん。
「おぉ!」
入れない。
ぶぅぅぅん。
またしばらくして来た。
こつん。
やっぱり入れない。
蚊は、おふとんの周りをぐるぐる飛び回った。
でも。
中には入れなかった。
「すごい!!」
ユウトは目をきらきらさせた。
「これなら刺されない!」
さらに。
腕のかゆいところが、じんわり光る。
「あれ?」
みるみる赤みが消えていく。
「かゆくない!」
すっかり治っていた。
「すごぉーい!!」
◇
そこへ。
「どうしたの?」
お母さんが様子を見に来た。
「みてみて!」
ユウトは得意げだった。
お母さんが光の幕を見て目を丸くする。
「まぁ、コレどうしたの?」
「蚊が入れないんだよ!」
「本当に!?」
蚊は外を飛んでいる。
でも入れない。
ぶぅぅぅん。
ぶぅぅぅん。
どこか困っているようにも見えた。
「なんかしょんぼりしてるねぇ」
「そうだねぇ」
お母さんは笑った。
「でも、ユウトも眠らなきゃいけないからね」
「うん」
それは大事だった。
◇
ユウトは、おふとんの中へもぐり込む。
あったかい。
安心。
外ではまだ蚊が飛んでいる。
でも。
もう怖くなかった。
「えへへ」
よかった。今日は刺されない。明日も刺されない。これでもうぐっすり眠れる。
強敵だったけど。
ちゃんと勝てた。
「おやすみ、ユウト」
お母さんの優しい声が聞こえる。
「おやすみなさーい」
うにうに。
おふとんの中で丸くなる。
ぶぅぅぅん。
羽音は聞こえる。
でも、もう届かない。
夏の夜。
ユウトは安心して目を閉じた。
そして、あっという間に夢の中へ旅立っていった。




