第三十一話 竹とんぼ
じりじり。
夏のおひさまが、村をぽかぽかにしていた。
みーんみんみんみんっ!!
セミの声が、空いっぱいに響いている。
空は高かった。白い雲が、ゆっくり流れている。
リサのおうちの縁側には、おひさまで干したおふとん。
ふかふか。ちょっとだけ暑い。
「うにぃ……」
リサが、おふとんへ顔をうずめる。
「きもちぃぃ」
その横で、ユウトも、汗をかきながらごろんっと転がった。
「あったかいけど、きもちいいねぇ」
「ねぇー」
おひさまの匂いがした。
わんわんは、おふとんの端っこへあごを乗せている。
ぱたん。ぱたん。
しっぽだけ、のんびり動いていた。
◇
からん。
その時。
「ただいまー」
リーナお姉ちゃんが、細い竹を抱えて帰ってきた。
「あっ、リーナお姉ちゃん!」
「なにそれー?」
リサが、ぴょこんっと起き上がる。
「裏山のおじいちゃんにもらったの。竹とんぼ作れるんだって」
「たけとんぼ?」
ユウトの目が、きらぁっと光った。
「知らないの?空をとぶのよ!」
「そうそう。くるくるーって飛ぶの」
リーナお姉ちゃんは、縁側へ座る。
「よし、これからみんなで飛ばしましょ!」
「「うん!」」
夏の風が、ふわっと吹く。
みーんみんみんみんっ。
セミは、まだ元気だった。
◇
「おそら、あおいねぇ」
ユウトは、ぼーっと空を見上げる。
本当に青かった。
夏の空。
高くて。まぶしくて。なんだか、どこまでも続いていそうだった。
「今日はすっごく高い空だよ」
リーナお姉ちゃんが言う。
「雲まで飛んでいきそう」
「じゃあ、くもさんまで飛ばす!」
リサが元気いっぱいに言った。
「ボクも!」
「わふっ!」
わんわんまで、やる気だった。
◇
やがて。
「よし、どれがいい?」
三つの竹とんぼが並んだ。
少しずつ形が違う。
でも。どれも、ちゃんと羽がついていた。
「ボクはこれがいい」
ユウトは、少し小さめの竹とんぼをそーっと持ち上げる。
竹の匂いがした。
わんわんは、その竹とんぼをじぃーっと見つめている。
耳が、ぴこんっと立っていた。
「わんわんも気になるの?」
「わふっ!」
◇
「じゃあ飛ばすよー!」
リサが、竹とんぼを両手でぎゅっと持つ。
「えいっ!」
くるっ!!
ぴゅるるるるっ!!
「わぁぁっ!!」
竹とんぼは、夏の空へ飛んでいった。
でも。
「わふーーっ!?」
次の瞬間。
わんわんが、だだだだーっと走り出した。
「あっ!」
「追いかけた!」
お庭を、ものすごい勢いで駆けていく。
ぴょんっ!ぴょんっ!
でも。
竹とんぼは、風に乗って逃げていく。
「あははっ、がんばれー!」
リサが、大笑いしながら手を振った。
ユウトも、ぴょこぴょこ跳ねる。
「わんわーん!」
◇
その時。
くるっ。
竹とんぼが、急に向きを変えた。
「あっ」
今度は。
わんわんのほうへ、ひゅるるるっと落ちてくる。
「わふっ!?」
びっくり。
わんわんは、今度は逆方向へ、だだだだーっと逃げ出した。
「あははははっ!!」
リサが、お腹を抱えて笑う。
「追いかけてたのに逃げたー!」
「わふぅぅ」
わんわんは、耳をぺたんとさせながらユウトの後ろへ隠れた。
でも、しっぽはぶんぶん振っている。
◇
ぽとっ。
竹とんぼが、草の上へ落ちた。
ユウトは、しゃがみこんで拾う。
「だいじょーぶ?」
「くぅーん」
わんわんは、なんだか困った顔だった。
怖かったのか。楽しかったのか。
自分でも、よく分からないみたいだった。
リーナお姉ちゃんが、くすっと笑う。
「わんわんも飛びたかったのかな」
「おそらいきたい?」
「わふっ!」
「いきたいってー!」
◇
ふわっ。
夏の風が吹いた。
草が、さわさわ揺れる。
みーんみんみんみんっ。
セミの声。
遠くでは、風鈴がちりんと鳴っていた。
みんな、草っぱらへごろんっと寝転がる。
空は、どこまでも青かった。
「この竹とんぼにね」
リサが、竹とんぼを見ながら言う。
「夢をのせるんだよ」
「ゆめ?」
ユウトは、首をかしげる。
「うん。飛んでけーってするの」
「おぉー」
「じゃあ、わんわんの夢は?」
「わふわふっ!」
「おにくいっぱいだって!」
「またそれー?」
みんな、大笑いする。
◇
リーナお姉ちゃんは、空を見上げた。
「でも」
ふわっと髪が揺れる。
「夢って、飛ばすと叶いそうな気がするね」
ユウトも、空を見た。
高かった。
まぶしかった。
夏の空だった。
「ボクはねぇ」
「うん?」
「みんなで、おひるね」
リサが、にこっと笑う。
「ぷっ。それユウトらしい、いい夢ね」
「わふぅ」
わんわんも、安心したみたいに寝そべった。
◇
「じゃあ最後、いっしょに飛ばそっか」
「うんっ!」
「わふっ!」
三人は並んで、竹とんぼを持つ。
せーの。
くるっ!!
ひゅるるるるっ――。
竹とんぼが、夏の空へ飛んでいった。
くるくる回って。風に乗って。白い雲のほうへ、ふわふわ飛んでいく。
まるで、小さな夢みたいだった。
わんわんは、もう追いかけなかった。
ただ。
みんなと一緒に、空を見上げていた。
みんみんみんみんっ。
夏が、のんびり鳴いていた。




