第三十二話 あたま、きーん
今日もおひさまはサンサンと輝いていて。
みーんみんみんみんっ!!
セミの声が、いっそう暑さを呼んでくる。
「あついぃ」
ユウトは、縁側へぺたんっと倒れこんだ。
「とけるぅ」
リサも、ごろんっと転がる。
わんわんなんて、もう完全に伸びていた。
「わふぅ」
べろーん。
暑い夏である。
◇
からん。
その時。
「はいはい、冷たいお茶を持ってきたわよー。今年流行ってるらしいのよー。みんな、飲んでー」
リサママが、お盆にコップを載せて持ってやってきた。
「わぁっ!」
竹のコップの中には、薄い緑色のお茶が入っていた。
氷が、からんっと鳴る。
「つめたーい!」
「冷茶よ」
リサママが、にこっと笑った。
「いっぱい遊んだからね」
◇
「いただきまーす!」
ごくっ。
ごくごくっ。
「――はぁぁぁ」
ユウトの顔が、とろけた。
「おいしー」
「つめたーい!」
リサも、幸せそうだった。
冷たいお茶が、火照った身体へ、すーっと入っていく。
風が、ふわっと吹いた。
はぁ、涼しい。
「なんか、生き返るねぇ」
「ねぇー」
◇
からんっ。
ユウトは、コップの中をのぞきこんだ。
「これ、なぁに?」
「氷よ」
「こおり?」
「そう、氷。お水から作るのよ」
「おみずから?」
ユウトは、びっくりした。
「そうよー」
リサママは、くすっと笑う。
「どうやって作るの?」
「魔法の紙を使うの」
「まほう!」
ユウトの声に驚いたのか、わんわんの耳が、ぴこんっと立つ。
◇
リサママは、じゃーん。と小さな紙を取り出した。
不思議な模様が、うっすら描かれている。
「これがね、水を冷たい氷に変える魔法の紙なの」
「おぉー」
ユウトは、じーっと見つめた。
リサママは、水の入った木の器へ、その紙をぺたりと貼る。
「――氷化」
ぽわっ。
淡い青い光。
「わぁ」
すると。
みるみるうちに、水の表面が白く変わっていく。
ぴしっ。ぴしぴしっ。
「かたまった!!」
本当に、水が氷になっていた。
「すごーい!!」
「わふっ!?」
わんわんまで、びっくりしていた。
◇
「そしてね」
リサのお母さんは、縁側の隅から大きな箱を持ってきた。
木でできた少し大きな箱。
扉もついている。
「これは?」
「これでね、氷をふわふわにするの。かき氷っていうらしいわ」
「かきごおり!」
ユウトは、もうわくわくだった。
リサママは、出来た氷を中へ入れ、魔法の紙をペタリと貼る。
「じゃあ、いくわよー。――雪化」
ばりっ。
ばりばりばりばりっ。ぱりーん。
しゃらしゃら。しゃらしゃら。
「おぉぉぉ!!」
扉を開けると中から、白いふわふわが出てきた。
さらさら。ふわふわ。
まるで雪だった。
「ゆきだー!!」
「夏なのにー!!」
お皿の上へ、小さな雪山ができていく。
◇
「ボクもやってみたい!!」
目をキラキラさせながら、ユウトは身を乗り出した。
でも、リサママは困ったように笑う。
「ごめんねー、この魔法の紙を使うにはルールがあって、もう少し大きくなったらね」
リサママは、ユウトの手を取ってぎゅっと握った。
「ユウト、安心して。私もまだだから」
そうか、リサもまだなんだ。
「でも、いつか使えるようになるんだから、今は食べるの楽しみましょ!」
そうだ、今はこのいっぱいある雪を食べてみたい!
ふわふわしてるのかなー?どんな味かなー?
「うん!!」
ユウトは、もう食べるのが楽しみでいっぱいだった。
◇
「リサもやるー!」
リサが自分のお皿に雪を盛る。
「あっ」
勢いが強すぎた。
どさぁっ!!
「わぁっ!?」
雪が、お皿からあふれた。
「あはははっ!!」
「おやまになったー!」
わんわんは、その雪山をじーっと見ている。
鼻が、ぴくぴく動いていた。
◇
「じゃあ、月林檎をかけましょっか」
とろーりと薄い黄色の密をかける。
「わぁぁぁ」
密がかかった氷の部分がゆっくり溶ける。
ユウトたちは、目をきらきらさせた。
「ボクもボクも!」
「わたしもわたしも!」
「わんわんは?」
「わふっ!」
「わんわんは特別に雪だけねー」
ぺろっ。
「わふっ!?」
冷たかったらしい。
びくぅっ!
「あははははっ!!」
◇
「いただきまーす!」
しゃくっ。
ユウトは、大きくひとくち食べた。
ふわっ。
冷たい。
甘い。
お口の中で、すぐ消えた。
「おいしー!!」
「ふわふわー!」
リサも、夢中でもぐもぐしている。
しゃくしゃく。しゃくしゃく。
夏の音だった。
◇
でも。
「――きーんっ!!」
「あだぁっ!?」
ユウトが、急に頭を押さえた。
「どうしたの!?」
「なんか!あたま!いたい!」
リサママが、くすくす笑う。
「冷たいのを急いで食べるとなるのよ」
「きーんってしたぁ」
じーん。
ユウトは、変な顔になっていた。
◇
「リサもやる!」
しゃくしゃくしゃくっ!!
「あっ」
「――きーんっ!!」
「いたぁぁぁいっ!!」
「あははははっ!!」
今度は、リサだった。
二人そろって頭を押さえている。
「なんで痛いのに食べちゃうんだろうねぇ」
リサママが笑う。
「おいしいから!」
「ねーっ!!」
でも。
また食べる。
しゃくっ。
「――きーんっ!!」
「またなったぁぁ!!」
「ぎゃははははっ!!」
◇
わんわんは、不思議そうに見ていた。
「わふ?」
ぺろっ。
「わふぅぅっ!?」
また冷たかった。
今度は、ぷるぷる震えている。
「あはははっ!!」
ユウトたちは、お腹を抱えて笑った。
◇
やがて。
かき氷は、全部なくなった。
「はぁー……」
ユウトは、縁側へごろんっと寝転がる。
お腹の中が、ひんやりしていた。
「つめたかったねぇ」
「おいしかったぁ」
リサも、ごろんっと転がる。
わんわんも、ぺたーっと伸びていた。
みんみんと、セミの声が遠くから聞こえる。
冷たいお茶。魔法で作った氷に雪。ふわふわのかき氷。
暑い夏なのに。
なんだか、とっても涼しかった。




