第三十三話 わくわく、お泊まり会
夕方。
カナカナカナカナ………ケケケケケ………
遠くから鳴き声が聞こえる。
空はオレンジ色。 昼の暑さが少しだけやわらいで、風がそよそよ吹いている。
ユウトは、小さな荷物をぎゅっと抱えていた。
「ほんとに大丈夫?一人でおとまりできる?」
「うん、大丈夫!」
ユウトが、元気いっぱいに言う。
初めてのお泊まり会。ユウトは、どきどきしていた。
おうちじゃない場所で寝るなんて、大冒険だった。
◇
「いらっしゃーい」
リサママが、にこにこしながら迎えてくれる。
「こんばんは!」
ユウトは、ぺこっと頭を下げた。
すると。
「ユウトくん、いらっしゃーい」
奥から、リーナお姉ちゃんも顔を出した。
長い髪を後ろでまとめていて、夏らしい白い服を着ている。
「こんばんは!」
「今日はいっぱい遊べるね」
「うんっ!」
そこへ。
「おっ、ユウトくん来たかー!いらっしゃい」
どたどたどたっ。
リサパパもやってきた。
背が高くて、日に焼けていて、笑うとすごく豪快だ。
「こんばんは!」
「はははっ、それにしても大きくなったなー!」
ぽんぽん。
大きな手で、頭をなでられる。
「今日のお泊まり楽しんでなー!」
「うん!」
ユウトのどきどきは、もっと大きくなった。
◇
家の中は、なんだかいい匂いがしていた。
「ごはんできてるわよー」
「やったー!!」
机の上には、どんと大きな器に氷水が入った麺が入っていた。見たことのない料理だ。
「おぉぉ」
ユウトの目が、きらきらする。
「ふふふっ、ひやむぎっていうのよ。冷たくておいしいのよー」
リサママは笑った。
◇
「いただきまーす!」
ずるるるるっ。
「おいしー!!」
「冷たーい!」
冷たい麺が、つるつる喉へ入っていく。
「これ最高だなぁ」
リサパパは、大きくうなずいた。
「お父さん、食べすぎ」
リーナお姉ちゃんが笑う。
「はははっ、夏は腹減るんだ!」
「あはははっ!」
みんな、笑った。
◇
ごはんのあと。
みんなで縁側へ座った。
夜風が、気持ちいい。
「風が涼しーい」
ユウトは、足をぶらぶらさせた。
空には、星が少しずつ見え始めている。
「夏の夜って感じだねぇ」
リーナお姉ちゃんが空を見上げる。
「うん」
ユウトは、なんとなく分かった気がした。
◇
その時。
「よーし!」
リサパパが立ち上がる。
「お泊まりといえば、これだろー!」
どーんっ!!
「わぁっ!?」
大きなおふとんだった。
しかも、いっぱい。
「今日はみんなで並んで寝るぞー!」
「やったー!!」
リサが飛びこむ。
ぼふんっ。
「ふわぁぁ!」
ユウトも飛びこんだ。
ぼふっ。
おひさまで干したおふとんは、ふかふかだった。
「きもちぃぃ」
「ねぇー」
リサも、くすっと笑う。
「これ、お日さまの匂いするね」
「するー!」
◇
「でも、まだ寝ないよー?」
リーナお姉ちゃんが、にやっと笑った。
「えーっ、そうなの?」
「お泊まり会といえば、夜のおしゃべりでしょ!」
「おっ、おぉー」
ユウトは、さらにどきどきした。
部屋の灯りが少し暗くなる。
外では虫の声。
ジリリリーン。ジリリリーン。
◇
「こないだねー、ユウトがねー」
リサが、ころころ笑いながら言う。
「かき氷で三回きーんってなってた!」
「あははははっ!!三回も!?」
リサパパが、大笑いする。
「だって食べたかったもん!」
「あははっ、それで痛くても食べてたんだね」
リーナお姉ちゃんが笑う。
「おいしかったから!」
「それは仕方ないなぁ!」
また、みんな笑った。
◇
でも。
いっぱい遊んで。いっぱい笑って。いっぱい食べたから。
だんだん。
まぶたが重くなる。
「ふぁぁ」
ユウトが、小さくあくびする。
「ねむい?」
「うん、まだまだへいきぃだよぉぉ」
うとうとしながら答えた。
「あははっ、もう眠そうね」
リーナお姉ちゃんが、くすっと笑う。
「だなぁ。よし、みんなで寝よう」
リサパパも小さく笑った。
◇
気づけば。
ユウトも。リサも。
すやすや眠っていた。
おふとんもきもちいい。
外では、夏の虫が静かに鳴いている。
やさしい風が窓から入ってくる。
夏の夜は、ゆっくり更けていった。




